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12の奇跡はアニマが導くっ!!     ~拾った猫が美少女に変身する奇跡~  作者: Local
第ニ章~夏休み、それは恐怖の時間ですっ!!~
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Episode-18.隠し通せる嘘などなし

 




 時の流れというものは、本当の本当に早いもので。


 ついこの間までGWゴールデンウィークだった筈が、気づけば初夏、梅雨を過ぎ、あっという間に"七月下旬"。


 世間が盛り上がっている言葉で言うところの『夏休み』を目前に控え、達哉が住まう住宅街も例外なく、夏の渦に巻き込まれていた。



「夏休みどこに行く!?」


「プールだろ、絶対!!」


「でも、海も良いよねっ!」


「山でも良いんじゃないのっ!?」



 会話をキャッ、キャッ、と繰り広げながら、楽しそうに達也たつやの脇を駆けていく小学生達。

 彼らを一瞥し、滅入っていた心を更にもう一段階しおしおとふさぎ込ませた。



「夏休み………か」



 ただでさえ、衣替えで軽くなった筈の制服を重く感じているというのに。その言葉の響きが"重し"となって、また体に負担を掛けていく。



 ーーー我が家に帰る、帰りたい。



 心にただ一つ存在する、この揺るぎない想いを失ってしまったら。


 彼はたちまち道路に突っ伏し、歩むこと自体を放棄してしまうことだろう。それほどまでに、『夏休みの課題』という名の悪魔は彼を疲弊させていた。



「何が"休み"だよ、苦痛に追われる毎日じゃねぇか………バイト、課題、それにアイツらだって………」



 心の叫びを何度も何度も吐き出し、千鳥足にも似た弱々しい足取りで進んでいく。


 そんな彼の両腕を、それぞれ引っ張る幼馴染み、かえで麗奈れなは、呆れながらも着実に、彼を家まで先導していた。



「もう、たらたら歩いてないで、もっとシャキッと歩いてよ。折角夏休みが始まったんだから、もっと嬉しそうにしなきゃ!」


「そうよ、幾ら課題が他人より多く出たからって、いつまでもショボくれてちゃいけないわ。早く終わらせてもらわないと、こっちが困っちゃうんだから」



 その呆れた瞳の中からも、どこか楽しげで、嬉しげなーーーーそんな気持ちが読み取れる。


 夏休みを少なからず、待ち望んでいたに違いない。悪魔の恐怖に怯えることなく、純粋に待ち望んでいたのだろう。


 何とも、末恐ろしい幼馴染み達である。



「………俺にとって、課題が増えることは死活問題を意味する。エアコンの効いた部屋で昼寝する時間が奪われるなんて………考えたくもない地獄だ」


「そんなニートみたいな発言を………エアコンの効いた部屋で課題が出来ない、って訳じゃないんだから、もっと建設的に考えなさいよ。昔よりは頭を使うようになったけれど、それでもまだ全然足りないんだからね?」



 そう言って、右手を引く力を倍増させる麗奈。


 うら若き乙女とはいえ、力説している上に"空手家"としての一面を持つ彼女。無意識に『アニマ』を使って体を強化してしまう程に、中々の怪力を持ち合わせていた。



「甘いよ麗奈! よく考えてみて、あの達也君にそんな高度なことが出来るわけがないでしょ? 人の体重を盗み見て、さらっと口に出しちゃうような達也君だよ? 後先考えないで、ガンガン突き進むのが達也君、そして、それを制御するのが私達でしょうっ!?」



 そう言って、左手を引く力を倍増させる楓。


 六月頃に行った体力テストの失敗談を容赦なく打ち込んでくる辺り、垢抜けていながらどこか抜け目がない、彼女らしい一面。流石に麗奈よりは劣るものの、当時の怒りが楓を上手く手伝い、達也の左手をミシミシと苦しめていた。



