Episode-24.愛する者達のために
「………どうですか、何もかもが一番下だった末っ子に、追い込まれる気分はっ………!」
上がる息を抑えながら、はやる気持ちも一緒に抑え込む。
姉達を屈服させるまでに至った自分を、思い切り撫で回してやりたい衝動に駆られてしまった。
「っ………か、っかか………」
「ふ………ふふふっ、面白い、面白いぞ………っ」
ふらふらと立ち上がり、寸でのところで取り繋ぐ、ぼろぼろの獣神達。
それに対し、桜は息を荒げるだけで、足もしっかりと地に着いている。
端から見てもどちらが優位かは一目瞭然の状況に、誰でもない桜本人が、自らの覚醒を心底驚いていた。
「………これで、この程度でアタシ達を追い詰めたつもりかよ………? まだまだこれからだろぉがあっ!!」
雄叫び、意識を奮い立たせるココのその顔は、急遽現れたダークホースの登場により狂喜に歪み、不気味な輝きを放っている。
「………無理をしても、自分の首を絞めるだけです。諦めて降参してください」
「なん、だとぉ………っ!!」
「………っ………ふふっ、解った。ここまで善戦した君に敬意を表して………使うつもりじゃなかった"とっておき"の技を見せてあげるよ………」
覚束ない手元で扇子を前に掲げ、"青く輝く粒子"を展開し始めるマミ。
霧のように濃く広く、桜の目の前に仁王立つ、壁のように現れた粒子状のアニマは、透明に輝く数十、数百もの数えきれない数の"水晶玉"をその中に生み出した。
「っ………これは………!」
「ーーーー共鳴、第四之術『明鏡止水』っ!!」
勝利を確信したような、余裕の笑みによる詠唱と共に、水晶玉が桜目掛けて一直線撃ち出される。
「ぅ!? くっ!」
何とか初手の一撃を辛うじて躱すも、それだけで終わるほど甘い彼女ではない。
タイミング、パターンを変えながら、凄まじい速度で飛んでくる水晶玉。その勢いに圧倒されながらも、時に躱し、時に切り伏せ、全てを紙一重で避けていく。
外れた玉が石畳を抉り、鈍く轟音が鳴る度に、桜の額から汗が溢れ落ちた。
「………この術はその名の通り、術者の実力を一点の曇りもなく現す………君ならこの意味、分かるな?」
「マミ姉のアニマの分だけっ………"水晶"の数が、増えるっ!」
上に、下に、右に、左に。
刺し傷から響く痛みをこらえながらも、全身止める間なく、動き続ける。
この愛刀"緋桜"で、かなり斬り付けアニマを消耗させてやった、と、高を括っていたものだが、やはり彼女らのアニマ量は侮れない。
ここまで追い詰めても流石のクオリティーを見せつけてきていた。
「………っぐぅ! このっ!」
「うふふっ!………さあ、逃げ回れ! その力果てるまでっ!!」
「………おあいにく、持久力は持ち合わせてないので………一撃で、決めますっ!」
桜色の粒子が彼女の全身を包み込む。
刹那、桜の動作が格段と速さを増し、苦戦していた高速水晶も難なく躱せるようになっていた。
「………っなっ!?………嘘、だろ………?」
「あ、あり得ねぇ! 幾らマミが消耗してるとはいえ、こいつの"五大術"だぞ!?」
姉達の絞り出した余裕が驚愕に変わるとき、桜は"勝利の道"が切り開く音を感じ取っていた。
ーーーー見える、今まで真っ暗だった奇跡への道が、はっきりと目の前に『敷かれて』いる。
「やあっ!」
快感にも似た確信を押し殺し、蒼いアニマの壁を打ち抜いた桜は、その勢いを殺さずにマミに斬りかかった。
肉を断裂する感覚が心地好いほど手に残る。致命傷は必至、下手すれば命を奪いかねない一撃をマミに与える。
「くっ、あああぁっ!!」
今ならば、死戦を好む狗太やココの気持ちが、理解できる。
強敵が痛みに顔を歪ませ、膝から崩れ落ちる。これに勝るエクスタシーなど、存在するのか、否ーーーーしない。
