52:天秤は揺らがない
一両日中には降り止むだろうと思っていた雨は、オーリの予想に反して四日が経っても止まなかった。
どうやら翼竜の成体化に伴って呼ばれる雨が、自然現象として付近に発生しかけていた雨雲に合体し、予想外の大豪雨へと変じてしまったらしい。
季節外れの嵐となって叩き付ける水滴は、今も木々や作物をしならせながらシェパ一帯に降り注いでいる。
食料対策に農村でモヤシ栽培を始めておいたのは良かったけど、この様子じゃ多分焼け石に水だろうな、とオーリは思った。
――閃光。
暗い空からまた一つ何処かに雷が落ちて、半ば無意識に、一.七キロか、と算出する。
自身と落雷との距離は、おおよそ三百四十メートル掛ける、音が届くまでの秒数。さて、街に設置された避雷針たちが真面目に仕事をしてくれれば良いのだが。
四日前のこと。
全身びしょ濡れになって屋敷に戻ったオーリは、傍付きの仕事に復帰したばかりのアーシャからしこたま怒られた。
暖かい屋内にいると思っていたお嬢様が、この寒空の下で雨に晒されてきたとなれば、それも当然の反応だろう。
その夜は案の定熱を出し、オーリはベッドで寝込む羽目になった。今でこそけろっとしているが、最初は高熱に魘されて食事も取れなかったのだ。
(体力馬鹿の私がああだったんだから、ラトニの具合はもっと悪そうだよね。大丈夫かなぁ……)
ラトニが住んでいるのはシェパで唯一の公営孤児院だから他に比べれば待遇は幾らかマシな方だろうが、それでもオーリが受けているほどの対処は望めるまい。
表立って関われない身分差があると、こういう時に不安で仕方ない。せめて友人関係が認められていれば、医療師を送ることくらいは出来るだろうに。
(ただでさえ、魔力が底を尽きかけてて体力落ちてるのに。実際、以前の誘拐事件で魔力を強奪された時には、意識も戻らないほど弱ってたし。
……もしも私が屋敷を抜け出せるようになってもラトニが完治してなかった時は、最悪引きずってでもイアンさんの所に連れて行こう。仮にも貴族で警備隊の副隊長なら、魔力欠乏の対処方法の一つくらい知ってるでしょ)
悶々と考えながら手慰みに弄っていた白い駒を盤上に置けば、カツンと固い音がした。
ルークにポーンにナイトにビショップ、キングにクイーン。対面し合った白と黒の駒。硝子で作られた美しいチェスタは、オーリが八歳の誕生日に贈られたプレゼントの一つである。
熱は既にほとんど引いているが、まだ部屋から出ることは許されていなかった。
嗚呼、これでは蔵書室を漁ることも出来やしない。窓を叩き付ける雨粒を眺めながら、オーリはそんなことを考えて溜め息をついた。
既に十ヶ月を越える時間を共に過ごした相方――ラトニ・キリエリルが、実は魔術師(ただし独学だが)であったと判明し、当人としては甚だ不本意だったであろうその希少な性質について調べようと決めてから、既に四日が経っている。
せめて部屋から出られれば蔵書室に籠もることも出来ようものだが、それも当分お預けとなるだろう。完治した頃にはいい加減雨も上がっているだろうし、そうなれば次は病と豪雨で休みになっていた家庭教師の授業が入ってくる。
(病気でさえなければ、抜け出して蔵書室に行っても良かったんだけど……それやったら、今度こそアーシャが泣きそうな気がするし。かと言って、アーシャに頼んで資料を探して来てもらうわけにもいかないし)
体はほぼ健康体で手持ち無沙汰なくらいだったが、今回ばかりは流石に部屋を出るつもりはない。散々心配させたアーシャに、これ以上気苦労をかけさせる気にはなれなかった。
(何の前触れもなく『蒼柩』について書かれた本を頼んで、何処でそんな言葉を知ったのかなんて聞かれてもちょっと困るしね。もう二、三日我慢して、自分で探した方が良いだろうなぁ)
