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外食

次話で最終話です。

その前に、もう一つのオリジナルの執筆も並行するので、遅くなるかもです。

久しぶりに昔の夢を見た。

数少ない、父さんの夢だ。

父さんは基本、家にいず。仕事でしょっちゅう海外やらに行っていて。帰ってくるのは月に2日程度だった。

それでも、俺が父さんを嫌いにならなかったのは、その月に2日は俺と一日中遊んでくれたからだ。

動物園に行ったり、遊園地に行ったり、近所の公園で虫取りしたり。

たしか、その日は母さんと父さんと一緒に植物園に行った時だ。

何か起きるわけでもなく、ゆっくりと植物園を周って、3人でお茶を飲んで、そんな夢。

(あの植物園・・・。まだあるのか?)


腹部に何か重いものを感じて、目を開けると。

「よ!おはよう。まこと!」

「・・・おはよう」

全裸のシグマが俺の上にまたがっていた。


「お前、パンツぐらい穿けよ。風邪ひくぞ」

「昨日脱いだ後、どっかに投げたから無くなっちゃった」

「・・・とりあえず、服着て来い。朝飯作るから」

「りょうかーい」

「・・・・・・」

時計を見ると、8:00。今から出かけても、まあ間に合う。

熱したフライパンを1つ。皿を2枚。

1つには卵とパン、もう1つには昨日余ったバンジーを切って入れる。


「シグマ、着替えたか?」

「んー、まだ」

「朝飯冷めるから早く」

「え、まってまって!」

上半身に何もまとわないシグマが脱衣所から飛び出してきた。

「・・・まぁ、いい」

(下履いてるし・・・)

「あ、昨日のヤツ?」

「ああ、好きだろ?」

「んー・・・・」

「?・・・・焼こうか」

「ううん、いい、これで」

「「いただきます」」


静かな部屋に、花の茎が歯に砕かれる音だけが響く。

「今日さ」

「ん?」

(なんか、緊張してきたな・・・)

普段、休日に出かけるときはシグマから誘うので、あまり自分から誘う事はない。

「で、かけるんだけど。お前も来るか?」

「・・・・」

シグマはしばらく黙った後、笑っていった。

「うん!いいよ!」





「なあ、まこと。どう?これでいい?」

「うん、まぁ、おかしくないけど・・・ってなんでお前女装するんだ?」

女装、といってもショートカットのヅラを三つ編みにしてかぶり、無地のシャツにスカジャン、そしてスカート、ぐらいのシンプルなものだが。

それでも、違和感のないぐらいには女に見えた。

「だって、前さ、会社の人に見つかりそうになって超焦ってたじゃん?だから」

「うん・・・・まあ・・」

(弟、っつっても信じてはもらえないだろうな)

「あ、でも、声は男なんだから。喋るなよ」

「うん、うん。分かってる」

シグマはスニーカーを履いて、地面を踵で叩いた。


「でさ、今日どこいくの?」

「・・・昔、行った所。まだあるか分からんし・・」

「ふーん」

革靴の中に足を押し込みながら、あの時の事を思い出した。

思い起こせば、思い起こす程、鮮明にその場所は浮かんでくる。


「よし、行こうか!」





《誠に申し訳ございません。

 フラワーガーデン鵠沼は、2013年11月5日にて閉園いたしました。

 多くの方々の                   ・・・・》


「まじか」

「まじかー!」


いや、なんとなく予想はしていたが・・・裏切られたというか・・・。


「・・・ご、ごめんな」

「え!?」と言うシグマは遠くの方へ行っていた。

「おい、どこ行くんだ!?」

「じーはん!まことくんは何がいい!?」

「お・・・、コーヒー!」

「りょーかい!」





閉園した植物園を背中に、俺たちは風化してカサカサになったベンチに腰掛けた。

そして、コーヒーを一口飲み込んで、シグマに「ごめんな」と謝った。

「何が?」とシグマ。

「いや、その、付き合ってもらたのに・・」

「ううん、いいよ。そんなの!だって、もっといいことがあるじゃん!」

「え?何が?」

「だって、あそこに入れなくてココでぼんやりしてる分、マコトと話せるもん!」

「・・・・そんなん、家でもでき・・」

「たまには外で話すのもいいでしょ?」

(生きやすい性格してるなぁ・・)

「・・・まぁ、そうかもな」

(そういう所に救われてるのもあるのかもな・・・)

