53:とあるガキ大将の奮闘
イグレット孤児院という名で呼ばれるその施設は、赤茶の石壁とコバルトブルーの屋根で構成された古い建物だった。
警備隊の詰め所が近くにあるせいで、この建物の周囲は巡回ルートの一つに組み込まれている。
加えて、この街の警備隊の総副隊長の意向で周辺の見回りが強化されているため、万一強盗に入られたとしても、隊員が気付く確率はそれなりに高い。
とうに街からも国からも消え去った没落貴族の屋敷を転用したせいで、屋敷としては小さいものの、建物の構造自体はそれなりに立派な作りをしているようだ。
広い庭や緑色のアーチ、保護する孤児の人数に対して充分な部屋数も備えている――ただし、手入れが行き届いているかはまた別の話だが。
保護されている孤児の人数は総員で三十に届かない。
それは孤児院としては多い方だが、「街で唯一の公営孤児院」という称号、及び街中に溢れる孤児の数からすれば、話にならないほど少ない程度のものだった。
――イグレット孤児院には、相応のコネが無ければ入れない。
いつだったか路地裏に住まう幼い雌獅子が、素顔も知らない友人に向かって苦み交じりで吐き捨てたように、この孤児院に入居を許される子供は、大半が何らかの訳ありだと言って良い。
本人がその「訳」を認識していないことも多々あるだろうが、恐らく中には貴族の血が入った子供や、相当な資産や権力を持つ家と関わっている子供も存在する。
家族愛などはほとんど見当たらないが、決して非衛生でも劣悪でもない生活環境、三度の食事に困らない資金事情、密かな噂である王立学院への推薦枠など、一般の孤児院が持たない利点はとにかく多く。
それらの要因は孤児たちの持つバックグラウンドを含めて、日々の暮らしに喘ぐストリートの子供たちから決して埋められない一線を引かれている理由ともなっていた。
さて、そんな孤児院の一階、裏庭に面した小さな部屋。
今も同じ街の何処かで薄暗い眼差しをしている子供たちの存在など、たとえ分かっていようが切り離して堂々自分の陣地を主張する主義のラトニは、やや血色の悪い顔で自室のベッドに横たわっていた。
イラナ麦の藁を詰め込んだ固いベッドは少々黴臭い匂いもしたが、未だ色褪せないかつての記憶に、真冬だろうと飢えた体をぼろ布にくるんで眠った経験もあるせいか、ラトニは大して気にならなかった。
市井の一般家庭とさして変わりのないこの待遇こそが、オーリも親しくするストリートチルドレンから疎まれる一因なのだということは分かっている。
オーリの傍に張り付いて回る、「同じ孤児だが、自分たちとは違う存在」である己が彼らに面白くないと思われていることは知っているが、たとえ今この瞬間、その筆頭である路地裏の雌獅子――イレーナ・ジネと呼ばれていたオーリの友人と顔を合わせたとしても、ラトニは心も表情も微塵と動かさず彼女に挨拶をしてみせるだろう。
(オーリさん以外に何と思われようと、正直実害さえ無ければどうでも良いですからね。その点あの女は彼我の立ち位置を弁えて、自分の領域を守って立ち回ることに長けている)
繕った跡の多い粗末な枕にダークブラウンの頭髪を埋めながら、ラトニはそんなことを考える。
彼女たちに対して、哀れむつもりも優越感に浸るつもりも、ましてや替わってやりたいなどと思うことも、ラトニは一切ない。馬鹿みたいに甘っちょろいオーリでさえ、そんなことは思わないだろう。
無遠慮に互いの領域に踏み込む暇があるのなら、折角掴んだ幸運の中、人より多く与えられた選択肢を用いて、自分の未来のためにこそ努力を積み重ねていくべきだ。
きっと当のイレーナとて、そんな馬鹿げた感情を向けられたいとは考えていない。尤も強かな彼女のことだから、その同情を餌にして、可能な限りの利益を絞り取るくらいのことはやってのけそうだが。