懸かっているのが相方の人生ともなれば、畢竟オーリの出方も慎重になる。
もしも再びルシアに――あの美しく、少し変わり者の精霊に会えたなら、何か聞くことが出来ただろうか。そんなことを思いつつぼんやりとした目付きで駒を移動させる。
贈られたは良いものの、チェスタのルールなんて知らないので、遊び方は割と適当だ。
黒のルークが白のビショップを飛び越し、白のポーンが黒のポーンと出くわして、警戒心の強い野良猫のようにじりじり互いと距離を取る。白のクイーンが黒のクイーンとにらみ合って女の争いを始めた時、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
「はぁい」
間延びした声で応じれば、失礼致します、と声がして、盆を持ったアーシャが部屋に入ってきた。
「お嬢様、まだ微熱があるのでしょう? ベッドに入っていらした方が……」
「大人しく座ってるから大丈夫だってば。それよりアーシャ、私お腹空いたよ」
アーシャの押す台の上には、紅茶のポットとキラキラ光る琥珀色のゼリーが載っている。
金の縁取りがされた上品なポットだが、多分中身は薬草茶だろう。鼻孔に張り付くような渋みのある香りは、アーシャの淹れる紅茶からは一度もしたことがない匂いだ。
「本日は冬林檎のゼリーです。しっかり蜜に漬け込んだそうなので、甘くて美味しいですよ」
「わあい!」
存外猫被りでなく声を上げて、オーリはチェスタ盤を脇に避けた。
空いた空間にゼリーの皿と受け皿が置かれ、アーシャがポットの中身をカップに注ぐ。僅かに濁った茶色の液体は、見た目だけなら失敗した紅茶に見えなくもない。
受け皿にカップが音もなく置かれ、少しだけ液体が波打った。
「お嬢様、チェスタで遊んでいらしたのですか?」
チェスタ『を』『していた』ようには到底見えない滅茶苦茶な駒の並びが示されているチェスタ盤を見やって、アーシャが微笑ましそうに笑ってそう問うた。
駒の向きも陣地も、何故こうなったのか分からない。これを論理的に解き明かそうと思えば、チェスタの大陸王者とて匙を投げるだろう。
苦い薬草茶を文句も言わずに飲みながら、オーリが不満そうに頷いてみせた。
「うん、だって暇なんだもの。アーシャも医療師の先生も、部屋の外には出ちゃいけないって言うし」
「廊下は寒いですもの。お風邪が治るまで、お部屋で大人しくしていて下さいませ」
「もう治ったよ。喉だってとっくに痛くない」
「いけません。雨の日に剥き出しの回廊なんて通ったお嬢様が悪いのですよ。明日にはまた医療師殿がいらっしゃいますから、もう一度診て頂いてからになさって下さい」
案の定頑固に首を横に振るアーシャに、オーリは残念そうに肩を落とした。
如何せん、暖かいとは言え自室に籠もってひたすら雨音ばかり聞いてると、何だか気分が鬱々としてくるのだ。
ラトニのことも気になるし、「動けない」というのはどうにもストレスが溜まってしょうがない。
「雨、止まないねぇ……」
ぽつりと呟いて、オーリは窓の向こうに視線をやった。
三日前の夜をピークに幾分雨足の弱くなった天気は、しかし今もまだ轟々と風を唸らせている。
アーシャも苦笑して、「庭師が死にそうな顔をしておりましたよ」と言った。
「お嬢様が気に入られていた花壇も、この分では全滅でしょうね。もう少しで花が咲きそうだったのに、残念ですわ」
「そっか、来年は見られると良いなあ」
クリスマスツリーの飾りのように小さな赤い玉を揺らした黄色い花は、沢山集まって揺れているとなかなか壮観で面白かった。
冬に咲く数少ない花の中でも特にお気に入りの花壇だったのだが、やはり今年は諦めなければならないようだ。
何となく、王都で一度だけ入った温室のことを思い出し、あれなら嵐の影響は受けないだろうな、と考える。