「………おい、手が痛いん」


「言われてみれば、確かにそうね。私がいない間に、バック漁って勝手に私の手帳読み出したり、私のお菓子全部食べたり、『お前、少し太った?』とか言ってきたり………」


「一緒に弁当食べてる時に私のおかず取ってきたり、私のジュース勝手に飲んだり、『お前、少し肉付いた?』とか言ってきたり………」


「………それは、口がすべ」


「私達だから良かったものの、他の女子にもやってたらって思うと………」


「いやー、怖くなっちゃうよねぇ。実際、達也君ならやりかねないしさ」



 彼の訴えを遮り、ここぞとばかりに畳み掛ける二人。その表情は水を得た魚のようにいきいきと、満面の活力で満ち足りていた。


 最早ぐうの音も出なくなり、観念したように渋々と項垂れる。実際、彼女らが示した例達は悔しいことに、どれも自分にしか非がない。余計な事は言わないに越したことはなかった。



「………なーに"何も言えない"みたいな顔してるの。今、私達は反省の言葉を求めてるんだけどなー、た・つ・や・君っ」


「年頃の女子に体型のことを平然と言ってのける度胸………中々の根性だけど、決して褒められたものじゃないわよね?」



 反論したい気持ちをぐっと抑え込み、覚悟を決めて顔を上げる、と共に目に飛び込む神城家ーーーーすなわち、我が家。



 刹那、決めた覚悟はどこの空、音もなく幼馴染み達の手から抜け出すと、一切の躊躇もなく家に向かって走り出した。


 彼女達があっ、と声を発した時にはもう遅く。天国の扉に手を掛け、してやったりといった得意気な笑みで手を降っている最中であった。



「それではお二方、良い休日を!」



 ーーガチャっ、バタンっ!



