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いつか見る果て  作者: 笠倉とあ
シェパ・蛇と魔獣編
50/176

48:ポケットの中で砕けたビスケットの欠片

 翌日の空は薄く灰色の雲がかかって、いつもの抜けるような青色が僅かに薄れていた。

 晴天とは言えないが、雨が降りそうとも言い切れない。少し迷った結果やっぱり出掛けることにして、オーリはいつもの道から屋敷を抜け出した。

 山の天気は変わりやすいから、注意しないといけないだろう。大蛇への手土産をどうしようか考えた後、何が良いのか分からなくて、結局厨房で如何にもカロリーがありそうな(そして多分廃棄予定だった)脂身の巨大な塊を紙に包み、三つほど体に巻き付けて持ち出した。


「しかしあなたはこう……一々やることが残念な人ですね」


 街で合流した後、彼女の姿を見たラトニは、先端のへし折れた万年筆を見る目で心の底からそう言った。


「あっはっはっ、まあ気にしない気にしない。なんかもう、今更だし」

「無自覚よりマシだと言うべきか、自覚があるからこそ手がつけられないと言うべきか……」


 前髪で覆われた額を抑えて、ラトニは呆れたように息を吐く。

 巨大な脂肪の塊を抱え、いざ山登りと鼻息を荒げる少女。令嬢以前に女の子として、彼女の行動はなんかおかしいと思う。


 尤も「オーリリア」の時なら、彼女がしっかり外面を取り繕っていることもラトニは知っている。

 今日は街歩きをしない予定だからこそノコノコこんな装備で現れたのだろうし、それならばこの間抜けな格好とて、ラトニ以外と接するつもりがない証拠と言えるだろう。

 要は取り繕う必要もないほど気を許されているのだと思えば、ラトニとしても悪い気は――


 ――そこまで考えて、ラトニはスパンと平手を閃かせると共に、自己欺瞞に満ちた思考を空の果てまで放り投げた。


「いややっぱりヘンでしょうこれは。なんか、微妙に隣を歩きたくないんですけど」

「あいたっ、絶妙にスナップを効かせた一撃! しかも随分な言い草だよオイ!」

「だってこれ、ちょっと脂くさいですよ。おんぶされたら臭いが移るんじゃないですかね」

「クサいとか、女の子相手に言うことか! 覚えておけよ小童、一番辛いのはそれをやってる当の私だってことをな……!」

「そんなに臭いがきついなら、せめて箱詰めにでもして来なさいズボラ娘」


 オーリがわざとらしくニヒルな顔で反論してくるが、格好が格好なので全く様になっていない。

 何と言うか、時季が冬だからまだしも、夏だったら完全にアウトの蛮行である。溶けて腐った脂肪が一体どんな悪臭を醸し出すことか、きっと鼻の良いオーリでなくてもこの世の地獄を見るに違いない。


