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12の奇跡はアニマが導くっ!!     ~拾った猫が美少女に変身する奇跡~  作者: Local
第ニ章~夏休み、それは恐怖の時間ですっ!!~
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Episode-14.初夏に咲く小さな恋の花

メタ発言有り、ご注意下さい

 




 ファミリーレストラン、『ゼーレ』





 大手洋風レストランとして国内に広く名を馳せるこの料理店であるが、企業創立は三年前。


 二桁も届かない、僅か数年で"飲食店業績トップクラス"の成績を叩き出したゼーレは、国内に留まらず、世界からも注目を集め始めていた。



 そんなレストラン、ゼーレの一角。東京都内某所に建つ、一軒のチェーン店。


 今、名を馳せる時の人ならぬ、時のレストランだけあり、休日の昼時の店内は全てのテーブルが客で埋まり、希に見る大変な賑わいを見せていた。


 そうなると、店員スタッフの仕事量も比例して増えていくのが道理。目が回るような忙しさの中、皆が皆、全力で客の対応に当たっている。


 ここを乗り切れば、今日一つ目のピークは過ぎる。そこまで粗相がないようにと、皆が必死で仕事に取り組む中、二人の少年は一足先に休憩時間を迎えていた。



「………っし、そろそろだな………達也たつや、休憩入ろうぜ」



 額の汗を拭い、九十九つくも新太あらたは明るい笑顔を達也に向けた。


 長袖ワイシャツにソムリエベストを重ね、首元には蝶ネクタイを付けた執事のような制服を難なく着こなしている。


 持ち前のルックスと、爽やかな人懐っこい笑顔で仕事をするその姿により、密かに客、主に女性客からの人気を集めていた。



「ん………分かった、最後に3卓と8卓のバッシング行ってくるから、先に入っといてくれ」



 新太と同時期にこのバイト先に加入した達也もまた、高身長とクールな顔立ちから、新太と女性人気を二分している。


 この店が他のチェーン店を引き離す、類を見ない女性人気を集めているのは、主にこの二人が原因であるのだがーーーーそれはまた別のお話。



「ほいほい~、じゃ、先行っとくぜ」


「おう、後でな」



 頑張れー、とひらひら手を振りながら休憩室に入る新太。その姿を見送った後、達也もまた、客で賑わうホールへと向かっていった。






 ーーーーーーーーーーーー






「しっかしなぁ~………」


「………なんだよ、急に」


「いやな? あの"ぶっきらぼう王子"がレストランで、しかもホールのアルバイトとは、思いもしなかったからよぉ………てっきり、もっと裏方の仕事を探すと思ってたんだけどな」