この力、彼女らを圧倒するまでに至る力をくれた全てのものに感謝をし、最後の詠唱を詠み上げた。
「緋桜流"神速"の型・"霞"、『迅』っ!!」
膝を突いて痛みに苛まれるマミの心臓を狙い、全力で突きを放つ。
アニマは血液と同じく、心臓部で大量に作られるため、そこを突くだけでマミの行動は大幅に削られる。
唖然とココが助けようと動き出すが、今の彼女の立ち位置では到底不可能。絶対の勝利を胸に秘め、刀を前に、突き出す。
ようやくだ、ようやく姉にーーーー
ーーーーーーーー勝った
「………準備完了っ! はぁい、夢うつつはここまでっ」
胸を貫いた筈の刀身が、マミの扇子によって意図も容易く止められて。
目を見開いた時には、全身を襲う凄まじい衝撃と共に、体が石畳を転がっていた。
「っ………ぁ………?」
転がるに転がり、壁に叩きつけられ、何が起こったのかも分からなくなる、桜。
叩きつけられた衝撃によって塞がりかけた刺し傷が再び開き、鋭い痛みが全身に走る。
しかし、そんな痛みが気にならなくなるほど、彼女は驚き戸惑い、困惑を隠せずにいた。
「………うふふふっ、あははははっ! 面白いほど上手く引っ掛かってくれたなぁっ!!」
腹を抱えて涙を浮かべ、マミは狂ったように笑い狂う。
先程まで痣だらけだった筈の顔や体は綺麗さっぱり無くなり、破けていた巫女服も元通り彼女の体を包み込んでいた。
「そ、そん、な………さっきまで………」
「かっかか、ボロボロだったのに、ってかぁ? ところがどっこい、そんな上手く事が進む訳ねぇだろ」
マミの隣で嫌らしく嗤うココも例外ではなく、袴や体の外傷が全て元通りになっている。
「私達は"狐"と"狸"。あなた一人を『化かす』ことなんて、朝飯前だ」
「つまり、お前が見てたのは『幻覚』。気持さそうに"幻"のアタシ達を切ってたみたいだけど、ちゃんと考えりゃ分かったんじゃねぇのか?」
突然に、全てが覆った現実を、なんの前触れもなく、突き付けられる。
ずっと、彼女達に化かされていたーーーー?
いつから? どうやって?
あの手応えも、確信も、ご主人を傷つけられた怒りも、全てが彼女達の手によって"創られる"ために、利用された?
混乱する桜を更に陥れようと、
にやりと怪しく口の端を持ち上げ、何の躊躇いもなく言い放った。
「………お前がアタシ達に勝てる訳、ねぇだろ」
心臓が大きく波打ち、悲鳴をあげる。
負け。私が、負けたーーーー
ーーーー違う。
「………私の手には、マミ姉を斬った感触が………っ………残って、ます」
「アニマの濃度を調整すれば、個体なんて幾らでも生み出せる」
ーーーー違う、違う、違う。
「………マミ姉の"明鏡止水"の攻撃は地面を抉ってた………それにっ、私はあれを完全に………躱し切った………」
「お前に見せてた幻覚と、同じ場所に水晶を放ってやっただけだっつの。要はお前の振り回した刀に当てて、それ以外は明後日の方向に流してやりゃいーんだからな」
ーーーー違う、違う違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
絶対に認めてはいけない、認めてしまえば………
彼女達との埋められない圧倒的な力の差を、認めることになる。
あの時と何も変わらない、誰も助けられない弱い自分を、認めることになる。
「それじゃ………駄目、駄目、なの………」
震える手で額を押さえ、じわじわ侵食してくる『何か』を必死に振り払おうとするも。
それが成されるまでの暇は、ただただ空しく現実を呼び寄せただけだった。
「目を逸らそうとしても無駄、現実は決して覆らない。あなたは化かされてーーーー負けた」
「違うっ! まだ………まだ負けてないっ!!」
無理矢理立ち上がり、がむしゃらにマミに斬りかかっていく桜。
冷静さは尽き、剣筋も以前の彼女からは想像もできないほど乱れたものに成り果てている。