(……オーリさん、まさかあの女の所に行っていたりしないでしょうね……)
普段ブランジュード邸の周りに放している小鳥型の術人形は、今は魔力回復を優先させるため使用していない。
雨の音は昨夜のうちに完全に止み、今は水滴に覆われた午後の庭が窓の外に広がっている。
ここ五日間姿を見ていない少女の姿を思い浮かべて、しばらくは勉強の予定で缶詰めになるだろうという予想を思い出し、少年は嫉妬交じりの疑惑を否定した。
――初めて自分の意思でありったけの魔力を絞り尽くしたあの日から、大分魔力は回復している。引き込んだ風邪も既に熱は下がり、今は僅かな倦怠感が残るばかりだ。
部屋でこっそり染め直した髪は、青色の痕跡などとうに消されている。
オーリに出会った頃に比べて魔力操作のスキルが上がったのか、一年前よりも随分と染め粉が落ちにくくなっていること、そして自分の魔力の底を何となく把握できたことは、今回の収穫と言って良いだろう。
(明日は掃除と洗い物の当番ですし、いい加減起きなければいけないんですけどねー……)
今頃孤児院の子供の大半は、雨上がりの庭へと遊びに出ているだろう。
ラトニがそれに交じらないのはいつものことだが、今日は少しばかりの気鬱が彼を部屋に押し留めていた。
――こんな体調の日には、前世のことを思い出す。
当時住んでいた里で風邪を引いた時、彼女はラトニを自宅(と言っても粗末な小屋だが)に引き取って、せっせと薬湯を作って看病をしてくれた。
ただしその訪問方法は非常に個性的というか怪談じみていて、物も言わずに窓からひっそり覗き込む少女の顔を発見した時は、流石のラトニもうっかり心臓が止まるかと思ったほどだ。
あの日はオーリに強請って、寝付くまで歌を歌ってもらった。唄うカナリヤと揺りかごの出てくる、優しい子守歌。
熱が下がってからは、徒然に風邪対策の話を聞いた。生きた細胞の中で増殖する微生物の存在など、どんな古い里のどんな物知りの老人でも知らなかった。
(風邪を引いたらこまめに水分をとって、部屋の湿度を上げること。風邪のウイルスは湿度が四十パーセント以下になると水分が蒸発して軽くなるため、長時間空気中に漂って感染率を上げる――でしたか)
五日前、オーリと別れる時に同じ注意を受けたから、やはり彼女の知識は当時のものとほぼ遜色ないレベルを維持しているらしい。
今と言い当時と言い、存在すら定義されていないものが「在る」ことをどうして知っているのかなどやっぱりラトニには分からないが、今のところその知識が明確に間違っていたことは一度もない。「ウイルス」なんて不気味なものも、彼女が言うのならあるのだろう。
――会いたい、なあ。
右手の甲を額に当てて。
うっすらと細めた目で天井を見上げながら、ラトニはぼんやりと考えた。
会いに来てくれないことは分かっている。空き時間が出来れば街だろうとジョルジオの診療所だろうと好きに出かけられるラトニと違って、貴族令嬢であるオーリには義務と監視の目が多過ぎる。
もう、あの頃とは違うのだ。
変わっていないのは彼女の馬鹿みたいな甘さだけ。ラトニの抱く彼女への想いすら、重くなったり歪んだり、当時からすれば困惑するくらい変化してしまった。
ラトニがいつまで伏せていても、彼女は最早、夜通しラトニの傍にいてくれることはないのだ。
あの大きな窓から、怪談じみた仕草でこちらを覗き込む少女の姿は、もう二度と――
「――っ!?」
次の瞬間、ラトニは目を見開いてベッドから飛び起きた。
窓の外に、小さな影があった。室内を覗き込んでいたその人物は、ラトニと視線が合う直前に壁の向こうへ引っ込んでしまう。
――今のは――!?
