24:存外世界というものは、うまく回っているようで
その部屋には、奇妙な光景が広がっていた。
ソファに寝転がって目だけをぱっちり開いている、両手を後ろ手に縛られた少女。
少女の傍で呑気に毛繕いをしている、水色の小鳥。
凍り付いたように少女を見つめてダラダラ冷や汗を流す、顔面蒼白の男が二人。
少女の明るい灰色の視線が、まるでピンのように自分たちの体を縫い止めているような錯覚を覚えて、二人の男は息を呑む。
ややあって、寝転がったままの少女はぱかりと薄桃色の唇を開き、鳥を想わせる高い声で徐にこう言った。
「ケアーロって、なんかカエルが欠伸したみたいな名前ですね!」
「第一声で的確に他人の過去の傷抉ってきやがったよ!?」
絶叫したツンツン髪の男に、びくりと肩を震わせたオールバックは、引き攣った笑顔で口の端をひくつかせた。
※※※
「あー、つまり、今まで色恋に縁のなかった枯れたおっさんが、片恋拗らせて暴走した結果が今の状況ってこと?」
「まだ枯れてねェから! そんな年じゃねェから! ちょっと出会いが無かっただけだからァァ!」
互いに一通り状況を整理して、ケアーロが土下座したり、ルバートが土下座したり、ケアーロが泣いたり、ケアーロが余計なことを言ったり、ルバートがケアーロの顔面を床にめり込ませたりした後で。
両手の拘束を丁重に解かれ、裏社会のボスの如き風格で堂々とソファに体を預けたオーリは、膝に待機するクチバシと同じ呆れ返った目を、床に正座する二人に向けた。
「出会いはあっても向こうに発展させる気が無かったんじゃないの? 女の人って結構しっかり男を値踏みしてますからねぇ。今の今まで何も無かったんなら、きっとこれからも何も無いままですよ。妻も子供もいない寂しい老後! 体が動かなくなる前にしっかり貯金して、孤独な隠居生活に備えておくことをお勧めしますよ!」
「ごぶるぁァァァァッ!!」
容赦ない連続攻撃を食らい、ケアーロがバーサーカーのラッシュでも直撃したような悲鳴を上げて討ち死にする。何やら思い当たる節があったらしいが、相手は誘拐なんぞという真似をやらかすような阿呆なので、オーリの対応もぞんざいなものだ。友人らしいルバートだけが、致命傷を食らったケアーロに切なそうな顔をした。
「ケアーロ……報われない奴だとは思ってたが……」
「カエルの欠伸おじさんはほっといて。結局私、すぐに帰れるんですか? 夕方の鐘までに帰れないと色んな意味でえらいことになるんですけど」
「その呼び方やめてやってくれねーか……昔同じこと言ったガキ大将にカエルの卵投げ付けられて、こいつ今でもカエルが駄目なんだよ」
控えめに抗議してから、ルバートはガリガリと頭を掻いた。
「嬢ちゃんのことは、出来るだけすぐに解放してやる。大事になるのはそっちも困るんだろ?」
「ええ、ちょっと訳有りで。だから両親への謝罪とかも要りませんよ。なんかもう追及するのもアホらしくなってきたんで、ここは貸し一つってことで収めといてあげます」
「しっかりしてやがる」
苦笑したルバートは、おいこら起きろとケアーロの頭を蹴り飛ばした。数秒置いてのろのろ起き上がるケアーロに、オーリを指差して言い付ける。
「ケアーロ、俺は今から外の様子を見て来る。万一話が広まってたら面倒だからな、騒ぎにならないようにしなきゃなんねェ。お前、責任持って嬢ちゃんの面倒見てろ」
「うう、分かった……すまん、ルバート」
「ルバートさんも苦労しますねぇ……」
「コイツも冒険者としてなら腕が良いんだけどなぁ……」
項垂れるケアーロと気の毒そうなオーリに苦笑いしてみせ、「なるだけ急いで戻る」と言い置いたルバートは、忙しなく部屋を飛び出していった。