それはあまりにもお粗末な、単調過ぎるもので。例え彼女達でなかろうとも、見切るのは容易いものだった。
「………醜いな、勝てないからって無茶苦茶やって、自棄になるのか?」
「煩い、煩い煩い煩いぃっ!!」
「………はぁ、見てらんねーな………っとぉ!」
マミを討ち取ることばかりに気を取られる桜が、横から迫るココの存在に気づくことが出来る筈もなく。
彼女が生み出した火球をもろに喰らい、牢獄の壁に向け、再び吹き飛ばされた。
燃え盛る業火が纏うブレザーの左腕部分、左腕に巻いた包帯までをも優に焼き切り、彼女の肉の焦げる臭いがたちまち辺りに立ち込める。
「あ、がぁっ、ああぁあっ!!」
焼けた腕を庇い、痛みに身を捩る。
焼ける痛み故か、それとも、自分自身の弱さ故か。涙が止めどなく流れ落ち、次々と石畳を濡らしていく。
もう、涙を拭く力さえも残っていない。抵抗などもっての他だ。
「…………っぁ、う、ぁぁあ………っ」
「………また、守れなかったな。守るべき人を、ご主人を、守れなかった………まあ、無理もねぇよ。お前はどうしようもなく、"弱い"んだから」
何も言い返せず、否、もはや言葉を発する気力も残っていなかった。
今の桜には、ただただ項垂れて、涙を流すことしか出来なかった。
「………ぅ、うぅ………」
「………さぁ、楽しかった時間もそろそろお終い。いくら敵とはいえ、可愛い妹なのには変わりはないーーーーから、せめてもの冥土の土産よ………ほら、こっちに来なよ」
マミが振り向き、呼んだ視線の先にはーーーー目から光を失った、無愛想な真顔を湛える少年。
「ーーーーっ………そ、そん、なぁっ………」
濡れる瞳でも見間違うことはないーーーー愛するご主人、神城達也が、マミの隣で歩を止める。
無表情で冷たく桜を見下ろすその姿はまるで別人のようで、酷く恐ろしかった。
「君が化かされている間、彼には"洗脳"を施した。時間が短かったから簡易的なものだけれど………"これからする命令"位はやり遂げてくれるだろう」
「つまり、これからお前は、『ご主人』のこいつの手によって葬られるって訳。こいつを守れなかった弱いお前には、勿体無さ過ぎる良い最期だろ?」
「………そんな、嘘っ………ご主人っ………」
泣き暮れる桜を、無理矢理引っ張り起こす達也。
最後まで洗脳に抗い、唇を強く噛み締め、噛み切ってしまった痕が痛々しく残されていた。
「………………」
無表情を崩さぬまま、淡々と彼女の体を壁に押し付け、両手を桜の首へ伸ばしーーーー力の限りに絞め上げた。
「がぁっ………あ、ぁぁ………っ」
気管を圧迫され、呼吸が強制的に遮断される。
反射的に自分の首を絞める達也の手首を掴み、外そうと試みるも、満身創痍の桜に彼の拘束は重すぎた。
手から段々と力が抜け、視界は涙と酸欠で霞み、刻一刻と見捉える達也の顔が色褪せていく。
「ぁ………ぅ………」
真っ白に成り行く頭。開いた刺し傷、火傷の焼けつく痛み、身体中のありとあらゆる痛みが気にならなくなった時、桜は身に起きていた"不思議"を感じ取った。
"呼吸が一切出来ない"というのに、それによる『苦しさ』が、全くーーーー無い。
愛するものに最期の一手を打たれる。パッと見ると一番嫌な終わり方なのかも知れないが、
彼女は、そうは思わなかった。
ーーーーだったら、今を変えるためにその苦しみを俺にも背負わせてくれ。絶対に一人で抱え込むなーーーー
ーーーー色々言いてぇが、これだけは言っておくぞ、犬………こいつは………桜は、"他人"じゃねぇ………"家族"だ。桜を捨てたテメェらが、今更どうこう言ってくんじゃねぇよーーーー
ーーーー俺は………お前に、いや、桜に誓うよ。桜にちゃんと向き合って、どんなことからも逃げないで、桜の側で、桜の希望を………きちんと叶えてやるってーーーー
