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いつか見る果て  作者: 笠倉とあ
シェパ・閑話編
109/176

105:少年よ、大志を抱け

 かつては渾々と温泉が湧き出ていたのであろうその場所は、今はぽつぽつと草木の生えた土が剥き出しになり、もう随分長い間誰も訪れていないのだろうことが見て取れた。


 水場にぽかりと空いた穴は乾き切っていて、最早湧き水は望めない。

 こんな小さな村ならば、温泉水は貨幣を得るための貴重な手段だっただろう。

 水が枯れた後も一応掘ってはみたような形跡はあるが、適当にシャベルを振るったところで都合良く水脈を掘り当てられるわけもなく、ぼこぼこと歪な痕跡を残す茶色の大地だけを残して、かつて温泉であった場所は放棄されたようだった。


(ここに来る途中、遠目に大きな沼があるのが見えました。井戸も多いし、水脈があるのは確かですが、温泉となるとどうなんですかね……)


 早速ダウジングロッドを構えて辺りをうろつき始めたオーリを横目に見ながら、枯れた水場を調べていたラトニは微かに眉を寄せて立ち上がった。


 ラトニならば地中の水脈を探るくらい容易いことだが、オーリの興味対象にはダウジングという行為そのものも含まれていることを知っているから、彼がそれを申し出ることはない。

 楽しそうに歩き回るオーリは、何やら遠くを指差してみたり、大きな岩の根元を爪先で掘ってみたり、無駄にぐるぐる回ってみたり、彼女なりの基準でダウジングを行う場所を探っているようだった。


 彼女はダウジングに関して大した知識はないと言っていたが、もしも本当に何かが埋まっているなら、反応する可能性は低くないはずだ。

 尤も、それが良いものであるかは分からない。

 まともに魔術一つ使えぬ身とは言え、彼女は仮にもそれなりに大きな魔力を有している。更に勘や本能といった無意識の部分が人より発達している上、妙なところで悪運が強いから、ダウジングだってもしかすれば、妙なものを引き当ててしまうこともあるだろう。


 そんなことを思いつつ、ラトニがふらふらと付近を散策していると、オーリが呑気な声をかけてきた。


「ねーラト、キミもやっぱり参加しない? キミ魔力高いし、ロッドの材料はないけどペンデュラムもどきならすぐ作れると思うんだよね」

「……いえ、遠慮しておきます。僕はあなたほど、こういう方面に興味はないので」

「楽しいのに。おまじないとか魔術とか、私好きだなー。実は遺跡で引き出した力をもう一回引き出せないかと思って、最近ちょいちょい試してるんだ」

「へえ。何をしてるんですか?」

「こないだは、適当な封珠に目一杯魔力を注いで発動させてみたよ。威力大きくなったりしないかなーって」

「うまくいったんですか?」

「何故か全部爆発した」

「駄目じゃないですか」


 灯りも水も炎も、あらゆる効果の封珠が爆発した。どんな小さな封珠でも、ある一定の限度を越えて魔力を注ぐと必ず爆弾と化したため、多分怪我がなかったのは奇跡である。


 ――でも、オーリはどうしても、魔力操作を覚えたかったのだ。


 以前の遺跡事件において、オーリは魔力の扱いに慣れているからという理由で、難度の高い制御室の掌握をラトニに任せざるを得なかった。勿論オーリ自身も別の場所で自分の役目を果たしたし、それが最善の方策だったと今でも思っているが、それでもやはりそれは結果論であり、もしもあの時ノヴァという協力者がいなければ、結末は二人のうちどちらかの、或いは両方の命を失っていたであろうことは想像に難くない。


 遺跡で感じた、あの強い魔力の感覚をもう一度。

 それが出来れば、きっとオーリは更に一歩前に進める。もしも魔術師としてのスキルを手に入れられたなら、あの遺跡で起きたようなことは――オーリに魔術のスキルがないがために、ラトニに多大な負担をかけるようなことは、もう起こさなくて済むかも知れない。

 ――尤も、そう思って挑戦した結果は、残念ながらやっぱり今ひとつだったのだけれど。


「少しくらい、魔力操作の訓練になるかと思ったんだけどねぇ……。独力じゃ駄目でも、封珠の力を借りれば魔術も使えるかなって」


 はふ、と息を吐いて、オーリは悩ましげに下唇を尖らせる。彼女の魔術に対する憧れを知っているラトニも、困った様子で思考と視線を泳がせた。


「元々リアさんは常時肉体強化の方に魔力が費やされていますから、故意にそれ以外の魔術に魔力を流そうとすると、魔力回路が誤作動を起こすのかも知れません。だとすれば、いきなり魔術の練習をするのではなく、封珠というワンクッションを挟んだのはむしろ良かったかも知れませんね。

