Episode-17.世界之暗闇
ーー世界中のあらゆるものに属し、世界中のどんなものにも属さない者達がーー
ーー何処よりも深く、何処よりも広く、何処よりも暗い、"影"のような場所でーー
ーー自身らがまたひとつ、ふたつと失った永遠の可能性を憐れんでいたーー
「………っ、なんなんだよアイツらは! たかが人間ごときに、あんなあっさりとやられやがって!」
激昂の念に身を任せ目の前にあった机を蹴り飛ばす。
その者の頭には、狐色の綺麗な"獣耳"が二つ。そこにあるのが当然であるかのように、堂々と鎮座していた。
「………ふふふっ、そんないきり立ったって何も起こらないだろうに………ちょっとは落ち着いたらどうなんだ?」
逆上する彼女の反対側の椅子に腰掛ける少女。
くすくすと笑うその口を、扇子で覆い隠すその姿は"仙姿玉質"を彷彿とさせるほど、優雅で、気品が感じられる。
丸く茶色の"獣耳"を持つ彼女もまた、人間が出すことの出来ない、重苦しい雰囲気を醸し出していた。
「………お前は逆に落ち着きすぎなんだよ………いつもにやにや、にやにや………気持ち悪いったらないぜ」
「君は少し取り乱し過ぎかもしれないな。その体で血の気が多いって………本当、大変そうだな………」
そう言って、また静かにせせら笑う。
押しても引いてもまるで感触がない、どんなときもしたたかな彼女には、噛みつくことさえ容易でなかった。
「………けっ、止めだ止めだ、お前と喋ると余計に疲れちまうよ」
すっかり気力を失い、横暴に座り込む。背もたれをいっぱいいっぱい、最大限に活用した座り方。
一方の優美な少女とは掛け離れた位置にある言葉、"傍若無人"の四文字が一番相応しいだろう。
「ん、いつになく大人しいな。もっと反論してくると思ったのに………張り合いがない」
どこまでも、何時までも囃し立てるその姿に苛立ちを募らせるが、時計の針を見てなんとか心を静めさせる。
後、もう少しで………
「………"アイツ"が来るんだろうが………奴は騒音を嫌うからな」
その言葉を聞くと、今まで動じることの無かった眉を潜ませ、少なからず反応を見せた。
「………君に言いくるめられたみたいで気に食わないけど………確かにその通りだな………」
彼女らがふう、と一息をつくと同時。
見計らったかのように、こつこつと小さく靴の音が響き始めた。
二人の少女を焦らすように、ゆっくりと現れたのは………
『………姉、達………お待たせ………』
感情の無い無機質な声を、"口一つ動かさず発する"小さな姿………
その姿は暗闇に隠れ、顔全体を視認することさえ簡単にはいかなかった。
「………なんよ、お前なんか。アイツじゃねぇのかよ………」
『………私じゃ、ダメ、なの………?』
「ふふっ、あなただから良かったんだよう。"あの人"が怖いんだから、仕方ないさ」
そう言って、『影』そのものとも言える少女を優しく愛撫する。
気持ち良さそうに、はたまた恥ずかしそうに………何とも言えない微妙な喜びを、彼女は体を揺らして表した。
『………く、くすぐったい、止めて………』
「ふふっ、嘘ばっかり、素直に嬉しいって言えば良いのに」
見透かしたように雅に笑うその横で、先程募らせた苛立ちを堪えきれなくなった者が一人。
目尻を険しく吊り上げながら彼女を睨みつけ、怒りの色を露にしていた。
「………おふざけは大概にしとけよ。そういう馴れ合いばっかしてたから、アイツらは負けたんだろうが」
これ以上の不平の漏らし方が無いと言っても良いくらい、低く鋭い唸り声をあげる。
本来敵に向けるべきの殺気を、味方である彼女らに向けるほどーーー彼女は本気だった。
『………そう、だね、ここから先は………』
「後戻りは効かない、お互いに………」
「やるしかねぇ、アタシ達に楯突く『敵』は一匹たりとも残しちゃおけねぇからな」
虚空を見捉え、手を伸ばす。
その方角に居るであろう"主"に向けて………
「あんたの無念はあたしが晴らす。助けられた恩、必ず返して見せるから」
次回予告
学生の『希望』と『絶望』、両方を兼ね備えた夏休み。
宿題という名の悪魔に追われる達哉の前に、美しく恐ろしい笑顔で立ち塞がるものが現れた………
次回も閲覧宜しくお願い致します