 いっそその図太い根性を讃えるべきだろうか、なんてことを思ってラトニが再び溜め息をついたのと、道の向こうから聞き覚えのある声が届いたのは同時だった。


「――ねえ、そこにいるの、昨日の子たちじゃないの?」


 のんびりとしたマイペースな声色に、振り向いたのは二人同時。

 見れば丁度通りかかったところらしく、革鎧を着た三人連れが通りの向こうからこちらを見ているところだった。


 昨日山で出くわした、四人連れの冒険者のうち三人だ。

 確かアルフーリェと呼ばれていた青年の指す方向に従い、フランカとゼクタがこちらを見やる。

 オーリたちの姿を確認するや否や、すぐに目を見開いて小走りにこちらへやって来た二人に、オーリが「あれ」と呟いた。


「こんにちは、フランカさんたち。一人少なくないですか?」

「ハイ、リアちゃん、ラト君。えーと、シーグはねー……」


 言いにくそうに口ごもって、フランカが苦笑する。


「約束の時間を三十分は過ぎてるのに、まだ来ないのよ。様子を見に行こうにも、自宅を知らないから困ってたとこ」

「あれ、フランカさんたち、別の街から来たって言ってませんでした?」

「それはあたしたち三人のこと。シーグはシェパに住んでるソロ冒険者で、今回の依頼の時だけ手を組んでるのよ」

「一昨日も馴染みの女の人がいる店で深酒してたらしいし、今日もそれで寝過ごしてるんじゃないかと思ってるんだけどねー」

「アルフーリェ、子供に生臭い話するんじゃないわよ!」


 のんびりと歩み寄ってきたアルフーリェにフランカが噛み付く。潔癖の気があるのか情操教育に煩いのかは知らないが、目を吊り上げる仲間にアルフーリェはしれっとした顔で肩を竦めてみせた。

 代わりにゼクタが膝を折り、申し訳なさそうに眉を下げて聞いてくる。


「シーグはシェパにも慣れてるだろうけど、道端で酔い潰れてたりしたら流石に危ないしさ、ちょっと心配してるんだ。昨日あいつが散々追いかけ回した後でこんなこと聞くのは何だけど、昨日の夜から今日にかけて、あいつを見かけたりはしなかったかい?」


 問うてくるゼクタにオーリはラトニと顔を見合わせ、同時に首を横に振ってみせた。


「すみません、私は知らないです。元々酒場とかの方はあんまり行かないし」

「僕もです。お仲間のことは心配でしょうが、お役に立てそうにはありません」

「そうか……ああいや、良いんだ、気にしなくて。それより、昨日は怯えさせて本当に済まなかった。あんなことはもう二度とさせないから」


 苦笑して手を振り、ゼクタは二人に謝罪する。元々それを言うためにわざわざ走ってきたのだろう、昨日はその場にいなかったフランカも――アルフーリェは興味がなさそうにそっぽを向いていたが――申し訳なさそうにオーリたちを見つめている。

 律儀だなあ、と思いながら、オーリもへらりと笑ってみせた。


「私は怪我もしなかったし、大丈夫ですよ。逃げ足には自信があるんです」

「なら良いんだけど……あなたたち、今日も山に行くの?」

「そのつもりですけど」

「そう、なら呉々も気を付けてね。ところでその紙包み、やたら大きいけどお弁当か何か?」

「そんな感じです」

「脂の染みらしきものが見えるんだけど……」

「脂物なんで」

(脂そのものでしょう)


