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12の奇跡はアニマが導くっ!!     ~拾った猫が美少女に変身する奇跡~  作者: Local
第ニ章~夏休み、それは恐怖の時間ですっ!!~
22/36

Episode-21.地獄の幕は開く.ー後ー

R-15、注意です

 





「………す、すいませんでした、ご主人。私、マタタビの配分間違えちゃって………め、迷惑かけてしまって………」



 どうやら桜は、酔っぱらっていた時の記憶が残ってしまうタイプらしく、マタタビが切れた後にも関わらず顔を真っ赤に染め上げていた。


 彼との距離を十分に空け、もじもじと恥じ入る"清純桜"の姿、酔いに酔った"誘惑桜"に負けず劣らずの『込み上げるもの』が彼を襲っていたのだが。


 閑話休題。


 とにかく。



「ま、まあ、しょうがねぇだろ。次から気を付けりゃ良いことだ」


「うぅ、やっぱりご主人はお優しい………でも、一番キツいのは私なんですよ………」



 頭を抱えて悶える桜。激しく揺れる尻尾がその羞恥の度合いを表していた。



「何故覚えてるんだろう、何故覚えてしまうんだろう………もうやり直したい、人生、いや、獣生やり直したい………」


「誰が上手いことを言えと、てかそんなに上手くないし」


「せめて、せめてこの記憶を無くせたら………私の獣生最大の失態です」


「なら何故マタタビ入れたし」



 そう聞くと、フッと短く息を吐き、ドヤ顔をこれまた憎らしい位堂々と浮かべる。



「………ご主人は詰めが甘いです。酔っている時の記憶が残っているということは、最高潮の時の快感も覚えているということ………止められる訳ありませんよ」


「ドヤることでも何でもないな」



 いつもの桜、やはりこちらの方がしっくりくる。桜がボケて、達也がツッコむ、この何気ない会話が一番楽しかった。



「そして、私が酔ってるときって第五感が冴え渡るんですよね」



 不意に真剣な表情になって、話を振る桜。急に真面目になられるとツッコむタイミングが分かりづらくなってしまう。



「………は? 何を急に」


「普段の私より敏感になるから、『普段の私では気付けないものに、気づくことができてた』んです」



 その言葉の"真意"に気づくことができた時には、既に桜の足が止まっていた。



 達也と桜の目の前には………この山、"天昇山"の獣道の行き止まり。


 辺りを包む巨木よりも高い崖の行き止まり、そこに大きく空いた"洞窟"の入り口には、腕を組み、見るものを抑圧するような雰囲気を身に纏う、"一匹"の少女の姿があった。



「………よぉ、久し振りだなぁ、マタタビ娘」


「………"尾行"、お疲れ様ですココ姉」



ーーーーそう、もう、出会ってしまった。


 クセのある、狐色の長い髪を纏めた三つ編みポニーテール、切れ長の狐目、動きやすいように調節された、鮮血の如く紅い袴。


 そして何よりも異彩を放つ、三角耳と、太く長くふさふさとした尻尾。



 狐ーーー人を化かすといわれる、その獣はーーー











「………ちっさ」



 180センチを越える達也の胸まで、届くか否かのレベルの、可愛らしい小さな"幼女"だった。



「て、テメェっ! よくも人が気にしていることぉ!! 一応初対面だぞ、この無礼者!」


「………すみませんココ姉、ご主人デレカシーなくて………」


「だって見ろよ桜、あいつめっちゃ小さいぞ………140ねぇんじゃねえか?」


「あるわボケェ! 144.7だ、バーカ!! その目は飾りか!!」


「ミリ単位までこだわるか………」



 常にフルスロットルで叫び、怒りを露にする幼女ココ。先程までの腕組みの威圧はどこへやら、幼女が喚く微笑ましい雰囲気に。