 しみじみという新太を、達也は羞恥に細かく震えながら鋭く睨み付けた



「っ………や、止めろ………そのあだ名で呼ぶな」



 クラスメイトのとある女子が放った、たった一言が、今やクラス全体に広がってしまっている。


 実に遺憾、実に屈辱的。こんなセンスの欠片も無い、恥ずかしすぎるあだ名で呼ばれるこちらの身にもなって欲しいものだ。



「ぶっ、はははははっ!ま、まだ気にしてたのか!?くくくっ、い、いい加減慣れろって、はははっ!!」


「………笑うんじゃねぇ」


「はっはははは、や、やべー、腹が、腹が痛い。ぷくくっ!!」


「………………」





 腹を抱え、身を捩りながら笑いこける新太。


 頭の方でプチっと、何かが切れる音を感じたその時には、すでに椅子から立ち上がり、麗奈直伝の高速胸ぐら掴みをぎりぎりと放っていた。



「………コロス」


「ちょっ、ま、待って、待って達也くーん!? さ、流石に暴力は良くないと思うなー、うん! ってか、制服伸びるから! マジで勘弁してくれよぉっ!!」


「おい、暴れんなよ、殺りにくいだろうが」


「漢字が怖い方の表記になってるから! マジで死んじゃうから、俺!!」


「大丈夫、痛ク、シナイ。痛イノ、一瞬」


「何んで片言なんだよぉ! 逆に怖いわ!!」



 ドタバタともみくちゃになりながら激しい攻防を繰り広げる二人。


 ここが"休憩室"ということを忘れて戦い続けた彼らに、突如として、神から制裁が加えられた。



「休憩室壊す気か、このわんぱく坊主共っ!!」


「いだぁっ!!」


「づぅっ!!」



 休憩室に二つの鈍い音が響き渡り、二つの体が床に転け落ちる。


 頭を押さえ、痛みに震える彼らを見下ろす神ーーーーもとい、この店の店長、御劔みつるぎ沙希さきが腰に手を当てながら、呆れ顔で仁王立ちしていた。





 切れ長の瞳にダークブラウンのショートボブ、クールビューティーの大人な雰囲気を漂わせる彼女は。


 二十代前半でありながらこの店の店長を任されている、自他共に認めるベテラン店長であった。



「………ったく、キミ達はホント懲りないねぇ………これでもう今月三発目だよ? 高校生なんだから、もっと落ち着いた行動を………」


「て、店長ぉ! 何で、何でいつもいつもゲンコツなんすかぁ!?」



 殴られた脳天をさすり、涙目で訴えかける新太。


 その訴えにフフンと鼻をならした沙希は、至極当然とでも言うように、憎たらしいほど爽やかなドヤ顔を作り上げた。



「私の溢れんばかりの"愛"故に、よ。二人とも、有り難く思いなさい」


「愛が理不尽過ぎるっ!!」


「………つーか、脳天を的確に突いてくる"愛"なんか要らねぇよ、訴えるぞ暴力店長」


「おーおー、相変わらず威勢が良いねぇ、神城かみしろは………もう一発喰らいたい?」


「いや遠慮しときます、素敵な美人店長様」



 それで良いんだよ、と明快に笑う御劔店長。


 何故彼の回りにはこうも図太い女性が集まるのだろうか、口で勝てない相手が一人、また一人と増えていくストレスは計り知れない。


 特にアルバイト中、その中でも沙希と喋る場合は、秒速で溜まっていってしまうのだ。



「………帰ったらさくらを弄りゃいいか………」


「桜、ってなんだ、達也………もしかして、例の拾った猫? 名前付けたのか!」



 疲れた緩くなった口から溢れ出た呟きを聞かれ、予想外の問いを浴びせられてしまった。


 しかし、以前の教室での愚痴が項を奏し、偶然にも上手く転換が効く状況にある。


 こんなところで人間関係の良さを知ることになるなんて、誰が予想出来ただろうか。無論、達也には出来なかった。



「あ、ああ、そうだ。拾った時期も時期だしな」


「へぇー、いいじゃん! 達也とは思えない良いセンスだなぁ、おい!」


「………というか、本当に神城が付けたの? そんなセンス、アンタにあるとは思えないんだけどなぁ」


「………お前らは俺のセンスをなんだと思ってるんだ………」



 そんなとりとめもない会話を繰り広げていると、休憩室の入り口から新たな人物が現れた。





 黒髪ビジネスショートに縁無フレームレス眼鏡といった、『真面目』を絵に描いたような風貌の青年。


 ホールの制服がやたらと似合うその青年は、沙希を見付けた途端、呆れたように大きく溜め息を吐いた。



「………昼の休憩時間はとっくに終わってる筈だぞ、店長………この様子だと、またサボってこの二人を弄っていたみたいだな」


「あ、鈴谷すずやマネージャー!こんちわっす!!」


「こんにちは、鈴谷マネージャー」



 達也と新太にマネージャーと呼ばれた青年、鈴谷すずやしょうは、いかにもこそばゆそうにはにかむと、照れ隠しに、二人の頭をポンポンと叩いてみせる。


 マネージャーになり日が浅い彼であるからか、その佇まいもどこか落ち着かなかった。



「あーあ、バレちゃった………てか、しょう君、ちょっと来るの早くない? 通勤時間までまだ一時間近くあるけど………あ、もしかしてぇ~、わ・た・し・に! 早く会いたくて来た、とかかなぁ~?」