 ラトニの内心のツッコミが聞こえたような気がして、オーリは殊更にっこりと笑顔を作ってみせた。ラトニの手を引いて、山の方角へと身を翻す。


「じゃあフランカさんたち、私たちはもう行きますね。山の天気に気を付けて、お仕事頑張ってください!」

「ええ、ありがとう」

「リアちゃんたちも怪我しないようにな」


 口々に言ってくる彼らにぱたぱたと手を振って、オーリはラトニの手を引いて歩き出す。

 屋根を走って移動するにも、まずは人目のない場所に行かなければ、一瞬で消え去る子供の姿はさぞ目撃者の記憶に残るだろう。


 歩きながら、二人は小声でぼそぼそと会話を交わした。


「……ねえ、あの大蛇さんと一緒にいるところ、フランカさんたちに見られるのはやっぱりまずいかなあ」

「見られないに越したことはないですけど、万一の時は事情を話してみたらどうですか? どうやらシーグさん以外の人たちは、話の分からない性質でもなさそうですし」

「シーグさんかぁ……あの人とはちょっと顔合わせにくいなー……」


 大雪に埋め、立ち聞きを見つかり、鬼の形相で追いかけ回され、睡眠薬をぶっかけられ、最終的には木の実をぶつけて逃げ出したのは、全てつい昨日のことである。

 ゼクタはああ言ってくれたが、実際に会えば殺す勢いで睨まれるくらいは覚悟しておいた方が良いだろう。


 面倒臭そうに嘆息したオーリに、ラトニはただ、そうですね、といつものように短く相槌を打った。

 大丈夫ですよ、とも、あの人のことなら心配いりませんよ、とも、何も言わなかった。




※※※




「こんにちはー、大蛇殿ー!」

「約束通り来ましたよ」


 蛇たちが仮の住処にしている洞窟の入り口から二人並んで声をかけると、間もなくショッキングカラーをした双頭の大蛇――フタマタノオロチがずるりと姿を現した。

 しゅう、と小さな音が聞こえ、それより幾分小さい蛇たちも、にょろにょろと顔を覗かせる。


『人族の幼体たちか。――他に人の気配はない、お前たちは下がっているが良い』


 左の頭がそう告げて、眷族たちを引っ込める。

 オーリが持って来た脂の塊を渡してやれば、大蛇は二又に分かれた尻尾をかろかろと揺らし、機嫌良さそうに包みを受け取った。


 如何にもハイカロリーな白い脂の塊は、どうやら蛇の口には充分許容範囲内らしい。包みの中身を確認し、大蛇はしゅう、と喉を鳴らして礼を言った。


『食料か、感謝する』

『肉、ナカナカ見ツカラナイ』

「いえいえ、どういたしまして。肉って言うか、脂の塊ですけどね」

『次ハ果物ガイイ』

「あれ、今催促された?」

「なかなか図太い蛇ですね……。これも野生の強かさというやつなんでしょうか」

「エサ持ってない人間を的確に見分けてくる野良猫みたいだね。ある意味裏表がないんだけど、明け透け過ぎてもしょっぱい気分になるわ」

『あまりあれこれと強請るでない、右の。こういうことは自主的な気遣いでやらせるからこそ長続きするのだと教えたであろう』

「仕込んでたの片割れだった! 裏表ありまくりだったよ!」


 驚愕するオーリを無視していそいそ包みを眷族たちに預け、大蛇は改めてゆるりと頭を持ち上げた。


 つるりと丸い目が二人の姿を捉えた途端、ぐわり、と大蛇の体が膨れ上がったように感じる。

 子供たちの覚悟を問うように、溢れ出す不可視の威圧感。蛍光グリーンの双眸がぬらりと光り、オーリとラトニを睥睨した。


『――なれば人族の幼体たちよ、これより我らの約を果たそう。――我らが恐れる天敵の前に、その身を晒す心構えは充分か』

「……いや、何事もなかったかのようにキリッとした顔したって、今更格好良くないですからね。逆に格好悪いですからね」

「しかも右の大蛇さんが早速脂身食べてるんですが」

『右のオォォォォォ!!』


 絶叫する左の頭に、他の蛇たちと一緒になってぐむぐむ口を動かしていた右の頭は、ビクッと震えてそっぽを向いた。


「……よっぽどお腹空いてたのかな」

「いえ、頭は二つでも胴体部分は共用ですよ。単に食い意地張ってるだけでは」


 ぼそぼそ言い合うオーリたちを余所に、左の頭がガミガミと片割れを叱り始める。空気を読めと言いたいらしかったが、右の頭は明後日の方を向いたまま素知らぬ様子でごくんと喉を動かした。

 確か蛇の口は、あまり咀嚼に向いていない作りをしているのだったか。ほとんど噛まないまま呑み込まれた脂の塊が、喉を落ちていくのが微妙に分かる。


 一頻り無駄な説教をした後で、左の頭は再度オーリたちに向き直った。

 マイペースな片割れに深々と溜息をつき、彼は『待たせて済まんな』と短く謝る。いえいえと手を振るオーリたちに、大蛇はかろ、と尻尾を鳴らし、視線で自らの背中を示してみせた。


『これより、奴に奪われたねぐらに案内しよう。我らの背に乗るが良い、人族の幼体たちよ――我らは奴に近付くことは出来んが、ねぐらに向かう道は幾分入り組んでいるのでな』