一瞬両親に強請ろうかと真剣に考えて、金銭感覚が狂いかけていることに気付いて慌ててその思考を振り払った。
あの両親ならあっさり作ってくれそうな気がするが、庶民の家を一軒建てるよりも高額の部屋を、観花のためだけに欲しがる八歳児というのもどうなんだろう。
(エルゼさんたち、元気かなあ……。花壇と言えば、うち郊外に農園も持ってるって言ってたっけ。この冬林檎もそこの生産品だったりして)
侯爵家直轄の農園となれば、流石に「天通鳥」としては入れない代わり、「オーリリア・フォン・ブランジュード」を止められる者はいないだろう。
今度見学を頼んでみよう、と考えながら、オーリは華奢なデザートスプーンを手に取った。林檎の欠片が見える箇所を狙って一匙掬えば、弾力のあるゼリーが灯火を照り返してふるりと揺れる。
風邪を引いてからというもの、オーリに出されるスイーツは、ゼリーやプディングなど、喉に刺激の低いメニューが多い。どうやら今回のゼリーも、普段出てくるものより大分柔らかく作ってあるようだった。
――余談だが、フヴィシュナに流通しているゼラチンは動物性タンパク質ではない。
何でもとある植物から採れる液体成分を加工せずそのまま使っているらしく、その植物が然程珍しいものでもないと知ったオーリは、下町にもゼラチンが普及している理由はそれかと納得したものだ。
「お嬢様、お味は如何ですか?」
笑顔で聞いてくるアーシャに、オーリはにこりと笑い返して頷いた。
「美味しいよ、アーシャ。気に入ったって、厨房に伝えておいてくれる?」
「はい、承りました」
ゼリーのようにシンプルなものならともかく、基本的にフヴィシュナの菓子は、手が掛かるレシピになるほど大味だ。
ある程度大雑把でも許される料理と違い、菓子作りには極めて繊細な手順と技術が求められる。
例えばバターを砂糖と合わせる際、根気良く練り込むか事前にバターを溶かすか、牛乳を冷やすか室温にするか、卵を砂糖に加えるか砂糖を卵に加えるか、それだけでも分かる者には随分味が違ってくる。
小麦粉や砂糖の量を減らせばそれだけ他の工程で調節が要るし、果物を煮込む時も、甘さや鮮度により、必要な砂糖量や煮込み時間は容易く上下するだろう。
つまりこの国では、その辺りの理論が未だ確立していないのだ。
上流階級を相手にする菓子職人が経験的に理解している程度だが、少なくとも市井まで広まるには相当な時間がかかるに違いない。
オーリの『一回目』の世界の歴史に、美食を疎んだ国王が即位したせいで城仕えをしていた大量のお抱えコックがクビになり、その彼らが街で店を開いたせいで一気に市井の料理技術が発達した――なんてことがあったが、フヴィシュナでそんな展開は望めない。技術の発展には一人でも多くの探求者が必要なんだけどなあ、と思いながら、オーリはゼリーの最後の一欠片を飲み込んだ。
――技術の、発展。
「……ねえ、アーシャ。アーシャは凄い魔術師になりたいって考えたことがある?」
デザートスプーンを無造作に置き、何でもないように問いかければ、散らかした絵本やぬいぐるみを片付けていたアーシャが不思議そうに振り向いた。
「魔術師、ですか。幼い頃に絵本で読んで、少しばかり憧れた記憶はありますが……」
「そっか。あのね、私も最近読んだんだ、『アーリエンジェの森のまほうつかい』。あんな風に大きい魔法、びしばし使えたら格好いいなあって」
「ああ、あの絵本……そうですね、なれると良いですわね」
穏やかに、けれど曖昧に笑うアーシャの言いたいことは分かる――多分、オーリがそうなれる可能性は高くないと考えているのだろう。
貴族の子供は神殿で八歳の祝福を受ける時、簡単に魔力の多寡を測られる。王都で祝福を受けた際、そこで告げられたオーリの魔力は、決して多い方ではなかったのだ。