「………アルコールが入ってない素のテンションのようだから言っておくが………勘違いするなよ、店長になって三ヶ月のお前が調子こいてサボってないか、見に来ただけだ」



 沙希に背を向けわざとらしく頭を押さえて見せる翔。


 しかし、背中越しに見えるその耳は茹でダコのように真っ赤に染まっていた。



「ちぇっ、相変わらず翔君は反応がつまんないなぁ」



 口を尖らせぶーぶー唸る沙希を前にして気概を削がれたのか、弱々しく眼鏡の位置を整え、もう一度深く溜め息を吐いた。



「………俺、着替えてくるから、お前も仕事に戻れ。まだ来月のシフト、組み終わってないだろ」


「あ、忘れてた………早くやっとかないと!」



 慌ただしく休憩室を出ていく沙希を、どこか物寂しげに見詰めている。マネージャーは何故店長を見て、ここまで落ち込んでいるのだろうか。


 理解できず小首を傾げる達也とは対照的に、新太はうんうんと頷きながら微笑ましく視線を送っている。どうやら新太には分かるらしい。


 身近な所に答えを知る者がいる事実も助け、理由が気になって仕方なくなってしまった達也。


 翔がいなくなる時を見計らい、彼に聞いてみると、まるで異界の化物を見るかのような驚愕の目で見られてしまった。



「え、分かんないの!? あのマネージャー見てたらフツー気付くもんだろーに!!」


「………いや、分かんないから聞いてんだよ。」



 驚きを隠せないのか、開いた口が塞がらないままわなわなと震えている。



「なんつーか、超鈍感なのな、達也って………こりゃお前を好きになる女子が可哀想な位だ」


「おい、それはどういう意味だ」


「そのままの意味だよ、達也君。もっと勉強するんだな」


「ぐっ………勉強は嫌いだし、分かんねぇもんは分かんねぇんだよ………一体、何がどうでそうなってああなるんだ………」



 頭を抱えぶつぶつ呟く達也と、それを見て驚きを越えて"呆れ"が生まれ始める新太。


 達也にこの手の話をどんどんしていかないと、人知れず彼へのレクチャーを心に決めた新太だった。






 ーーーーーーーーーーーー





「………お帰りなさい、ご主人………」



 バイトを終え、自宅へと帰還した達也の目に飛び込んできたもの。それは、目の輝きが消し去り、深く肩を落としているさくらの姿だった。


 獣神の二人を倒してからと言うもの、日に日に明るさを失っていき、GW最終日から一週間後の今、これまでとは比べ物にならない程に落ち込んでいた。



「ど、どうしたんだ桜、どこか悪いのか!?」



 目線を合わせるようにしゃがみこみ、感情のまま桜の肩をわし掴みにする達也。


 顔色もどんよりと沈み、どの角度からどう見ても様子が可笑しい。


 病気の可能性も捨て切れない程の彼女の変化に、動揺せずにはいられなかった。



「………いえ、別にどこも悪くは………」


「こんなに弱ってて………何も無いわけがないだろ。嘘は付かなくていいから、何でも言ってみろって」



 顔を俯かせ、葛藤に暮れる桜。


 ここまで言い出し辛いことが、桜の身に起こっているのだろうか。一体、何が彼女を苦しませて………


 沸々と沸き上がる怒りは、何処へ向けるべきなのか、誰を成敗するべきなのかーーーーそれは今、桜の口から語られようとしている。



「………私の………」



 桜の口が動き出す。


 ごくり、生唾を飲み込み、平常心を心掛けながら続く言葉を待った。



「私の戦闘シーンが………無かった、です………」


「………」



 沸いた怒りが一瞬で冷めていく、初めての感覚に思わず体を震わせてしまった。


 風呂上がりの体にいきなり氷水をかけられたような、そんな驚きと寒気に見舞われた達也は、当然の如く硬直を余義なくされた。



「ぐすっ………私だって、頑張って美兎姉を倒したのに………あれだけボゴボコにされて、痣とかまだ残ってるのに………うぅ………」


「………よし、リビングに行こう。待ってろ、これからお前の好きな焼き鮭をつくってやるから」



 桜を優しく抱き上げて、何事もなかったかのようにリビングへと向かっていく。


 案の定顔を真っ赤にさせる桜だったが、今回は恥じらい等ではなく『怒り』でその顔中を染めていた。



「流さないで下さいっ!!あれだけ苦戦してあの扱いは絶対可笑しいですよっ!!」


「………落ち着け桜、暴れるな。お前が何を言ってるかは良く分からんが、お前が勝ったと言う事実は変わらない、だから大丈夫だ」


「全然良くないですよっ! 謝ってくださいっ!!」


「何故俺が謝らなきゃならない」



 怒りが収まらず、我を忘れて達也の腕の中で暴れ回る桜。


 しっかりと抱き抱えているため彼女が落ちることはないが、バランスを取るのが難しい。用心して歩かないと転んでしまいそうだ。