 お前たち二人きりで歩かせるには少しばかり難しかろう、と。

 告げられた台詞に、オーリとラトニはぱちりと顔を見合わせて。


「じゃあ、お言葉に甘えます。乗り物酔いはしない方だけど、出来れば揺らさないようにしてくださいね」

「あまり狭い道は、引っかかっても困るので通らないでもらいたいです。昨日は何度か振り落とされかけましたよ」


 注文をつけつつよじ登ってきた二人に、『注意しよう』と頷いて。

 双頭の大蛇は洞窟に背を向け、ずるずると移動を開始した。


 道無き道を進む大蛇(単数形にするべきか複数形にするべきか微妙に迷う)の背中は、彼らの気遣いの賜物か存外揺れも少なく、鱗がひんやり冷たいことを除けばなかなか座り心地の良い場所だ。

 大蛇には昨日も街まで送ってもらったそうだが、オーリが意識を保ってここに乗るのは今回が初めてである。

 如何せん、前回は睡眠薬をまともに食らって爆睡していたせいで、蛇の背に乗る前から記憶がないのだ。


 ――最初は蛇の背中から周囲の景色を観察する余裕もあった二人だが、進み始めてから小一時間も経つ頃には、ラトニの口数が幾分少なくなっていた。

 彼はごしごしと目を擦り、オーリの袖をぎゅうと掴んでくる。


「……なんだか変な感じがしますね……確かに見えている茨の茂みや動物の姿を、幽霊のようにすり抜けて進むというのは」


 オーリの隣で大蛇の背に揺られながら、ラトニは少し眉間に皺を寄せてそう言った。


 先程から、彼はきょろきょろ辺りを見回したり、見えない何かから顔を庇いかけるような素振りを見せている。

 そのたびオーリが首を傾げているのだが、大蛇にはその原因が分かっているようだった。


『我らのねぐら――冬駕籠の滝が近いということだ。この辺りには年間通して幻覚作用を持つ花が群生し、外敵の侵入を阻んでいる。僅かでも花粉を吸えば惑わされるぞ』

「あー、道理で蛇種魔獣の冬眠場所に選ばれるはずですね。そう言えば、ちらほら同種類の花が見えるような」

「黄色に縞模様が入ってるあれでしょうか……マスクくらいじゃ防げそうにありませんね」


 幻覚作用のある花粉が人や魔獣の意識を惑わせ、それ以上奥へと入り込ませない。耐性のある蛇たちや、幻術特化の魔術具である黒石の首飾りを持つオーリと違って、ラトニにはしっかり幻の山道が見えているようだった。


 びっしりと刺を付けた茂み、目を離した隙に形が変わる道、手招くような白い人影、気味の悪い鳥の声、妙に甘ったるいような花の匂い。


 山の異変の一つとしてギルドに情報が上がっていた「奇妙な幻覚」は、恐らくこれが原因だろう。

 これならば無防備な冬眠中でも外敵の不安は低いだろうと、オーリは胸元で揺れる首飾りを片手で弄った。耐性のない者が踏み込んだなら、さぞかし気味の悪さに背筋を粟立たせるに違いない。


「ラトニ、間違ってもはぐれないようにね。ここで幻術耐性のない人が一人になったら、間違いなく遭難するだろうし」

「気を付けます。よく見ればぼんやり正しい光景が見えるんですが、そうすると目が疲れてきて……」

「無理しないで良いよ。私は魔術具の効果で幻覚が効かないんだから、私から離れなければ良いだけだし」


 魔術の幻覚以外に対しても効果があるとは思わなかったが、効いてくれる分には都合が良い。

 ぽすぽすと肩を叩いてやれば、ラトニは「なら遠慮なく」と言ってオーリの手を握り締めてきた。指を絡める必要があるのかはともかく、手を繋ぐのは確かに迷子予防の基本だろう。


