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第四幕 ツンデレシュチエーション編

第四幕 回文の多い風俗店 ツンデレシュチエーション編


下世話なシモの話など、シモジモの諸君は聞き飽きただろうが、聞いてくれ。 学術的命題に基づいた真面目な話を装った下世話な話を聞いてくれ。 これは俺が例の風俗に行ったときの話だ――


 イド(性衝動)を提唱したフロイトもアニマ、アニムスという男性型、女性型を提唱したユングにも共通することがある。 それは2人とも色々な女性と性的関係を持ったという点だ。 つまり、彼らはエッチしまくって思いついたことを言っただけだ。 だから今日は風俗に行こうと思う。 別にイヤラシイ考えとかがある訳じゃない。 

学術的な研究の為に行くのだ。 きっとユングもそういう場所に行くときに奥さんに言ったはずだ。

「そ、その、イドに身を委ねたアニマとアニムスがプラトニックなイデーを獲得出来るかどうかをだな……」的なことを言ったはずだ。

 だから俺をそんな蔑んだ目で見ないで欲しい。 君たちだって好みの異性を見た時にツバを飲んだりするはずだ。 汗が出たりするはずだ。 つまりアレだ。 パブロフの犬だ。 遺伝子レベルから性的条件付けされたパブロフの犬なんだ。 君たちはパブロフの犬なんだ。 わかったかこのパブロフの犬め!



「いらっしゃいませ、クラブ下位部‘Nにようこそ」扉を開けると別世界、俺は風俗に来た――


 何度も汚いオッサンに相手された俺。 今日もどうせあのオッサンだろう 。 もはや怖いもの見たさ、それだけで俺は残された最後のコースを選びに来た。 だがその前に確かめたいことがある。 アイツの源氏名のことだ。


「あの、1つ聞きたいのですが」

「なんでしょうかお客様」

「この店には軟男ってオッサン以外に女の子はいないのですか?」

「残念ながら当店には自称女の子の軟男しかおりません」

「自称の時点で女の子じゃねぇよ。 ちなみに『軟男』って呼ばれてるのはどうしてだ?  前に来たときは軟膏まみれで、その前は軟骨まみれ。 軟骨まみれ男の略なのか 、軟膏まみれ男の略なのか知りたくてさ」

「お客様、どちらとも違います」

「え?」

「軟男は当店で唯一の女の子です。 店の売上の全てが自称女の子の軟男にかかっています。 だから、手放したくないのですよ」

「つまり?」

「外出も許さず一日中働かせているんです。 そうしてる内にですね、いつの間にか『軟禁状態で強制労働を強いられている男』を略して軟男と呼ぶようになったのです」

「可哀相すぎるし犯罪だろソレ…… そして呼び方に愛情無さすぎだろ。 せめて源氏名つけてやれよ。 てか女の子を普通に雇えよ。 それに今、男って言ったよね? わかっててやってるよね? 経営者バカなの?」

「お客様、クレームはクレーム担当の軟男に言って下さいませ。 ところでコースの方は?」


 汚ッサンはかなり酷い扱いを受けているようだ。 ちょっとだけ涙が出た。 でも俺はそんな汚ッサンがたまらなく見たい。 回文だけで切り返してくる珍獣を見たい。

 ここはもう風俗店とは認識していなかった。 珍獣妖怪ワンダーランドだ。 だから俺は最後のコース、ツンデレシュチエーションを選択した。 この先にどんな気持ち悪い生物に遭遇するとしても、俺の好奇心が先へと進まずにはいさせない。 これで全コース制覇だ。 風俗の全コースを制覇するとは、もう俺はゴールド会員クラスだ。


「かしこまりました。回文プレイをお楽しみ下さい……」

 そして俺はツンデレシチュエーションの「THE ツンツ()」に入った。

 そこには店に軟禁状態で強制労働を強いられている男、略して軟男という例の汚いオッサンがいた。


「オッサン…… アンタ可哀相な奴だったんだな」

下着脱(したぎぬ)ぎたし」

「おい無視か? そして雅やかな言葉遣いで脱ぐ発言するな、キモいから」

()、いと下着嗅(したぎか)ぎたし、吐息(といき)