「離して下さいよぉ! 一人で歩けますからぁ!」


「お、おい、危ないからそんなに暴れんなって、落ちたらどうすーーーーっ!!」


 言葉を発し終わろうとした、その時、桜が大きく揺れ、バランスが崩れたタイミングを、今朝出掛ける前に磨いたばかりのフローリングに掬われてしまった。



 重力場がいきなり逆転したかのような落下感、獣神に打ち勝った達也でさえも重力に打ち勝つことは出来ない。


 目を瞑って迫る痛みに覚悟を固めながら、達也は彼女を庇って背中から倒れ込んだ。



「だあぁああぁっ!!」


「きゃああぁっ!!」



 二人の悲鳴と、衝突音が廊下に響く。


 倒れる直前に体を捻り、辛うじて、桜を下敷きにすることだけは避けることができた。転んだこと自体は戴けないが、これだけは誇ってもバチは当たらない筈だ。



「………いって………」



 叩き付けられた背中全体に鈍い痛みが走るも、大した外傷や内傷を心配させるような酷い苦痛は感じない。


 ただ背中が赤く染まるだけで、済む程度だろう。



「だ、大丈夫か、さく、ら………」



 大事故に至っては無いものの、彼女に万が一、ということがあるかも知れない。心配して損することは、恐らくないーーーーと、信じたい。


 嫌な予感を感じつつ目を開けるとーーーー





 ーーーーすぐ目の前に、彼女の、"桜"の顔が現れていた。





 大きく透き通る緋色の瞳は真っ直ぐ達也を見詰め、その小さな口は状況が理解できていない証なのか、ぽかんと開き逆三角形を作っている。

  空いた距離は、ほんの2.3センチ、お互いの吐息が顔にかかる程、二人は近くまで接近していた。


 暫くそのままの体制で見詰め合った二人は、もはやテンプレと化した見事な赤面っぷりを見せ、アニマの加護を存分に受けた素早い飛び退きを繰り出した。



「に、にに、にゃああぁあ!!!」


「どわあぁっ!!!」



 驚異的な速さで、数メートル距離を空ける二人。


 玄関のラグマットの上で顔を押さえる達也に対し、桜はリビングのドアに隠れその猫耳だけを見せている。


 事故とはいえ、あれだけの接近は今だかつて経験したことがない。GWゴールデンウィークの添い寝の時でさえ、"顔の距離"はもう少し離れていただろう。



「………わ、悪いな、桜」


「い、いえ………こ、こちらこそ、暴れてご主人を倒してしまって………」



 早鐘も裸足で逃げ出すレベルの鼓動の速さに、他でもない達也自身が驚いていた。



 それは何よりーーーー間近で見た桜は本当に申し分無く、綺麗だったから。


 猫のようにシャープな目元、小さく愛らしい鼻、ぷるんと艶やかに煌めく小さな唇。


 幼い外見からは想像もできない端麗さ、これはもはや、『可愛い』なんて言葉で済ませるのは失礼に値するのでは、と思わせられた。



「は、反則だろ、こんなん………」



 とてもデジャヴな呟きを漏らし、口元を手で覆い隠す達也。


 事件が事件なのか、桜を直視できない。話を切り出すため口を開くことすら躊躇してしまう。


 どうすればいい、と胸の中の葛藤が張り裂けそうになった、その時だった。





 ーーーキュウ、クルルルゥ



「………あ、あぅ………」



 恥ずかしそうに悲鳴を漏らし、辛うじて見えていた耳も引っ込ませてしまう。どうやら、あの可愛らしい腹の音は桜のものだったらしい。



「………腹、減ったか?」


「………はぃ………」



 暗い口調で、で観念したように口篭る桜。やはり獣神と言えどもまだまだ子供、育ち盛りには違いないようだ。


 自分もその育ち盛りであることなど棚に上げ、達也は我が子を見る親のように微笑みを浮かべた。



「………ふ、はははっ、そうか、そうだよな。桜もまだまだ伸び盛りだもんなぁ」


「な、何しみじみと父親みたいなことを言ってるんですか! ご主人も充分伸び盛りでしょうにぃ!!」


「分かった、分かった、じゃあ一緒に夕飯を食べような。今日は焼き鮭と………後は何が食べたい?」


「………ま、マグロ………」



 桜はぷくっと頬を膨らませながら、不満げに大好物を要求するその姿。


 抜け目のない物欲に吹き出す達也と、それを見てかんしゃくを起こし出す桜。





 さながら本当の兄妹のようで………何とも微笑ましい光景が、そこにはあった。




次回予告

また一歩、互いを意識するようになった達也と桜


そんな二人を放って置くわけが無いのが時代の定め、黄金の犬と白銀の兎が動き出すことに………



次回も宜しくお願い致します

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