 本当に彼女が桜や狗太こうた美兎みゅうを越える獣神なのか。疑問が膨れ上がっていく。



「人間ごときの低俗が、アタシをコケにする気かよ………? 良い度胸じゃねぇか、コラ」



 しかし、相手が獣耳と尻尾を携えている以上、人間が到底生み出すことの出来ない殺気を自分に向けている以上、油断することはできない。


 気を引き締めてかからないと、痛い目をみるのは自分。彼の経験則も、悪い方面だけ冴え渡る第六感も、そう教えてくれていた。



「………おいおい、随分上から物言ってくれるじゃねぇか。生憎と、こっちはガキ殴るようなアブノーマルな趣味、持ち合わせてねぇんだ。大人しく家に帰ってねんねしとけよ」


「くっ………かっかっかっ、良いねぇ、良いねぇそのタンカ。やる気出してくれたのかぁ? そりゃありがてぇ、だってよ………」



 ギロリと向けた瞳が物語る鋭い殺気はーーーー小さい幼女体が持つそれを、遥かに上回るものだった。



「興醒めして勝手に背中向けようもんなら、テメェの首ーーーー今頃地面に落ちてんぜ?」



 途端に走る寒気。身体中に鳥肌が立ち、冷や汗が吹き出してくる。予想以上の実力差、そのアニマはまさに荒れ狂う"嵐"のように、狗太と美兎を軽く凌ぐ、激しさ。



「へぇ、そりゃ面白い。ちょいと見せてもらおうか、その妙技を、さ」


「そうですね………もう"片方"が出る前に、ココ姉には沈んでもらいます!!」



 それぞれ愛刀をゲートから取り出し、構えに入る。この一週間、死に物狂いで特訓と課題に明け暮れた二人、力も自信も付いてきていた。



「まあ、落ち着けよ。本当はアタシも一戦したいところなんだけどよ………残念ながら、勝負方法はまたちっと違うんだよなぁ」


「………どういうこと、ですか?」


「付いてくりゃ分かる、この洞窟の先だ」



 不適に笑いながら抜刀した二人に背中を向け、洞窟の中に入っていくココ。これから斬られることなど全く想定していないように歩いている、が、それでも、彼女の隙は全く"見つからなかった"。



「………はっ、『どんな奇襲でも倒せやしない』って言ってるつもりか? 完全に舐められてんな、あいつに」


「しかし、攻めきれないのも事実です。"ここ"は大人しく"ココ"姉に付いていきましょう………………どやあっ」


「………面白くねぇっての」






 ーーーーーーーーーーーー






 僅かな光源とココの案内を頼りに、言われたままに洞窟内を下って行くと、大きな広場のような場所に辿り着いた。


 天井は遥か上空、大聖堂のように美しく整然とくり貫かれたこの広場。


 等間隔にアニマによる光のランプが設置されており、さながら夜空に煌めく星の如く、それぞれ思い思いに辺りを照らしていた。



「ホント、獣神の行動力には驚かされるぜ………こんなもん山の地下に建設しやがって………」


GWゴールデンウィークの合宿の場が、敵の本拠地にされていたなんて………狗太兄と美兎姉の襲撃が早かったのは、これが理由ですか………」



 二人の声が反響し、何度も何度も跳ね返る。天然のエコーまで効かせるこの設計、つくづく獣神との能力の差が思い知らされる。



「ほら、あそこで胡散臭い奴がお待ちだぞ………」



 苦虫を噛み潰したように顔をしかめながら、大広場の中心部を指差す。そこには、某中世小説を彷彿とさせる小さな"円卓"とーーーそこに座る美しい少女の姿。





 その豊満なわがままボディを包み込む、白と青を基調とした巫女装束に。清純な茶髪ロングストレートをさらりと合わせ、威圧や棘などまるでない優しい垂れ目を携えてーーー茶色く丸い"狸"耳と"狸"尻尾を生やす、この少女。


 貴族の令嬢や王国の姫君、由緒正しい寺の巫女等々の落ち着いた女性らしさを彷彿とさせる、"優雅"さをも持ち合わせているようで、桜は少し、ココには大部分が欠ける"気品"というものを、感じられた。