追い立てられるように部屋を横切り、ラトニは窓をこじ開けた。
その名前を叫びたい衝動を堪えて、フードを被った小さな少女の姿を探す。大きく身を乗り出せば、窓下に蹲る誰かの存在が視界の端に映った。
ばっと振り向いたラトニの視線と、ばちりと目が合ったその姿はまさしく――
「――な、何だよ、オレがここにいて文句があるのかよ! べ、別に、お前が風邪引いてるって聞いて心配したわけじゃないんだからなっ!」
窓の下に蹲って顔を真っ赤にし、目が合うや否や訳の分からないツンデレをかましてきたその少年――ゼファカ・サイニーズに、その瞬間、ラトニは全ての感情を漂白されたような無表情になり。
――――ゴッス。
「ぐぶふっ!?」
数秒の沈黙の後、問答無用で振り下ろした分厚い本が、ゼファカの脳天に容赦なくめり込んだ。
ひしゃげたような悲鳴が上がった。
※※※
「何てことしやがる、この新入り!」
「黙れ杉花粉、紛らわしいことしやがって」
涙目で食ってかかった台詞をいつになく殺伐とした目付きでばっさり切って捨てられて、若干ゼファカが怯んだのがラトニにも分かった。
日々自分に嫌がらせをしたりオーリに横恋慕したりするうざいガキ大将なんぞを、よりにもよってオーリと見間違えた一分前の自分を張り倒したくてしょうがない。顔を引き攣らせたゼファカは、それでも踏みとどまってラトニの顔色を窺ってくる。
「な、何だよ杉花粉って……」
「殺意が湧くほど鬱陶しいって意味です帰れ」
「オレ殺される!?」
戦慄するゼファカに舌打ちした後、ラトニは深々と深呼吸をして何とか気を静めた。
今度はどんな嫌がらせを考えついたのか知らないが、今はゼファカの相手をしてやる余裕などありはしないのだ。本気でこいつの首を絞めたくなる前に消え去って欲しい。
しかし窓に手をかけたラトニを、慌てたゼファカが制止した。転がっていた空き箱の上に飛び乗り、室内に身を乗り出してくる。
「おい待てよ! 何閉めようとしてんだよ!」
「あなたに構っている暇と余裕がありません帰れ。あと、『彼女』のことなら僕は何も喋りませんよ帰れ」
「ばっ……! あの子のことなんて、別にオレは、お前……!」
オーリの姿でも連想したか、たちまち顔を真っ赤に染めるゼファカにかなり真剣な苛立ちが湧いたが、ラトニは無言で窓にかけた手に力を込めるに留めた。「いでででででででっ!?」と叫びながら、ゼファカが必死で体をねじ込んでくる。何だこいつ、いつになくしぶといな。
「だ、だから待てって! 今日はあの子のことじゃねぇよ! オレはお前の見舞いに来たんだ!」
「…………」
叫んだゼファカに、ラトニは一瞬投げられた言葉を噛み砕くための時間を置いて、
「……何だよその顔はあぁぁぁぁぁぁ!」
フレーメン反応を起こした猫のような顔になったラトニに、ゼファカは空き箱の上で地団駄踏んだ。
「あ、すみません。一部の単語を脳が認識拒否したもので」
「この似非クール野郎が! 難しい単語ばっか使いやがって、新入りの癖に生意気だぞぉ!」
「今背後に、殺人的な歌唱力を誇る大柄なガキ大将の幻影が見えたような……。あと僕はクールじゃなくて、あなたに対する興味がとことん薄いだけです」
「腹立つゥゥゥゥゥ!」
叫びながらも押し入ろうとするのをやめて欲しい。おい、窓が割れたら修理代請求するからな。
(見舞いに来るような間柄でもない癖に、何を考えてノコノコやって来たんでしょうね、こいつは……)
ラトニがこの街に住むようになってからというもの、ことあるごとにラトニを苛めようとしてくるゼファカと、それを悉く流して返り討ちにするラトニとの関係は決して良好なものとは言えない。
加えてつい先日、決定的にその断絶を確定させる出来事があったことは、ラトニよりもゼファカの記憶にこそ鮮明に刻まれているはずだろう。
「――何を考えているんですか」
冷ややかな声を投げつけられて、丁度上半身を部屋に押し込み終えたゼファカの肩がびくりと震えた。