 ドアを高速で閉め切り、文字通りあっという間に姿を消した達也。


 幾ら幼馴染みとはいえ、立てこもっている彼を引きずり出すことは不可能。それこそ、長年の付き添ってきた"幼馴染みの経験"が物語っていた。



「………あちゃー、逃げられたか」


「謝罪はお預けね………ったく、相変わらず逃げ足は一級品なんだから………」



 ため息をそれぞれ一つ吐き、早々に達也を諦めた二人は、すごすごとそれぞれの自宅に帰っていった。







 ーーーーーーーーーーーー






「………ふぅ、間一髪だった………運良く家に着いてなかったら、色々とめんどくさいことになってだろうな………」


「借金取りにでも追われてたんですか?」


「高校生で借金なんか背負ってたまるか」



 家に帰った達也を見るなり、とんでもない第一声を浴びせるさくら


 なんの悪気も裏もない、純粋な疑問をそのままぶつけてくるからか、あの幼馴染み達よりもよっぽど手強く扱いづらい。桜が桜たる所以でもあった。



「まあ、とにかく、お帰りなさいご主人! 今日から待ちに待った夏休みですね!」


「ああ、ただいま………別に待ちに待ってはないけどな」



 やれやれと革靴を脱ぐ達也。


 そんな彼を見た桜は、顎に人指し指を当てて、小首を少し傾げて見せた。"分からない"という言葉を絵に描いたかのような、典型的不思議がり方だ。



「何故ご主人はそんなに憂鬱そうにしているのですか? 今朝ニュース番組で見た中高生達は、もっと明るい笑顔を浮かべてましたよ?」


「………マジかよ、正気の沙汰じゃねぇな………」



 最近の学生達は、自ら苦難を求める物好きばかりなのだろうか。


 自分もその"最近の学生"に分類される筈なのだが、彼らの考えを理解することは出来なかった。



「ご主人はきっと、上手な夏休みの楽しみ方を知らないんですよ。夏の風物詩とも言われる"海"だって、ここ数年は行ってないんでしょう?」


「そりゃ、佳祐けいすけ叔父さんを探す毎日だったから。そんな暇なんて作ってなかったけど」


「だからです! だからご主人はそんなに塞ぎ混んでしまうんです。だから、美兎みゅう姉と、狗太こうた兄と、それと私と一緒に、行きましょうよ! むしろ、行きます!」



 ぴょんぴょんと跳びはね、尻尾と耳を激しく揺らす。スカートがめくり上がり穿いたスパッツが丸見えになろうとも、気にせず跳び続けるその姿が、桜の強い願望を表している。


 その体に現れた願望を見ていると、獣神きょうだい達から世界を救う計画はどうなったのか、強く問い質したくなるが。


 断ると後々面倒になるパターンと、男心を擽らなくもない丸見えのスパッツが目の前にあった。



「まあ、それは別に構わない、けどな………」


「良いんですか! 良いんですね!? 嘘じゃないですねっ!?」


「分かった、分かったから揺らすな! 頭がより一層痛くなる!!」



 嬉しさのままに体を揺すぶられては堪ったものではない。相手が獣神であるなら尚更である。


 脳がぐあん、ぐあんとかき回され、酷く目の前が歪みだす。どれだけ嬉しかったのか、相当な力を使って揺らしたらしかった。



「い、行く分には良いんだ、気分転換にもなるしな。だけど、そうなると邪魔になるもんがあるだろ?」



 ふらふらする頭を押さえつけながら本題をぶつけるも、ピンと来ない桜は小首を傾げるばかり。


 自分の体の一部である存在に気付かない。流石に獣神としての自覚を疑ってしまうが、興奮している彼女には難しい話なのかもしれない。



「………その耳と尻尾だよ。海で泳ぐとなると、流石に隠しきれねぇだろ」



 先程まで、思いのままに激しく揺れていた猫耳に猫尻尾。


 普段は猫耳ニット帽やベルトやら、小道具を使って上手く隠し、辛うじて人間の容姿に近づけている。


 しかし、一般的に海は"水着"で過ごす場所である。


 最近の水着は肌を露出しないタイプも増えてきているが、頭に乗っかる"猫耳"や、自由自在に動く"尻尾"の前には意味をなさないし、

 海に行っても水着に着替えず泳がない、というのであれば、無論何とかなるのかも知れないが、真夏の灼熱の砂浜にずっと待機では、それこそ行く意味がない。


 美兎曰く『人であり人ならざるもの』、獣神の彼女には酷な現実を伝えたつもりの達也だったが、予想していた反応とは大きく異なる、自信たっぷりのドヤ顔で返されてしまった。