「じゃあさ、マコトがここに来たことの事話してよ」


その後、ここに来た事を話した。

何か特別面白い話でもないが、シグマは楽しそうに聞いてくれた。


「ふーん、お父さんは優しかったんだね」

「まあな、結構、好きだった」

シグマはふいに、空になったホットミルクの缶をゴミ箱に捨て、立ち上がった。

「おい・・・」

どういうわけか、シグマは立ち入り禁止の柵を軽々と飛び越え、中に入っていった。

「んー、植物園ってどっちかなー」

「こら!何やってんだお前!」

慌てて周囲を見回したが誰もいない。と言うか、ここに来たときから人っ子1人ともすれ違っていない。


「大丈夫だって。誰もいないし」

「そういう問題じゃないだろ!普通に犯罪だぞ!それ!」

「いいじゃん、いいじゃん。ほら、マコトもおいでよ」

「はぁー?」

行きたい、いやいや、でもコレ普通に犯罪だし・・・。いやでもー、シグマには悪いことしたからー、いやいや!だからってコレはおかしいだろ!

「まことー!早くー!」

俺が悩んでいる間に、シグマは大分奥の方へ進んでいた。

「あ!こら!シグマ!」

俺の声なんて聞こえていないように、シグマはついついと奥の温室へと入っていってしまった。

「ああ!クソ!」

嬉しい気持ち半分、後ろめたい気持ち半分。

俺は重たい体を柵の向こうへと放り投げた。





「おい、シグマ。戻るぞ!」

「えー、いいじゃん」

「いいじゃんじゃない!」

「だってマコト、本当のこと言ったらここに来たかったんでしょ?入りたかったんでしょ?」

(図星・・・)

どうして、変な所で勘が鋭いのだろう。

「あ、マコト君。パンフあるよ」


受付、だったであろう半円型の机の上に、土がこびり付いてカサカサになったパンフレットが無造作にばらまかれていた。

その中から比較的綺麗なのを選び出し、中をペラペラとめくった。

上に吊るされている錆まみれの料金表に、パンフレット1つ500円とあったので、机の上に500円玉を置いた。


「花はこの奥かなー」

シグマは入場ゲートのバーをまたいで奥へ奥へと進んでいく。

「あ!ちょっと待て!」

料金表に大人1500円とあったので、受付カウンターに3000円を叩きつけ、半分走りながらシグマの後を追った。





「マコト、コレは?」

「んー、番号は?」

「よんさん」

「ノースポール、だ」

「へー」

「これは・・ヒマワリ?違うよな?大体、季節じゃないし」

「うん、雑草だね。ほら、ヒマワリってコレじゃない」

確かに大きさ的にひまわり、だがしおしおに萎れて、見ていられない。


当たり前だが、閉園になってからはまったく世話はされていないらしい。

しかし、こんなに雑草が伸びてしまっては肝心の花が見えない。

大体、半分以上周ったが、7割が雑草で見えなかった。これでは、花を見に来たのではなく、雑草を見に来たのと一緒だ。

「あ、これ、おいしそう」

「・・・葉牡丹っていうらしい」

「へー・・・いいなぁ、おいしそうだなー」

(おいしそう・・・?)


その単語を聞いた瞬間、急に腹が減ってきた。

(今何時だ?)