「たった数日前、あなたが何に巻き込まれ、僕が何をしたのか、覚えていないはずがないでしょう。あの時、あなたは身動きもできないほど怯えていました。僕の前で尚これまで通りのいじめっ子を続けられるなんて、いくら何でも思っていないはずですが?」
「そ、それは……オレは過去を振り返らねぇ男なんだよ!」
「過去を見なければ、人はどこから学ぶんですか」
強がって叫んだ言葉に真面目に返されて、ゼファカがズドンとへこんだのが分かる。だから要するに何がしたいんだ、こいつは。
溜め息をついて、ラトニは窓から手を離した。驚いたように目をぱちくりさせたゼファカを、表情のない目で静かに見据える。
「――僕の警告が、理解出来ませんでしたか」
――ぬるり、と。
滴るような敵意を持って耳に滑り込んでくる声に、ゼファカの表情が固まった。
少年の双眸を琥珀色の瞳で睨み付けながら、ラトニは淡々と言葉を続ける。
「次はあなたが『こう』なるかも知れないと、僕は言いました。『彼女』にちょっかいを出そうとするあなたが気に食わないとも言いました。僕如きを相手に怯えたことが認められませんでしたか? あの日あなたが感じた命の危険から目を逸らし、安い自尊心のために僕に近付きますか?」
次々と抉り込むような言葉を重ねてくるラトニに、怯んだゼファカの眉が歪む。ぐ、と息を呑んだその喉が、反論の台詞を見つけられずに固まった。
当たり前の反応だ。
かつて覚えた恐怖を少しでも思い出したなら、たかが一介の子供がこれ以上突き進めるはずがない。ちっぽけな好奇心と自尊心で鼓舞していた心が竦み上がり、ラトニの方に向かっていた足は立ち止まる。
――彼女なら、と。
ふと、ラトニは無意識に考える。
――彼女なら、それでも僕の手を掴んでくれたのでしょうけど。
身を翻して、肩越しにゼファカを見やる。全ての温度が失せた眼差しに晒され、泣きそうに顔を歪めて目を泳がせたゼファカに、ラトニはとどめの言葉を突き付けた。
「――帰りなさい。あなた程度では、僕らの内側に触れることなど出来ませんよ」
そう告げたのを最後に、彼は部屋を出て行こうとして――
――軽い体重が床に着地する音と同時に、その手をゼファカの手のひらががっちりと掴み止めていた。
「――――、」
ほんの少しだけ、目を見開いて。
足を止めたラトニを強く引いて振り向かせ、真っ赤になった顔でゼファカが叫んだ。
「……ありがとよ!!」
その言葉に。
今度こそ意表を突かれて、ラトニの動きが停止した。
逃がさないように、縋るように。
しっかりと力を入れてラトニの手を握り締め、ゼファカは必死の形相で言葉を紡ぐ。
「お前がオレを嫌いだってことは分かってる! あの男を殺した時も怖かった! ……でも、お前はオレを助けてくれた。オレを見捨てて逃げたりせずに、あの男と纏めて始末したりせずに」
「…………」
「オレ、あの路地に行ったことがバレて、帰ってから母ちゃんにすげぇ怒られたんだ。あの近くは夜になると危なくて、誘拐されたり殺されたかも知れなかったんだって。
お前やあの子が何やってあの男を怒らせたのかなんて、オレには分かんねーけど――でも、勝手に巻き込まれに行ったオレが無事に家に帰れたのは、やっぱりお前のお陰だと思う。……だから、ありがとよ、新入り」
最後は大分トーンを落としてぼそぼそと呟くゼファカに、ラトニは感情の読めない顔のまま、しばし沈黙する。
うろうろと気恥ずかしそうに視線を彷徨わせていたゼファカの目が、やがていつまでも反応を返さないラトニに不安そうな色を浮かべ始めた。
ややあって、彼はそろりとラトニを見やり、前髪に隠れた双眸を覗き込もうとして――
「――いつまで手を握ってるんですか気持ち悪い」
「えばふっ!?」
強烈なビンタをかまされて、軽く真横に吹っ飛んだ。
床にへたり込んだゼファカの姿にも、傲然と睥睨するラトニは同情する様子など欠片も見せない。ふるふると頬を押さえて涙目になる少年に、ラトニは段ボール一杯の古新聞を見る主婦のような眼差しを向けた。