「………ようこそ、我らが巣窟、獣神の巣へ。私の名は"マミ"。神城達也、貴方のお噂はかねがね、聞いているぞ」



 座っていた円卓の椅子から立ち上がり、少女は恭しく頭を垂れる。物腰も言動も、行動すべてが柔らかく物静か。荒々しいココとは打って変わる礼儀正しさだった。



「………建前はいいんだよ、やるならさっさと始めろっ」



 獲物、つまり自分達を取られた恨みからか、鋭い視線を彼女に向けるココ。


 短気なのか、常に怒っているようにも見える。それは仕方のないこと。このくらいの幼女はきっと、色々なものに反発したいお年頃なのだろう。



「ーーーーおい、今超失礼なこと考えただろ」


「………………」



 そしてこの感の鋭さである。


 マタタビ桜の時といい、新手の読心術とも言うべきこの"達也脳内的中率"はつくづく危険だった。どうやら、発言には気を付けないといけないらしい。



「………な、なんのことか分からねぇ。こいつの言う通り、勝負とやら、やるならさっさとやっちまおう」


「では、そうしようか。私の反対位置にある、その椅子に座ってくれ」



 背もたれの高い、お高くとまった椅子を手で示し、座るように促すマミ。お互い椅子は1脚ずつ、勝負というのは円卓を用いた一対一によるものらしい。


 椅子に向かい歩き始めようとした、達也の腕が不意に引っ張られる。見れば心配そうに達也を見つめる桜の瞳があった。



「ご主人、気を付けてください。マミ姉はとてつもなく頭が切れます。きっとなにか企んでいる筈………無策でなんとかなる相手では決してないです」


「………大丈夫、目にもの見せてやるさ」



 思い切り桜を、撫でる。少しでも気を軽くさせるため、この当たり前を守り抜く自覚を、自分の心にも撫で付ける。



「さて、そういうことだから。目にもの、見てもらうぜ?」



 言われた通りに腰を下ろすと、満足げににっこりと笑顔を向けてきた。これが対立状態でなければ、その笑顔に惹かれることもあっただろうが、今はとても余裕がなかった。



「ふふっ、随分と好かれているようだな。君が桜にとって良い方ということだけは、分かったような気がするよ」


「そりゃどうも、桜は大事な家族だからな。もっとも、その大事な桜を苦しめたお前らは………もっと、苦しんでもらわないといけねぇがな」



 威圧の眼差し、達也の十八番でもあり、敵対する相手に送る"癖"でもあるそれを、難なく受け止め笑みを崩さないマミ。


 人間ごときに遅れを取らない獣神は、つくづく相手にし辛い敵だった。



「ん、そんな目で睨まないでくれよ。怖くて心臓が震えあがってしまうよ」


「その割には随分と余裕そうだな。どうせ、その意にも介してねぇんだろ」


「へぇ………何故そう思う?」


「視線を逸らしもしねぇし、瞬きの数も増えない。内心どう思ってるかは知らんけど、少なくとも動揺は無い、ってことだ」


「ふふっ、鋭いのね。君みたいな人、嫌いじゃない」 


「生憎と、あんたは俺のタイプじゃねぇんだ。パートナーにはなれねぇからな」


「ん、残念。では、猫耳と猫尻尾を生やして、敬語貧乳キャラになってから出直すとしよう」


「っ、何故そんなことを………い、いや、何が言いたいか、全っ然分からねぇ………」



 どちらも引かず劣らず、相手の首に鎌を掛けるタイミングを探り、相手を切り殺す隙を疑う。それは、外野の存在を忘れてしまうほどに、白熱していた。



「大方の君個人が分かった所で………そろそろ勝負を始めよう」


「ん、ああ、そうだったな。あんたとの話がつい盛り上っちまった………で、勝負内容は?」


「といっても、内容はまだ決めてないんだよなぁ………」



 そう言い残し、目を閉じたマミは顎に人差し指を当て、長考を決めだした。



「おいおい、頼むぜ。そっちから手紙を寄越したんだろ?」


「うぅん、そうだな………ポーカー、ブラックジャック、スピード………何がいいか………」



 何故候補がカードゲームばかりなのかは気になりつつも、一分程が経過した後。マミわざとらしくぽんっと手を叩くとーーーー裏の見えない冷たい瞳で、笑った。











「よしーーーーー『人質ゲーム"』、なんてどうだ?」











 尋常じゃない寒気と共に、鳥肌が立つ、冷や汗が流れる。


『気付いたときには、もう遅かった』、なんて台詞、実際には存在しないものだと思っていた。


 勝手に、思い込んでいた。完全なる布石、完全なる"王手チェックメイト"。


 勝負は始まる前にーーーーー終わっていた。



「があっ………す、ま………ごし…ゅ……じ………ん………っ」



 家族の、声にならない、悲痛な叫び。


 反射的に背後を振り反れば、四肢の至るところに小刀ナイフを突き立てられ、痛みの拘束により体の自由を奪われたまま座らせられているーーーー血塗れの桜の姿。


 口には布と棒切れをくわえさせられており、声はおろか悲鳴すらあげられない、無惨な状態だった。