畢竟、部屋にいる人間は二人だけとなり、ケアーロはやりにくそうに胡座を掻く。
「あー……嬢ちゃん、なんか飲むか? 確か保冷箱にジュースがあったはずだ」
「いえ、お構いなく」
「遠慮とかいらねぇんだぞ?」
「や、この部屋の埃を見る限り、おじさん最近あんまり家に帰ってなかったでしょう? それにおじさん、あんまりジュースなんて飲みそうにないし、貰い物を入れっぱなしにしてたんじゃないですか? 保存状態が不安だから、喉は渇いてるけどやめときます」
「冷静に分析された!」
慄くケアーロをさらりと流し、オーリは自分からも話題を振った。どうせ手持ち無沙汰なのだ、世間話くらいはしても良い。
「そのシャロンさんって人、東の出身らしいですね。髪の色は私と同じなんですか?」
「ああ、色はもう少し黒みがかってるが、長い綺麗な髪だった。美貌は似ても似つかねェがな」
「……。……一目惚れでそこまで入れ込むくらいなら、余程の美人なんでしょうね!」
「そりゃあもう! 細くて儚げで優しくて、毒々しさの欠片もない繊細な人だよ! 同じ東の血でこうも違うのかと思うくらいだ!」
「……。……へえ」
「仕草一つがたおやかで、気遣いも上手な人なんだ。胸も大きくて泣き黒子がちょっと色っぽくて、いやお前と比べてるわけじゃない、つるぺたのお子様には、色気なんかまるで無い方が健全なんだからな」
「…………」
「あ、でもだからって、いつかはシャロンさんみたいになれるなんて悲しい期待はするんじゃねぇぞ? 同じ東の出身でも、お前とシャロンさんは血の繋がりもない赤の他人なんだからな。
なに、お前もそこそこ愛嬌のある面してるんだ。そのどす黒い性格隠して頑張れば、いつかはお前みたいなのが良いって言ってくれる奇特な奴も見つかるさ。モテるかどうかは分からんが」
「…………」
「ああ、でもフェデリカちゃんなら別かねぇ。会ったことはないがシャロンさんによく似た可愛い子らしいし……きっと将来はシャロンさんみたいな美人になるんだろうよ……。どうしてこんなのと人違いなんてしたんだ、俺……」
ぶつぶつ言いながら情けなさそうに肩を落とすケアーロを余所に、クチバシはちらりとオーリの顔を見上げてみた。
いつしか相槌も打たなくなったオーリは、少し垂れ目の相貌に全開の笑顔を張り付け、一見すれば溌剌とした空気を纏ってケアーロの話を聞いていた。けれど千ワットの電球が輝いているような煌めく笑顔は、見る者が見れば凄まじい混沌と威圧感を背後にぐるぐる渦巻かせている。
そうしてケアーロの惚気を一通り聞き終えた後、オーリは明るい笑顔のまま口を開いた。
「――とても面白いお話、どうもありがとうございました。ところで私、ちょっとおじさんに聞いて欲しい話があるんですけど、構いませんか?」
「おう、何だ何だ、何でも言ってみろよ! 俺は嬢ちゃんのお守りでここにいるんだからな、話だろうが相談だろうが幾らでも聞いてやるぜ!」
「ありがとうございます。――使用人で試すのは、ちょっと良心が痛むからなァ……」
気が済むまで惚気を語って機嫌が良いのか、景気良く引き受けたケアーロの返答に。
ボソリと呟き俯いたまま、ニィィィ、と禍々しく吊り上がったオーリの唇に気が付いたのは、きっと真下から見上げていたクチバシだけだったのだろう。
上着の下に隠れた黒石が、じわり、と微かな魔力を帯びる。部屋の外へ繋がる扉が薄暗い幻を纏ったのを確認して、クチバシは目の前の男が自力でこの部屋から脱出できなくなったことを悟った。
――そうして、オーリは語り出す。かつて彼女の魂の故郷で真夏の夜を席巻した、世界に冠たる物語たちを。
「――じゃあ、まずは初級から。これは東の地方で愛好される、黒い髪の女の子の姿をした人形の話なんですけどねぇ……」