「ふふん、ご主人。まさが私が無策でこんなことを頼んだとでも思っているのですか?」


「うん、思ってた」


「うぐっ、即答で返されると中々の辛いものがありますが………まぁ良いでしょう。ここで大事なのは、"解決策"があるって事なんですよ!」



 自信満々に言ってのけた後、おもむろにニット帽とベルトを外し、スカートを自らたくし上げ始めた桜。


 彼女の人ではない部分、可愛らしい猫耳と尻尾、ついでにスパッツが露になった。



「………な、何をしだすんだいきなり………まだ真っ昼間だぞ………」


「………ご主人は何か勘違いしてるようですが、それは一先ず置いといて、見ててください」



 やけに色気のある、異様な体勢のまま目を閉じ、呟くように呪文を詠唱し始めた。


 詠唱時間にしてきっかり一分。ポンッ、という小さな炸裂音と共に現れた白い煙が、桜を隠すように包み込んだ。


 達也を焦らすようにゆっくり、じっくりと煙が払われると、ーーーー



「お、おお………そんなことが出来たのか」


「ええ、出来たんです! つい最近!」





 ーーーーそこには、猫耳と尻尾が消え、端麗な"ただの少女"に変身した、桜の姿が現れていた。





 どの角度からどう見ても普通の女子中学生。何度達也が目を擦っても、どこか少し物足りない桜の姿がある。


 人間であり人間ならざる者の筈の彼女が、『普通の人間』になれた、記念すべき獣神の進化である………が、しかし。





「ここは喜ぶべきなんだろうか………うーん………」


「そんな! 喜ぶべきでしょうに! ていうか喜んでください!!」



 これで彼女の行動範囲は更に広がった、否、"広がってしまった"、というべきか。


 そう考えてしまうと、色々と対策を考えさせられ………素直に喜べない達也がいるのもまた、事実だった。



 ーーーでも、まあ。



「………にゃふふ、頑張って美兎姉と特訓した甲斐がありました。これでご主人と、沢山の場所に行けますね!」



 ーーーーこの笑顔が見られるのなら、それも悪くないのかもしれない。


 この時は、ただただ純粋に、ただただ実直に、そう思っていた。



「む、そのいつになく優しい微笑み方は………ひょっとしてご主人、満更でもありませんね? そうなんですね?」



 ここぞとばかりに心の内をズバリと言い当てる桜。これもまた、桜が桜たる所以、前言撤回したくなるような憎たらしい可愛さである。



「………べ、別にそんなんちゃうし、図星ちゃうし」


「いや、動揺しすぎて関西弁出てますし、自分で図星って言っちゃってますし、全然隠し切れてないです」



 特訓の成果を見せつけ足りないのか、スカートをたくし上げたまま勝ち誇ったようににやけ続ける。


 何故、達也はそんな桜に対して、屈辱を感じているのだろうか。勝負でも何でもないというのに、何故敗北感を感じてしまっているのだろうか。



「………てか、いい加減その体勢止めろ。いつまでやってんだ」


「えー? ご主人、本当はまだ見足りないんじゃないんですか? この魅惑のナイスバディ、ご主人にだったら、後もう少しぐらい見せてもあげても良いんですよ?」


「その胸でナイスバディとは、笑わせてくれる」


「むきぃーっ!! 乙女に向かってその口は何ですか!! 酷い! 流石の仏猫、桜も怒りましたよ!!」


「仏猫ってなんなんだよ」



 腹いせに桜をからかい返して反応を楽しんでいると、不意に炸裂音が響き渡り、再び煙が彼女を包み込む。


 煙が晴れると、耳と尻尾を携えた、いつもの桜が帰ってきていた。



「………あにゃ、戻っちゃった」


「………ビックリした。何故今戻った、タイミング可笑しいだろ」


「耳と尻尾だけ隠すって、凄く繊細なアニマのコントロールが必要なんですよ。だから、感情が高ぶり過ぎたりすると、戻っちゃうんです」


「なるほど、完全に不完全な策とは、皮肉も良いところだな」


「だ、大丈夫ですよ、これからコントロールに慣れていけば問題ないんです! だから海に行くんです!!」


「無理矢理にも程があるっ!?」



 恒例の言い争いが幕を開き、今日も彼らの一日が平穏に終わる………筈だった。











「達也、あなた宛の封筒が私の家に届いたんだけーーーーど…………」











 ドアの開く音と共に起こった戦慄。そしてその直後、自分達の詰めの甘さを深く、心底深く思い知らされた。





 玄関から動いて、リビングに移動する。ただそれだけのことをしていれば、こんな場面を見られずに済んでいたというのに、こんなに背筋を凍らせ、戦慄を感じることもなかったというのに。





 自覚が足りない、などという言葉は、死戦を潜り抜けてきた達也と桜には通じない言葉、言い訳にも出来ない言葉だった。





 それ故に、この事件は起こるべきして起こった、としか言いようがなかった。幼馴染みが一人、『翠川みどりかわ麗奈れなに見つかってしまった』だなんてこと、他に形容しようがなかった。





「れ、麗奈、違うんだ。こ、これはだな、その………」


「………………………」


「………れ、麗奈ーーーーさん?」


「………何が違うというのかしら?」



 数秒の沈黙の後、感情を押し殺した酷く冷たい声で無機質に、淡々と言葉を並べ、段々と達也に向かって歩を進めていく。



「自分の玄関先で、猫耳少女にスカートをたくし上げさせて、その中のスパッツを眺めて楽しんでいる………これのどこが誤解だというつもりなの?」


「まさかのそっち!?ーーーーじゃなくて、別に楽しんでなんかねぇよ! これはその、成れの果てというか………!」


「言い訳は、要らないの」



 静かに達也に歩み寄り、胸ぐらを力有らん限り思い切り掴んで………全く目の笑わない、氷点下のような冷たい笑みを浮かべた。



「………遺言なんて言わせる余裕、あげないから。さあ、歯ぁ食い縛りなさい」


「ぐ、ぐがああああぁああああぁぁぁあっ!!」


「にゃああっ!! ご主人が、ご主人がああぁぁっ!!!」



 達也の断末魔は大きく響き渡り、もう一人の幼馴染み、楓をも呼び寄せる二次災害となってしまった。







次回予告

思わぬ形で見つかってしまった達也と桜。


幼馴染みにぼこぼこにのされた達也に届いていたという"封筒"が、彼らを新たな戦いへと誘った。




次回も閲覧宜しくお願い致します

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