いつでも、こんな走馬灯のようなものでも。
やっぱり、思い出すのはご主人の言葉ばかり。
それならば、完全なる敵意の塊に殺されるより、こっち方がずっと、よっぽど良かった。
ご主人、こんなことをさせて、ごめんなさいーーーー
そして………ありがとう、ございますーーーー
後悔は、しない。逃げてばかりの生き様に終止符を打つ時が、たまたま今日だっただけなのだから。
瞳から最後の一滴を、達也の手に落とし。
リビングで、初めて彼と出会った時の笑顔を弱々しく浮かべながら。
桜は自分の命をーーーー
「………いい加減にしなさいよ、この馬鹿達也がぁっ!!」
叫びながら現れた、見覚えのある謎の影が、桜の首をつかむ達也の腕を強引に引き離し、彼の鼻っ柱に唸る拳を叩きつけた。
後ろでまとめたサラサラのストレートヘアが、反動で左右に激しく揺れていた。
「っぅ!? がっ、げほっ、げほっ!!」
達也の手から抜け出せた桜は、"諦めた"筈の呼吸を急かす肺に驚き、思わず咳き込んでしまう。同時に視界が色を取り戻し、辺りを鮮明に捉えられるようになった。
解放されたというのに、まともに呼吸が行えない。
反射的にうずくまり喉を手で押さえる桜は、豪快な音をたてながら地面を転がるご主人を横目に、息を荒げていた。
「大丈夫!? 桜ちゃん!!」
酷く慌てたように駆け寄るもう一人の少女。ミディアムヘアをサイドテールにして肩にかけるその姿には、やはり覚えがあった。
「………はぁっ、はぁっ………れ、麗奈さんと、楓、さん………どうして………?」
「………良かった、とりあえず、命に別状はないみたいだね」
優しく桜を抱き起こし、壁に寄りかかるようにして座らせる。
突如として湧き出す安心感から、今にも気を失いそうになるが、楓の手を握りしめ、何とか気を取り持たせた。
「おいおい、誰だよテメェら………人間、か………?」
「………へぇ、人間にしては結構なお手前………いや、ひょっとして、貴女達も"持ってる"のか?」
乱入してきた達也の幼なじみ達を警戒し、身構えるマミとココ。少なからず動揺もしているようで、すぐに襲撃を仕掛けようとはしなかった。
「………な、何故お二人が、ここに………?」
「狗太君と美兎ちゃんから、訊いたんだよ」
まあ、あれは脅しにも近かったけど、と照れくさそうに紅潮する楓。
この場面でその表情、その選択は明らかに間違えている。
「………あの子達、『達也と桜は、全人類を滅ぼそうとする獣神と、命を懸けて戦ってる』って、言ってたわ……………あなた、"戦ってる"なんてこと、私達に一言も言わなかったわよね。何故隠したの?」
マミとココの攻撃を用心しつつ、背を向けたまま訪ねる麗奈。
その背中は何故かとても大きく見え、任せられる訳がないのに、思わず頼ってしまいそうになる。
「………ただの人間のあなた達に、アニマを持つ獣神の相手は不可能です………わざわざ死地に巻き込むような真似、出来るわけ………」
「それを言うなら、無知の方が危険だと思わない? もし、知らないままこうやって獣神達に接触してたら、それこそ対処のしようがないでしょ?」
「それに………幼なじみが命懸けて戦ってるのに、私達だけ蚊帳の外って訳にはいかないの。例え戦えなくたって、あなた達のために出来ることを探すわよ」
凛と力強く言い放つ麗奈、楓を見ても彼女を肯定するようににっこりと笑うだけだった。
やはり、桜よりも遥かに長い、十数年もの時を達也と共にしてきただけあり、彼のことに関しては酷く敏感になっているようである。
達也が酷く鈍いだけあり、その感度は恐らく、桜では計り知れないものになっていることだろう。
「………っ、てぇ………っ! 何で鼻血が出てんだよ………っぅ、くそっ、一体何がどうなって………」