「誰を想ってるのか知らんが俺を無視するな。 そして下着嗅ぎたいとか言うな」

「なんだいたんだ…… 団体(だんたい)? 旦那(だんな)?」

「風俗に団体で来るわけねぇだろ? 個人だよ。 オッサンの回文を聞きに来てやってんだから早く回文言えよ」


今日も汚ッサンは絶好調だ。 相変わらず体には得体の知れない白い粘液を纏っており、とても臭かった。


()てみ?」

「え…何を?」

()……」

「え? あぁ、汚い目してるね」

()……」

「は? あぁ歯ね。 汚いね、ちゃんと磨いてんの?」

(みみ)……」

「キッタねぇ耳! 耳アカだらけだよ」

「…………」

「……回文はそれだけ?」

「だけだ」

「『だけだ』じゃねぇよフザけんな! 手抜きしてんじゃねぇ!」


 俺は2、3文字の回文で返してくる汚ッサンにイライラしてきた。 それは当然だ。 こっちは高い金を払っているのだ。 こんな汚いおっさんの回文を聞くためだけに一万円も払っている。 はっきりいって正気の沙汰ではない。 普通の人間はこんなところにわざわざ来ない。 だから俺を客として大事に扱って欲しかったのだ。 たまらなくなった俺は汚ッサンの胸ぐらをつかむ。


「よせよ…」

「はぁ? こっちはテメーの回文聞きに一万円も払いに来てやってんだぞ?」

「や、いや……」


 甘い吐息をかけられた俺は気持ち悪くなって手を放した。 何だかヌメヌメしている…… 俺の手には白い粘液がべっとりついていた。 臭い……


「すまん、悪かった」

「いいよ、いい……」

「なんで頬赤らめてんだよ? 俺はそんなつもりじゃ…… それより臭せぇ……」


どうやら汚ッサンにエンジンがかかってきたようだ。 獲物を狙う鋭い野獣の眼光が俺に向けられている。

「ねー? (なま)がマナーね」

「マナーじゃねぇよ。 つーかお前とする気はないぞ!」

「ね? (うそ)ね!? (うそ)よ! そうね? そうね!?」

「嘘じゃない。 マナーとしては間違いだ」

「むごいゴム……」

「気持ちはわかるけどマナーだからな」

「……キスは好き?」

「嫌いじゃないけどオッサンとはしないぞ。 つかみ掛かったのは悪かった。  でもオッサンとキスはしない。 だって臭いし」

(いな)(くさ)くない!」


 否、汚ッサンは全身くさかった。 得体の知れない白い物体塗りたくっており、物凄い異臭を放っていた。 汚ッサンは何かを思い立ったようで、急にバスローブを持ち出し、俺の手を引いてシャワールームへと連れて行った。 

そして急に元気になった汚ッサンは浴槽にお湯を溜めはじめた。


(あわ)ブーロ()いた! (いわ)いたいわ! ローブ! わぁ!」


 まぁ、風俗としては間違いじゃない。 まず、風呂に入って体を綺麗にするのが普通だ。 その時、薬品で性器を洗って客の反応を見て、性病持ちかどうかを判断したりする。 だが、俺は服を脱いではいない。 コイツと一般的な風俗でのプレイをする気はさらさら無いのだ。


「どうした急に? 泡風呂沸いた? アタマ沸いたんじゃなくて?」

(なか)空気嫁(くうきよめ)…… ()()くかな?」


 俺の問いかけを無視した汚ッサンは、浴槽にダッチワイフを入れようとしていた。 そんなもの熱湯に入れたら溶けるぞ? 汚ッサンはダッチワイフを抱きかかえると、どこか寂しげな表情をした。


「いい(ちち)だ、父言(ちちい)い……」

「父親にそんなこと言われたのか?」

(ちち)()()めな(ちち)……」

「酷い父親だな……」


 本当に酷いことをする…… 仮にも娘に対してそんなことをするなんて……

 アレ? 仮にも娘? コイツが娘? いやいや、娘じゃねぇし。 店側に酷い扱いをされてる汚ッサンに情でも湧いたのだろうか? 情に流されて危うく騙されるところだった。 俺の目の前にいるのはただの汚いおっさんだ。


「パパはママで、ママはパパ」

「汚ッサンの家庭は複雑なんだな」

「つい先日(せんじつ)、ママ男子(だんし)! ()んだままッ 人生(じんせい)ッ!」

「そうか、亡くなったのか…… それでダッチワイフとパパを重ねて……」


 重ねるか? 普通は父親とダッチワイフを重ねないだろ…… こいつ世の中の常識とかけ離れた思考回路してるな。 汚ッサンは悲しそうな目をしながら俺を見つめてきた。 まるで捨てられた子犬のような目だ。 まぁ全然可愛くないけど。 子犬じゃない、ただの汚いおっさんだし。 吐き気を催すほど気持ち悪い汚ッサンだし。

 