――慈悲も是非も、最早無し。
稲●淳●ばりのホラー語りが、一片の容赦もなく異世界民家で炸裂した。
※※※
――斯くして話は最初に戻る。
何度捨てても帰ってくる人形の物語に一発で歯の根が合わなくなったケアーロは、けれどなけなしのプライドを掻き集めて最後まで部屋に踏み留まり、話が終わった直後にトイレを装い部屋から逃亡を図るも、オーリが事前に発動していた黒石が威力を発揮して阻止された。
幻術に必要なものは、想像力と創造力。もっと必要なものは、ターゲットの脳に直接誤情報を叩き込むほどの、強い意志力と干渉力。
つまりここでは、果てしない報復精神に裏打ちされたドS心である。
結果ケアーロは見事に絡め取られ、部屋の出口が分からなくなった。逃げ場を絶たれたわけである。
怯え震えるケアーロに、オーリは一切容赦しなかった。
吹雪の山荘で遭難した、四人の男と一つの死体。
真夜中の山中で木に釘を打ち付ける、恨みと憎悪に狂った白装束の女の姿。
ひとりかくれんぼと呼ばれる、ぬいぐるみを用いた呪詛の話。
何かが出ると言われたトンネルに、閉じ込められた男の体験談。
時には髪を振り乱した女の影を見せ、時には首元に触れる冷たい感触を感じさせ、時には背筋に氷塊を落とし込むようなおぞましい泣き声を聞かせ。
やがてケアーロが形振り構わず顔をぐちゃぐちゃにして許しを乞うようになる頃には、オーリはしっかりと黒石の扱いを修得してのけていた。何事もやる気と楽しみが上達の要因という一例である。
ちなみに、この場で一番冷静だったのが、恐らく最初から最後までオーリの膝の上で平然と話に耳を傾け続けていたクチバシだ。新たな闖入者が扉を蹴り開けて来た時も、気付いて反応したのはこの小鳥だけだった。
「――というわけで、これは純然たる復讐であり正当防衛であるのです。つまり私は悪くない」
「話は分かったけど突っ込み所が多過ぎて困るな」
こんな強かな誘拐被害者見たことない、と呟きながら、事情を飲み込んだ青年は苦笑した。
被害者加害者双方の間で、最早空気はぐだぐだな色に染まり切っている。一体この事件をどう収めようかと思案し始める青年の姿を、オーリは幾分感嘆の思いで見上げていた。
(しかしこの人、えらい美形だなぁ)
何でもこの青年はシエナの店の常連客であるそうで、今回も彼女に頼まれてオーリの救出に来てくれたのだと言う。
職業は冒険者らしく、身分証明にギルドカードを見せられたが、いっそ何処かの王族だとでも言われた方がオーリとしては納得出来た。何せ彼は、ラトニという前例を知っているオーリですら、うっかり見惚れてしまうような芸術品じみた美貌の持ち主なのだ。
青年の年齢は、恐らく十代半ばから後半。
全体的には、精悍だが極めて涼しげな容貌と言えるだろう。健康的な肌色と筋肉、隙のない立ち姿から見て取れば、彼が腰に提げる剣に相応しい技量の持ち主だと窺えた。
切れ長の目はしなやかな立ち振る舞いを引き立てて、微笑を切らさない唇が途切れぬ余裕を見せ付ける。
身動きするたびさらりと揺れる大雑把に纏めた髪は、光の加減で紫がかって見える鮮やかな銀髪だ。冬空のような青い瞳で冷たく見据えられたなら、底知れぬ魅力に魂まで吸い込まれるか、はたまた五体投地して神に縋るように許しを乞うか。
いずれにせよ、徒や疎かに流せはしない人種である。その外見だけで充分噂に上るに足る人間だということは、顔を見た瞬間一目で分かった。
――だからこそ、ケアーロが彼を見て無反応だったことに、オーリは違和感を覚える。
ピィイ、と警戒を促すような鳴き声を発してみせたクチバシに、青年をじっと観察していたオーリは、分かっている、と頷いた。
油断しているわけじゃない。ただ、敢えて警戒を示すつもりもないだけで。