鼻血が溢れる鼻を押さえ付けながら、ふらふらと起き上がる達也。今の衝撃で洗脳は解けたらしく、目には光が宿り、その顔に感情を取り戻していた。
不服そうに顔をしかめる、ぶっきらぼうないつものご主人が帰ってきていた。
「よ、かった………っ………ご主人………っ」
あまりの安堵に、出し切った涙がもう一度涙腺を通り視界を歪ませる。
一度は諦めた命だったが、やはり、"本能"はそう簡単に達也から離れることを許してくれない。
頭では分かっていても、
心がそうさせてくれない
「………っ!? 桜! 大丈夫か!?」
咽び泣く桜の声を聞きつけ、彼女に駆け寄る達也。
呆れ返るマミとココの横を脇目振らず通り抜け、壁に寄りかかる桜を肩を優しく掴み寄せた。
「っ、お前………あれだけ無茶すんなっつったのに………」
「………ご主人のせいも、若干数含まれてるんですけどね………」
以前美兎から死ぬほど叩き込まれた"応急治癒術"を桜に施しながら、怒りを堪えるように歯を食い縛る。
その怒りは、自分を傷付けた姉達に対してか、無茶をして満身創痍の自分に向けてか、あるいはその両方なのか。どれも定かではないが、どれも全て、彼に当てはまってしまっていることだけは、その場にいる者全員が理解することができた。
激しい怒りを全身にたぎらせ、どうしようもない天才策士達を鋭く睨み付けた。
「楓と麗奈への説教は後回しだ。とりあえず、佳祐叔父さんに代わってお前達をーーーー説教してやる。俺と桜の拷問の分、きっちり返してやるから覚悟しな」
ようやく自由になった手足の軽さを確かめるように、自身の武器、"龍聖"を大きく弄ぶ達也。
暫くの間、空気に置き去りにされていた彼女達は、思い思いにあくびやら伸びを行った。待ちくたびれすぎたのか、そこに緊張感はなく、完全にゆるゆるモードへと移行していた。
「………そろそろ潮時だろうから訊いておくけど。君、本当に私達に勝つつもりか?」
「だとしたらやめておいた方がいーぜ。あんたは憔悴、桜は戦闘不能………やろうってんなら、そっちに勝ち目ねぇけど、それでも良いのか?」
ーーーー確かに。
実際問題、こうしている間も痛みは休まず達也を苦しめる。治癒術をかけたとはいえ、桜も肉体的に収まらず、精神的にもかなり追い詰められていた。
彼女達の言う通り、こちらの戦力は大幅に削られている。
麗奈と楓のことも加味すれば、ほとんどがあちらに流れたと考えた方が良かった。
しかし、
そうだったとしても、諦めるよりはマシ。
戦い続ける限り、勝機は決してなくならない。
それにーーーー
「………戦闘不能、ですか………全く、見くびられたものですね」
施した治癒術が効き、難なく立ち上がって"緋桜"をその小さな掌に持ち直す、一匹の黒猫勇者。
心強い味方の登場に、達也はふっと短く笑みを溢す。
ーーーー彼女がいさえすれば、勝機なんてもの、勝手に上がっていくのだから。
「………麗奈、楓、早くこっから逃げろ。ここからはーーーー俺達の戦いだ」
「こういう状況ですから、はっきり言わせてもらいます。ここにいられても戦いづらいだけです。あなた達を庇いながら戦えるほど私達に余裕は無いですし、姉達はーーーーそんなに弱くもありませんから」
「でもっ、………っ………分かったわ、ただ、絶対にーーーー」
「生きて、生きて帰ってくるんだよ!?」
最後まで自らの心配をしなかった、馬鹿で愛しい幼なじみ達を背中で守り、見送りながら、刀を力一杯握り締める。
勝たなくてはいけない理由がまた一つ、増えてしまった。
「………当たり前だっての」
佳祐叔父さんのため、桜のため、全人類のため。
そしてーーーー幼なじみのため。
「………行くぞ………さっさとこの戦いに、決着をつけてやる」
次回予告
化かし、化かされ、欺き、欺かれた戦いに、
決着をつける時が、迫る