(よる)()うよ…… クンニして死人(しにん)供養(くよう)するよ」

「そうか、でもそれは止めた方がいいぞ」

「カステラ、スカトロ()かすラテすか?」

「いや、それもダメだな。 そんなものお供えしたらダメだ。 死者への冒涜だ」

()けたい糞尿(ふんにょう)! 四人(よにん)ふいたケツ!」

「だからダメだよ。 どうしてもスカトロしたいなら、ボーイと四人でやってろ」


 しばらく会話に付き合ってはみたものの、もう限界を感じていた。 コスプレヘルスの時に少し意思疎通できたから、今回もこの未知の生物とコミュニケーションが取れると思ってコンタクトをとったが、どうやら無謀な試みだったようだ。 生きてる次元が違った。 コイツの言動は意味がわからない。 もう十分頑張ったし、そろそろ帰るか……

 そう思い、立ち去ろうとした俺の腕をたくましい汚ッサンの手が掴んだ。


(つら)か…… 旦那(だんな)のもだ! ケダモノなんだからっ」


 俺の股間を指さして汚ッサンは続けた。

()った! ()った!」


 いやいや立ってないし。 股間が隆起する要素は何一つ無かっただろ? 俺は汚ッサンの手を振りほどいた。 すると汚ッサンは自らの体を纏っている得体の知れない白い粘液の中から、何かの錠剤を取り出した。 白い錠剤である。 それを無言で俺に差出し、「飲めよ」と言わんばかりに目配せをしてきた。


「なんだよそれ?」

「リスクのある、あのクスリ」

「だから何なんだよ?」

「バイアグラ、()らぐ愛馬(あいば)


 飲まねぇし! しかも臭い粘液ついてるし! 俺は汚ッサンと一般的な風俗でのプレイをする気はさらさら無い。 まして、薬を使ってまで激しく愛し合いたくはない。

油断をすればコイツに食われてしまうという、ただでさえ心臓に悪い状況なのに……  その状況下で心臓に負担を与えるバイアグラを飲むなど正気の沙汰ではない。


「ツンツン… んっんっ……っ アッ! ツンツン… んっんっ!」


 汚ッサンは自らの乳首を「ツンツン」と言いながら突つき、「んっんっ…」と甘い吐息を漏らしている。 俺を誘っているらしいが、その光景はひたすら気持ち悪いだけだった。 俺は思わず、吐しゃ物を撒き散らしそうになったが、口を押えて必死で我慢した。 俺の好奇心のバカ! 俺は心の中でそう叫んでいた。 こうなることは分かっていたではないか? 早く逃げ出さなければ、犯されてしまう。 ジリジリと迫りくる化け物に俺は死を覚悟した。 だがモンスターはその動きをピタリと止めた。 電子音が聞こえる…… ベットわきに置いてあるタイマーが鳴っている。 その音がモンスターの動きを封じたのだ。


「お客さん、時間だけどどうすんの? 延長する?」

「そこは回文じゃねぇのかよ」

「時間だからね。 で、延長するの? しないの?」

「しません」 

「あっそ! うぃーお客さんお会計ーっす! あ、えーと… また来てもいいんだからね!」


 最後に全力のデレを見せた汚ッサンをあとに、俺はカウンターへ向かった。 黒服の店員は笑顔でゴールド会員の俺を迎える。 会計を済ませれば、俺はこの地獄から抜け出せる。 もう二度とここへは来ないだろう……


「お客様、お会計一万円になります」

「はいはい一万円ね。 アレ? 財布忘れた……」


 しまった、まさか財布も持たずに風俗に来てしまうとは…… 俺は少し勘違いを起こしていたのかもしれない。 

デリヘルはプレイに入る前に、嬢に料金を直接渡すのだ。 だが、店舗型はプレイ後にカウンターで料金を払う形をとるのが一般的だ。 デリヘルであれば、財布がないことにすぐに気づけたものを…… いや、どちらにせよダメか。 交通費を取りに怖いお兄さんが来てしまう。 チェンジを何度も繰り返しても怖いお兄さんが来るし、ちょっとやらかしてしまうと後日、怖いお兄さんから連絡が来るし……と、今はそんな過去のトラウマを思い出している場合ではない。 この状況を切り抜けないと怖いお兄さんが来てしまう。 俺は内心かなりビクついていた。 かなりの制裁を喰らう覚悟をしていたが、店員の対応は予想外に優しかった。 怯えた俺をなだめるような笑顔で、解決策を提案してきたのだ。 俺はその提案を受け入れ、この回文ワンダーランドから無事に生還を果たしたのだった――


「お客様、携帯電話はお持ちですか? 」

「ああ、それならあるけど?」

「こちらの機械にかざせばお支払いいただけます」

電子(でんし)マネーね、マシンで」


 おあとがよろしいようで


お付き合いいただき、ありがとうございました。

エロ回文を作りためたら、そのうちまた話の続きを書くかもしれません。

それでは、また!

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