魔力の大半を身体能力強化に回しているにしろ、魔術に回せる魔力量が少ないことには変わりなく、その事実を知るアーシャが子供の夢に傷を入れることを慮ったに違いなかった。
(一定以上強い魔術師になるには、魔力量が絶対条件。だからこそ、魔力持ちは国に「保護」される。強い魔術師は、たとえ貴族だろうと、なろうと思って容易くなれるものじゃないから)
カチン、カチン、カチン。
チェスタ盤に手を伸ばし、黒のビショップで白のルークを蹴飛ばしながら、オーリは黙考する。
あの莫大な、むしろ人外レベルの魔力量を『蒼柩』が危険視される一因だと考えるなら、他の魔術師のレベルを引き上げることで、相対的に『蒼柩』の価値を下げられないだろうか。
もしも国内に強い魔術師の数が増えれば、或いは魔力が少なくても強力な魔術を使える可能性が出てくれば、『蒼柩』は躍起になって確保するほどの価値を持たなくなるし、万一『蒼柩』が暴れた時の抑止力にもなる。
せめて「とても強い魔術師」より少し上、程度の認識になってくれれば、伝承のせいで忌避はされても、国家権力を敵に回す危険は低下するだろう。
(ああ、でもそれにはやっぱり、神殿の存在がネックになってくるんだよなぁ……)
国が戦力を欲しがるのは分かる。けれど、神殿までもが動く理由が分からない。
数多の国に渡って強大な権威と歴史を誇り、人々の心や生活に深く根付いた宗教は、この国の上層部とも不可視の糸で切り離せないほど結び付いている。神殿が強行に『蒼柩』の引き渡しを求めたならば、フヴィシュナとて無碍には出来ないと思われた。
――かつて国や神殿に連れて行かれた『蒼柩』は、その後どうなったのだろうか。
(……そう言えばラトニは、『蒼柩』に関する話を何処で知ったのかな?)
ふとそんな考えが浮かんだが、多分シェパに来る前に誰かが教えたのだろうと結論付けた。
オーリが出会った時からラトニは髪を染めていたし、もしかしたら今よりもっと幼い頃、ラトニを守るために言い聞かせた者がいるのかも知れない。
――カチン、と音がして、黒のポーンが黒のナイトと位置を交換した。
無意識に口を付けた薬草茶は、すっかり冷め切っていた。
――いつか、ラトニの存在が明るみに出る時が来るかも知れない。
冷えて渋みの増した薬草茶を飲み干しながら、オーリはそんなことを考える。
オーリはこの国が、シェパの街が好きだ。
治安が良くなくても、内側からじわじわと腐り落ちてゆく傷みかけた果物のような香りがしていても、路地裏に転がる人間の数がちっとも減らなくても。
それでも、ここはオーリを生み育んだ世界で、ラトニと出会わせてくれた街だった。彼女にとっての聖域であり絶対の芯である日本の記憶とは別にしても、沢山の人々が必死に命を営む場所で、アーシャにジョルジオにイアン、エルゼやシエナやクロード――たった八年の間に、多くの人と出会った国だった。
こうして生きてきた以上、与えられた分は返そうと、オーリは心に決めている。屋敷の奥で丁重に守られ、健やかに育てられた分、それを支えてくれた家や領民に、オーリは相応の何かを返す義務がある。
それは例えば領地振興だったり、政略結婚だったり、領民の未来や平穏を守ることだったり。
公として何かが必要になった時、オーリは支払うべき対価と、切り捨てるべきものの選択を躊躇うつもりはないわけで、その選択肢には条件次第で自分や両親の命さえ、容易く含まれることになるわけで。
――けれど、もしもいつか。フヴィシュナという国のために『蒼柩』という存在を支払わなければならなくなった時。
この国の平和と平穏のために、どうしても『蒼柩』を差し出さなければならなくなった時が来たならば――
(――私は、この国が好きだ)
自分に言い聞かせるように、オーリはそう確認する。
オーリリア・フォン・ブランジュードは、フヴィシュナ王国が好きだ。そこに住んでいる人々も――まあ碌でもない連中だって腐るほどいるが、幸せになって欲しい人たちは沢山いる。