時計を見ると、とうに0時は回って1時。どうりで腹が減るわけだ。

横を見てみると、もう出口は近い。


「なあ、シグマ」

「ん?」

「飯、どうする?」

「えー、どうしよっかなー?」





フォークにパスタを絡ませ、口に運び、咀嚼する。

なんてことのない、見慣れた一連の動作だが、シグマがすると妙に違和感を感じ、つい見入ってしまう。

「もー、食べにくいよー」

「ああ、ごめん」


『オレ、久しぶりにパスタが食べたい』

『え?』


俺が何も思いつかない事もあって、シグマの注文通りスマホで店を探して、ここまでやってきたのだが・・・。

「お前、花とか以外も食えたんだな」

「うん・・・。もう食べていいんだ」

「・・・・どうして?」

「昨日・・・死んだって、手紙が来たから・・・」

「死んだ?誰が?」

「・・・・親代りだった人」

「親代り・・・?どうしてその人が死んだら、花以外も食べていいことになるんだ?」

「りえこさんが・・・食えって・・死んだから、もう食わなくていいんだ」

「その、りえこさんって人も、花とか食べる人だったのか?」

「ううん。食べなかった」

これ以上聞くと、後に戻れないぐらい空気が重くなりそうだったので、黙っていた。


「あ、そうそう。さっきの場所で3000円と500円拾ったんだ!」

「あ!それ、俺が受付で払った金だよ!」

「え、そうだったの?なんでお金払うのさ」

「なんだか悪いだろう!」

「そんな事ないよ。まことは真面目だなー」

「普通だ!」





その後、シグマが服が欲しいと言い出したので、電車でどこか大きい所に行くことにした。

「お前の服だったら渋谷あたりか?」

「うん、行きたい店も決まってるんだ」

「そうか」





「行きたいって言ってた所ってここか?」

「うん、そうだよ」

人が多い事を配慮してか、小声でシグマは言った。

「ここ、109じゃん」

「うん、そうだよ」

「いや、お前の欲しい服って・・・」

「うん、そうだよ」

「女装用・・・」

「うん、そうだよ」

そこまで話した所でハッと辺りを見回した。


高校生ぐらいの女の子がこちらをチラチラ見ながら、何かを話している。

それもそうだ、中学生よくて高校生ぐらいの女に見える男を、いい年した25の男が一緒にいれば、まぁ目立つ。

どう見たって、おじさん(財布)を引き連れて服を買いに来た援交少女にしか見えないだろう。


「なぁ、帰ろう。なんかマズイだろ」

「何が?」

「何がって・・・」

『柴滝さん!』

聞き覚えのある声が背後からかかった。


「あ・・佐竹さん・・・」

案の定、仕事場の同僚だった。

『柴滝さん、お買い物ですか?』

「まぁ、はい・・」

『・・・隣の子は?』

「あー・・」

(なんて言えば信じてもらえる・・?彼女・・って言えば色々勘違いされる。妹・・?キツイな・・。親戚・・・よし!親戚だ!)


「し、親戚の子で!東京に遊びに来たから、服買いに行くのに付き合えって!」

『・・・・』

佐竹さんは驚いたような、ぽかんとした顔をした。

(親戚でもマズかったか・・・!?)

次の言い訳を考えていると、シグマが俺の服を引っ張って小声で言った。

「はやく行こう」


「あ!それでは!また!」

『あ・・・さよなら・・・』

鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をした佐竹さんを後に、シグマの腕を掴んで半分走りながら人ごみにまぎれた。

まだ、心臓がドキドキしている。

(ヤバかった!ヤバかった!ヤバかった!)


「ちょっと、まこと!痛いよ」

「あ・・・」

必死で走っているうちに、エリアの端の方へと来ていた。

「ごめん・・・」


後をバッと振り向くと、当然のごとく会社の知り合いは居なかった。

が、あちらを行く人、こちらを行く人、全員がこっちを見ているような感覚に襲われ、冷や汗が額を伝った。

「・・・・まこと、大丈夫?」

「・・・・帰ろう」

「え?」

「ごめん、いや、本当・・・帰ろう・・・」

「・・・・うん」





「ただいまー」

「ただいま・・・」

「お風呂、入れてきてあげようか?」

「ああ・・・」

シグマは靴を脱ぎ捨て、奥へと入っていった。

俺はシグマの靴を揃え、奥へと入った。

部屋に入ってすぐにあるソファが見えた途端、急に疲労感が全体を循環し、ソファに倒れ込んだ。

そのまま、睡魔に身を委ねるのは、そう難しい事でも無かった。





「おーい、まことー」

シグマが呼んでいる。

すぐそばにいるはずなのに、長いトンネルの向こう側から話しかけられているようだ。


なんだ?


と俺はうまく動かない口で尋ねる。


「お風呂どうするの?」


お風呂?フロ?それはなんだったか覚えていない。

そんな事より、なんだか体が冷たく感じた。

温もりが欲しくて、近くにあった暖かい物を引っ張った。


「ぅわ!」


腹部に重いものが落ちる感覚に「うっ」と声が漏れる。


「あにすんだよー。もー」


ああ、暖かい。温い。その暖かい物を俺は体に押し付けた。


「わわわ!なんだよ。もー」


重い瞼を開いて見ると、シグマが俺の腕の中にまんざらでもないように収まっていた。

(まつげ・・長いなー)

シグマがこちらを向いた。

(あ、目があった)

そして、にやりと笑った。

「佐竹さんって、仕事の人?」

「ん」

答えるのが億劫で、適当に相槌をうった。

「怖かった?」

「・・・まぁ」

午後の事を思い出した。ぽかんとした佐竹さんの顔。周りの目。

(あ、まただ)

「ふふふ、心臓ドキドキしてるでしょ?」

「なんで分かる?」

「ここだと、近いから」

そう、嬉しそうに言って俺の胸に顔を埋めた。


「・・・・お風呂、どうしようか」

「朝でいいだろ。俺、明日も休みだし・・・」

「でも、行った方がよくない?」

「いいよ。今日はこのままでも」

「・・・ベッド、行こっか」







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