「もしや罵られて喜ぶ真性のドMなのかとドン引きしましたが、そうでないようで何よりです。あなたの根性に免じて礼は受け取りましょう。さあもう用は終わりましたね帰れ」
「おっ、おまっ、あんまりじゃねーか!? オレ結構勇気振り絞って良いこと言ったと思うんだけど!?」
「だからちゃんと最後まで聞いてあげたでしょう。僕はもう部屋を出るので、あなたに構っている暇はありません帰れ」
「帰れを語尾にするのはいい加減やめろー!」
喚くゼファカに埒が明かないと判断して、とうとうラトニがぐわしっとその襟首を引っ掴む。
同時に足下からゼファカを押し上げる、妙にぶにょんとした感触。それが宙に浮いた水の塊だと気付く間もなく、ゼファカは窓の外にポーイと放り投げられていた。
「――おわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
悲鳴を上げて地面に転げ落ちるゼファカに、ラトニは窓から見下ろしてフンと鼻を鳴らした。
ここは一階だから、出来ても精々擦り傷くらいだろう。がばりと身を起こすゼファカに冷静な一瞥をくれ、親指で裏門の方角を指してみせる。
「では、お帰りはあちらですよ。ああ、長雨のせいで地面はぐちゃぐちゃだと思うので、どうぞお気を付けてお戻りください」
「って既に泥だらけじゃねーか! ふざけんなよ新入り、また母ちゃんに怒られちまう!」
「僕はもうシェパに来て随分経ちますから、新入りとは言えないと思いますよ。人の名前一つ覚えていない単細胞は、このままずっと彼女にも名前を覚えてもらえなければ良い」
「おおおおおお前があの子に教えてくれりゃ良い話じゃねーか! 名乗る暇もくれないのは誰だと思ってんだコラァッ!」
「誰がそんなことしてやるもんか、通行人Aのまま振られてしまえ」
舌打ちするラトニに爪先ほどの水弾をビシバシと投げつけられて、ゼファカは慌てて距離を取った。これ以上ぐちゃぐちゃになるのは避けたいらしい。
そうして身を翻した少年は、最後にラトニを振り返って大声で叫んだ。
「また会いに来るからな、チムニー!」
その言葉を最後に駆け去っていったゼファカの背中を、ラトニは見えなくなるまで見送って。
それからきゅっと眉を寄せ、ぽつりと低く呟いた。
「……チムニーって誰だよ」
『ニ』しか合ってないんですけど。
やっぱりあのガキ、単細胞だ。
言い逃げしたゼファカのアホ面に心の中でしこたま水弾を投げつけながら、ラトニはぐぐむと不機嫌そうに顔を顰めた。
ゼファカはラトニが何処にいるのか孤児院の子に聞いたけど、その際名前はどっちも出していない。「あのさ、あの前髪めっちゃモッサリした新入りのガキ、どこにいるんだ?」「モッサリ……あー、あの子なら風邪引いて部屋に籠もってるよ」みたいな。
ラトニの言う「名前の一つも覚えられないんですね、バーカ」は、かなり遠回しの「別に名前で呼んでも良いですよ、わざわざ教えてはあげませんけど」だったりする。ラトニが他人に歩み寄った奇跡の瞬間だよ! でも別に元々、人に名前を呼ばれることに嫌悪感とか持ってるわけじゃないから、本当に微々たる歩み寄りだよ!
まだゼファカに心を開いたわけじゃないし、多分これからも無視したりしばいたり足蹴にしたりするし、認識はどうでも良い他人に限りなく近い立ち位置だけど、お友達計画の第一歩は何とか踏み出したらしい。あとはゼファカの頑張りと、ラトニの心の余裕次第。
孤児院周りの警備については完全に警備隊総副隊長の一存です。初めて副隊長がオーリからラトニを紹介された時、二人の間でラトニは気付かない無言の遣り取りがあったらしい。
さらりとラトニの名前をバラされた→出来る範囲でこっそりフォローしてやって欲しいと頼まれた、という意味だと認識して、住んでる孤児院の周りをちょっと厳重に警護。オーリに関しては名前も知らない分、孤児で相方のラトニは守る。日頃色々協力してもらってるお礼も兼ねてるらしい。