紫銀の髪の青年は、部屋の入り口までやって来た警備隊員にあれこれ指示を出している。げっそりした様子のケアーロと、戻ってきたルバートが連れられて、何やら説明を受けながら部屋を出て行った。
反論もせず青年に従う隊員たちを眺めながら、オーリは青年の横顔を観察する。至極真面目そうな眼差しに、後ろ暗いもののある人間ではなさそうだと見当をつけた。
(こんな目立つ容姿で、警備隊にコネまであるような冒険者を、どうして王都を拠点にするケアーロおじさんが知らないのかは分からないけど。でも、どうやら他人に害を為すような人じゃなさそうだし、シエナさんの依頼で来てくれただけなら、もう会うこともないでしょ)
クチバシの羽を撫でながらそう考えたオーリは、代わりに別のことを思い出して溜息をついた。目敏く聞き付けた青年が、オーリの方を見て微笑する。
「疲れたのかい? この後見せたいものがあったんだけど、良かったらシエナの店まで送らせるから、君は先に休んでおく?」
気遣いの透けて見える提案に、オーリは慌てて首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。今日、人と会う約束を破っちゃったこと、どうしようかと思ってただけなので」
「知り合い……シエナのことかい?」
「シエナさんもなんですけど、彼女に紹介してもらう予定になってた人がいて。まだ顔も合わせてないのに失礼なことしちゃったから、何て謝れば良いか……」
好意で紹介してくれたのに、初っ端から約束をブッチ。事情があるとは言え、オーリの価値観的には許し難いミスである。
今更ずぅんと落ち込むオーリに、青年は「何だそんなことか」と苦笑した。
「心配しなくても、約束の相手は怒っていないよ。事情はよく分かっているし、むしろ君が期待以上に面白い子だったことが分かって喜んでいる」
ソファの前に膝を付いて、青年はオーリと視線を合わせた。ぱちくりと瞬いた灰色の目が一拍置いて見開いたことに、彼は少女が正確に言葉の意味を察知したことを知る。
とても満足そうな眼差しをして、彼は唇を吊り上げた。
「――そう言えばまだ名乗ってなかったな。
俺の名前はエルゼ・マックルーア。今日、シエナに君を紹介される予定になっていた人間だよ」
宜しく、リアちゃん。
凛と咲き誇る水仙のように綺麗に笑う青年に、オーリの口がぱかりと開いた。
※※※
今回の事件の関係者が、揃ってケアーロの家から連れ出された後。
エルゼが三人を連れて来たのは、ケアーロ宅の五倍はありそうな大きな家の前だった。
大人が三人、子供が一人、鳥が一羽。そんな一団が物陰に隠れて他人の邸宅を覗くのは、正直通報ものの光景だったが、恐らくこのうち少なくとも一人は、そんなことが全く意識に昇らないほど脱力しているようだった。
「――シャロン未亡人の夫で、フェデリカ嬢の父親であった人は、どうやらかなり強かで頭の良い人であったようでね」
耳に心地良くも存外力強いエルゼの声が、今回の焦点となった人々のことをオーリたちに説明する。
彼らの視線の先では、オーリと同年代の可愛らしいツインテールの女の子が、濃茶色の長髪の儚げな女性に全身で抱き付いて、明るい笑い声を上げていた。
彼女たちの傍には頑固そうな痩せた老人がおり、黙って二人の姿を眺めている。やや渋い顔をしてはいるが、引き離そうとする気配はないようだ。
「駆け落ちした息子夫婦が同じ王都に住んでいながら、頑固な父親が一切手を出せなかったのはそれが原因だな。尤も、息子が死んでからはその限りではなかったようだが……その性質はきっちりと、孫娘に受け継がれていたというわけだ」