「………ったく、天晴れだよ。相変わらずの口上手だ。お陰さまで、バレずにゆっくりと遊べたぜ」



 桜の返り血で赤く染まった手を舐め、ココは不適に笑ってみせる。その手には、未だ鮮血が滴り落ちる、鋭い小刀が握られていた。


 アニマによって生み出した武器は、獣神を傷付けず、獣神を殺すことが出来る。裏を返せば、アニマよって生み出した武器でなければーーーー



「そ、んな………さく、らぁ…っ……桜ああぁっ!!」



 駆け出すために動いた達也の視線、が、刹那として極端に低くなる。


 その後に、遅れてやってきた、上半身を襲う鈍い痛み。堪らず、達也は口から血を吐き出した。



「………せっかちな御仁だな。まだルール説明をしてないだろう?」



 倒れる達也を馬乗りに、頭をしっかりと押さえつけるマミ。


 アニマにおける身体能力の加護を余すことなく使い、彼に身動ぎの余裕すらも与えなかった。



「………っ、だ、騙し、やがったなぁっ………」


「ん、君は私の姿が只の"人"にでも見えているのか? 私とココは狸と狐、人を化かすことなんてーーーー当たり前、だ」


「………て、めぇ、だけは………ころ、す………ぜっ、てぇ、ぶっ殺、す………」



 肺を強く打ち、呼吸すら満足に出来ない体で鋭い殺意を向ける。たが、それは彼女にとって威嚇にも、時間稼ぎにもならない、無力な羽虫と相違なかった。



「ルールは簡単、桜の生と引き換えに君の身を貰う。従えは桜は無事、抵抗すれば命はない、ただそれだけのことーーーーーふふっ、でもこれじゃあ、ゲームじゃなくて、ただの取引だな」



 クスクスとせせら笑う、狸の獣神、マミ。


 その不思議な程強い能力を駆使しながら、そのあまりに余った、憎らしい賢さと笑みで、嗤う。



「………さ、そろそろ叩きつけた痛みも和らいできた頃だろう。答えを聞かせてくれ。もちろん、無回答は、ダメだぞ?」



 答えなど、二つに一つ。


 相手が自分を求むのならば、家族が生きてくれるのならばーーーーこの身など、惜しくはなかった。



「………わ、かった、要求のむ……から、これ以上っ、桜を、傷つけるなっ………」



 声は絶え絶え、息も切れ。


 そんな状態から絞り出した答えを、マミはその場に似合わぬ優雅な笑顔のまま、嬉しそうに受け止めた。



「ふふっ、その言葉を待っていた………けど」



 達也の頭を押さえていたか細い手を、上に、ゆっくり撫でるように滑らせた。その後。


 不意に彼の黒髪を強く掴み、上に引っ張り上げた。激しい痛みと共に、視線が強制的に痛々しい桜に向けられる。



「先程の無礼な口振り………看過することはできないな、ペナルティだ」



 その言葉が広場に響くと共に、ココによって桜の左胸に小刀が差し込まれた。


 無論、吹き出すのはアニマの粒子などではない。


 今まで見たこともない、これ以上にないほどの、紅、紅、紅ーーーー。



「っぁ………ぅぁ………!!」



 悲鳴は、あげられない。痛みを忘れるためにのたうち回ることも、できない。


 ただただ涙と血を流し、痛みに震えることしか、桜には許されなかった。



「っ!? 止めろぉお!! 傷付けるなと言ったはずだぞっ!!!」


「ん、誰がそれを遵守するなんて言ったんだ。それに………元はと言えば、こうさせたのは貴方のせいなのだぞ?」



 刺し傷を更に切り、壊し、えぐりーーーー桜の痛覚の限りを尽くし、小刀を暴れさせるココ。


 彼女から湧き出す血を直視する度に、達也の心も壊されていいった。



「………ぁ、ぅあぁ………がっ……ぁ…」


「止めろ、止めろぉ、頼むからっ、頼むから止めてくれ………っ」



 視界が、涙で埋まる。


 目の前で苦しむ家族を救えない。己の無力さが小刀如く、鋭く、深く、突き刺さる。



「………ふふふっ、良い、良いっ。慕い合う二人が文字通り、完膚無きまで切り刻まれていく………最っ高だッ、久々のこの感覚………ッ」



 悦に浸り、狂った勢いで達也の首を、手刀で強く叩きつける。たった一発の攻撃で、彼の意識はあっという間に、暗転に追い込まれていく。



「………大丈夫。心配しなくても、君には桜以上の苦しみを与えてやる………ふふっ、うふふふふふっ!!」



 薄れゆく意識の中、達也はマミの狂った笑い声を聞く。


 獣神二人を倒した程度で、思い上がっていた過去の自分を殺してやりたかったが、それは叶わない夢物語。









 なるべくしてなった、地獄の幕開け。


 自分達を救う奇跡など、もうとっくに枯れ果てていたのかも知れない。


 少なくとも達也は、それを信じる余裕など、無かった。







次回予告

狸と狐に化かされた、二つの奇跡



一つは狸に捕らえられ、一つは狐に傷つけられた



塵のように散った二つは、それぞれ異なる地で目を覚ますも、




どちらも等しく、『地獄』は待っていた




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