 それと同時に、大蛇の動きが止まった。『降りよ』と指示する大蛇を、オーリたちはきょとんと見上げる。


『着イタ。コノ先』

『このまま進めば間もなく、我らの住処であった滝に着く。奴が今もそこにいる限り、我らはこれ以上先には行けん』


 口々に言う二つの頭は、余程例の魔獣に近付きたくないのだろう、最早そこから動くつもりはなさそうだった。


 目の前には絶壁、けれど魔術具を着けたオーリの目には、崖の間を抜けるように細い道が見えている。

 オーリとラトニは頷き合い、大蛇の背から飛び降りた。


「了解しました。送ってくれてありがとうございます」

「一応言っておきますが、僕らはあくまで見てくるだけですからね。無闇に接近する気も、事を構える気もありませんよ」

『ソレデイイ』


 右の頭が頷いて、左の頭が目を細めた。


『重々承知している。お前たちはただ、「見に行く」だけだ。それ以上の行動を起こすなどと、我らは思っていない』

「……分かっているのなら良いんですけどね」


 繰り返し念を押す大蛇に、ラトニは無意識に眉を寄せる。

 大蛇の台詞に微かな違和感を感じた気がしたが、ラトニの疑問が言葉になる前に、オーリが跳ねるように一歩踏み出した。


「もう良いよラトニ、早く行こう。大蛇さんたちが何を考えていようと、一つでも多く判断要素が必要なのは確かだもん。このまま放置して、万が一にもこの大蛇さんが冒険者に狩られた場合、統率を失った蛇種魔獣たちがどうなるか、想像は簡単につくでしょ?」


 オーリの言葉に、ラトニは顰めっ面をした。


 当初は深入りするつもりのなかったオーリのことだ、この先にあるという貴重な薬草に興味を奪われていはいても、最低限の冷静さは保っているらしい。

 どうやら彼女も大蛇の言葉に違和感を感じ、けれど追及しないことにしたようだった。


 彼女の言葉は正しい。どの道、冬眠の出来ない蛇種魔獣が山をうろついているなんて不自然な状態が、長く続けられるわけもないのだ。

 これまでは奥地にいたという魔獣がここまで出向いてきた現在、生態系に悪い影響を与えていないとも限らない。大蛇が何を企んでいようと、ここで何もせずに引き返せば、利益だって当然ないままである。


「確認しますけど、滝に近付きさえしなければ、すぐに攻撃されることはないんですよね?」

『是』


 オーリの問いに、大蛇は首肯した。


『あれは普段、滝壺の底で眠っている。感知能力は高くないから、小娘程度なら水に触れるほど近付かなければ気取られはしないだろう』

「だってさ、ラトニ。『成体化の近い魔獣の住処にされた場所』がどうなってるかだけでも見てこない? 向こうは多分姿を見せないし、一回でも攻撃されたらダッシュで逃げるってことでどう?」


 小首を傾げて提案するオーリに、ラトニはしばし沈黙し、やがて深々と溜め息をついた。じっとりした目でオーリを見上げ、諦めたように眉を顰める。


「……分かりました。でも、呉々も好奇心に負けて油断なんかしないでくださいね。こんなことで、あなたに怪我なんてして欲しくありません」


 繋いだ手にきゅっと力を込めて言うラトニに、オーリはへらりと頬を緩めてみせた。


「うん、気を付けるよ。逃げ足だけは任せといて」


 深入りする気は今でもない。自分とラトニの安全を確保しつつ、魔獣の様子だけ大雑把に確認できればそれで良い。

 自分が怪我をするよりもオーリの傷を厭うラトニを、自分の身と一緒に抱えて逃げるくらい朝飯前だ。きっとどんな危険に対峙した時だって、一瞬で担ぎ上げることができるくらい、ラトニはオーリの近くにいるのだから。


 自らも相方の手を握り返しながら、呑気な笑顔を浮かべてみせたオーリは、薄暗い細道の方へと向き直る。

 そうして暗がりへと伸びる長い道を、並んでゆっくりと歩き始めた。


 透明な水の匂いが、ふっと鼻を突いたような気がした。



 ラトニの何が怖いって、人一人ゴキョンとやっておいて、その仲間の目の前で微塵の動揺も見せずに平然と「それは心配ですね」とか言える精神構造が一番怖いと思います。

 多分推理物の犯人とかやることになったら、「うっかり失言して探偵に怪しまれる」とかのミスは絶対にやらないタイプ。謎解きの手掛かりが偶発的事故以外に発生しない、滅茶苦茶タチの悪い犯人になります。



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