ツインテールの少女――フェデリカが、満面の笑顔で祖父を見上げる。愛らしい唇から発された感謝と「おじいちゃん大好き!」の言葉に、老人は一瞬だらしなく笑み崩れかけた顔を必死で厳格に整えた。
「……お、俺のやったことって……」
地面に手と膝を突いて崩れ落ちているケアーロには構わず、エルゼは平然とオーリを見下ろしながら説明を続けた。
それによると、どうやらある日突然祖父の家に連れて行かれたフェデリカは、事情を知って母の元へ逃げ帰るのではなく、頑固な祖父を籠絡することに全力を注いでいたらしい。
祖父も祖父で、長年連れ添った妻にも先立たれ、自分なりに可愛がっていた息子にはあっさり出て行かれた後ともなれば、無邪気な(に見える)笑顔で懐いてくれる、息子の面影を色濃く残した幼い女孫には、さぞかし内心デレデレしていたことだろう。
「こ、この世には怖いガキしかいねぇのか……!」
「失敬なオールバックですねこの野郎」
じろりと睨まれ顔を引き攣らせるも、ルバートはフェデリカから目を離せない。母親似の可愛い女の子としか思っていなかった少女の意外な計算高さと腹黒さに、こっそりショックを受けているようだった。
「ちなみにシャロン未亡人は、このままフェデリカ嬢と一緒に義父の家に住むそうだ。遅まきながら正式に息子嫁と認めると、つい今朝方決定があった」
「あ、これケアーロおじさん詰みましたね」
「…………!!!!」
缶から出したホワイトアスパラよりも力無く倒れ伏すケアーロの姿に、ルバートが涙を堪えるように目を逸らした。慰めの言葉が思い付かない。
――その時、ふとフェデリカがこちらを見た気がして、オーリとルバートはぎくりとした。
こんな所から自分たちの姿を覗き見ている一団など、どう考えても怪しいことこの上ない。けれど怯えた顔をするかと思ったフェデリカは、一瞬考えるような顔をした後ルバートとケアーロに視線を向けて、殊更にっこりと愛らしく笑ってみせた。
「…………」
「…………」
沈黙するオーリたちの前で、彼女はひらひらと手を振ってみせ、再び勢い良く母に抱き付いていく。そうしてこちらを振り向こうとした母のスカートを引いて止め、彼女は和やかに祖父と会話をしながら邸宅の中に消えていった。
ピィ、と右肩からクチバシの声が聞こえてきて、オーリはようやく我に返った。
「……エルゼさん、私たちがここに来ること、彼女に教えました?」
「少なくとも、俺はあの子と会話さえしたことはないな」
内心の読めない笑顔で楽しげに答えるエルゼに、オーリはまたしばし沈黙する。
無意識にクチバシを撫でながら、徐にぽつりと呟いた。
「……これケアーロおじさん、フェデリカちゃんと面識なくて良かったんじゃないですか?」
「俺もそう思った」
やたらと重々しいオーリの呻き声に、ルバートが虚ろな声で肯定を返す。
自分はシャロンに友情しか持っていなかったから良かったが、もしもケアーロがフェデリカと顔を合わせていたらどう認定されていたか。何となく、母に集る害虫として迅速に心を折られていたような気がしてならない。
(そういやコイツが入れ込む相手って、大体とんでもねぇ保護者が付いてて告白にすら行き着けないことが多かったなぁ……)
具体的には、過保護な両親とか、腹黒い幼馴染とか、鬼より怖い女友達とか。想う相手におっとり系が多かった分、その埋め合わせのように周囲の人間が曲者だったのだ。
幼馴染の恋愛遍歴を思い出して、ルバートはしょっぱい顔になる。なんかコイツ、自ら泥沼に踏み込んでいってるような気がしてきた。
――ケアーロ、どこまでも報われない奴……。
打ち伏す友に哀れみの眼差しを向けるルバートの視界の端で、「そろそろ帰らね?」とでも言いたげに、水色の小鳥がくわぁと大きく欠伸をした。