(もしもそれを維持するために、平穏を壊さないためにラトニを差し出さなければならなくなったなら、きっと私は――)
――フヴィシュナが好きだ。シェパが好きだ。
けれど。
そんな『国』とラトニを天秤に掛けた時、オーリは、多分選んでしまうのだ。
(――きっと、私は国を許せない)
その瞬間、薄暗く光った彼女の目の輝きが、時折ひっそりとラトニが浮かべているそれに酷似していることを、彼女は自覚していない。
泡のようにふつりと浮かんだその予想は、しかし決意にも似た確信だった。
だって、今こうして数多の知人たちの顔を並べてみても尚、ラトニと同じ位置に登ってくるものが一つもないのだ。
オーリが領地に対して抱く信念を、義務感を、罪悪感を。
その全てを国ごと天秤に載せたとしても、傾きはびくとも揺らがない。
(幾ら何でも考え過ぎだって、笑い飛ばせたら良いんだけど……多分ラトニ自身もそう思ってないから、あんなに神経質になって隠そうとしてるんだろうね)
過去が語る限りにおいて、恐らく『蒼柩』にはそれだけの価値がある。
その内情は間違いなくオーリが思っている以上に複雑で、上層部の権力闘争なんかも交えれば、確実に首を突っ込まない方が賢い選択だと言えるもので。
(でも、その当事者がラトニってことになっちゃうとなー……)
ラトニがああも人を拒絶している理由が、己の抱える秘密故だとするならば、放置するのも国の寛恕を期待することも、ラトニのためになど何一つならない。
実際のところ、オーリは好奇心も強いが、同時にそこそこ慎重派でもあるのだ。現れた『蒼柩』がちょっと関わった知人程度だったとしたら、深く干渉しようなんて、ましてやリスクを犯してでも助けようなんて絶対に思わなかっただろう。
持ち得る権利と義務の全てを切り捨てても、それだけは譲れない。
それが天秤に乗った時だけ、オーリは他の全てを選べない。
――たった一人の相方は、あらゆるものと代えがきかない。
(やっぱり、出来る限りのことはしよう。『蒼柩』については資料を探す。ラトニのことは全力で隠す。もしもバレたら、ラトニの身柄を押さえられる前に、全権力使ってラトニを逃がそう。最悪ラトニは死んだことにしても良いし、それで私まで国にいられなくなるようなら、一緒に逃げても構わないし。
そうして、あらゆる逃げ道を試して尚、この世界でラトニが真っ当に生きられないのなら――)
――カチン、と。
硝子細工の駒が一際硬質な音を立てて、振り向いたアーシャが「あらあら」と苦笑する気配がした。
「もう、お嬢様ったら……ナイトは自軍のキングをどかせて場所を奪ったりしませんよ。良かったら、蔵書室からルールブックを探して参りましょうか?」
「あはは、分かってるってば、アーシャ。冗談冗談」
へらりと呑気に笑顔を浮かべて、オーリはぱたぱたと手を振ってみせる。それから何でもないように、「ルールブックは今度で良いや」と付け加えた。
盤上から放り出された白のキングが、天井の明かりを反射して、つるりと澄んだ光沢を放った。
ラトニが人を拒絶しているのは前世から引き継いだトラウマと執着心のためであって、『蒼柩』のことは実はあんまり関係なかったりする。たとえ髪色で他人に忌避されたとしても、そもそもそんな反応で傷付くほど他人に期待も関心も抱いていない。
オーリもオーリで意外とラトニに執着してきているそうです。当人に何の非もないことで国家権力から理不尽に踏みにじられる事態となれば、そりゃもう児童虐待以上にブチ切れる。
前世の件を除く全てのことを唯一理解してくれて、ひたすら自分を信じて傍にいてくれる相方となれば、まあオーリの性格上、自分の命よりは大切になってもおかしくはないかと。
良かったねラトニ、刷り込みは着実に成功してるよ!