 失敗した封珠も、威力があるなら爆破魔術の代わりに使えると思いますけど……その辺りはどうでしたか?」

「小さい兎くらいなら仕留められるかなってレベル」

「大分微妙ですね」


 それでは威嚇程度にしかなるまい。ラトニは溜息をついた後、「どうあれ、大した怪我がないだけでも良かったです」と話を切り替えた。


「魔術は僕の領分ですよ。リアさんにはリアさんの武器があるんですから、あまり無茶なことはしないでください」

「んー……遺跡事件で色々あったから、今なら使えるようになるかも知れないと思ったんだけどなあ」


 むっすりと頬を膨らませるオーリは、前世の頃から魔術や竜――「大いなる力」に憧れを持っていた。

 今回、遺跡事件で今までにない手応えを感じた分、もしかしたらという期待も大きいのだろう。以前王都の神殿で祝福を受けた際、「魔力が低い」と診断されたことを、本当はずっと気にしていたから。


「気持ちは分かりますが……でも、下手なことをやらかしてご両親に話が伝わる方が困るでしょう。先日農園に来ていたアーシャとかいう侍女さんだって、しっかりあなたのことを見ているようでしたよ」

「あー、確かに封珠の実験も、結局アーシャに見つかって怒られたなあ……」


 そうオーリが苦笑いした時、不意に彼女の構えた二本のダウジングロッドがすいっと動いた。

 逆さの山型を作るようにぱかりと大きく開いたロッドを見て、ラトニは一瞬彼女が自分で動かしたのかと考えたが、ぱあっと輝いた彼女の顔に、眉唾ものだと思っていたダウジングがどうやら本当に機能したらしいと悟る。


「見つけたよラト、ここ掘れワンワン!」

「はいはい」


 それまでの会話は一旦置くことにしたらしく、早速地面に飛びついて勢いよく掘り返し始めたオーリにへとラトニはマイペースに歩み寄る。直接手は出さないが、魔術で固い地面に水を含ませてやれば、柔らかくなって掘りやすさを増した土がより一層激しく巻き上げられた。


 泥遊びをする元気な犬の如きオーリに近付けばこちらまで泥だらけになってしまうだろうから、ラトニは適当に距離を空けて彼女を見守る。

 ついでに、魔力を水面の波紋よりも密やかにざわめかせて、近くに隠れている一つの気配を探り出した。

 意識と警戒をそちらに向け、オーリの背中に固定した視線だけをひっそりと強めて瞳を鋭くする。


(やはり、気配の察知は彼女の方が圧倒的に鋭い。僕は言われるまで気付きませんでした)


 ――誰もいないと思っていた場所で、オーリがラトニを「ラト」と呼んだ。探ってみれば案の定人が隠れていたようで、二人きりの時間を邪魔された彼はじんわりと空気を不機嫌にする。


(ただの野次馬とかなら良いんですが)


 潜んでいるのは恐らく村人の誰かだろう。


 何の用で二人を追いかけてきたのかは知らないが、こういう小さな村が、時に余所者を排斥するほど閉鎖的であることを二人は知っている。もしやこの場所に、村にとって『余所者に知られては都合の悪いもの』がないとも限らない。


 考え過ぎなら良いのだが、と思いながら、ラトニはひたすら土の噴水を眺め続ける。

 間もなくオーリの動きが止まり、「なんか見つけたー!」とはしゃいだ声が聞こえてきた。

 オーリが高々と両手に掲げ、持ち出してきたそれを見て、ラトニは不思議そうな顔をした。


「何ですそれ。水脈が見つかったわけではなさそうですが」

「分かんない。なんか鍵がかかってるみたいだけど」


 手のひら二枚分ほどのサイズの粗末なそれは薄っぺらくて、見た目よりずっと軽そうだ。振ってみても音がしないが、鍵までかけて空っぽの箱を埋めることはないだろう。


「どうするんですか?」

「鍵の在処なんて分からないじゃない。こじ開ける!」


 矯めつ眇めつしながら箱を観察していたオーリがきっぱりと言い切って、箱を地面に置いて力を込めた。

 思い切り良く力を込めた腕に、薄っぺらな箱が耐えられたのは数秒のこと。バキンッと壊れた蓋を投げ出し、二人揃って中を覗き込む。


『……………………?』


 そうして、中に入っていたもの――何やら古びた布切れを見て、やっぱり揃って首を傾げた。


「何これ。お宝には見えないけど」


 謎の布切れをつまみ上げ、オーリはハテと目を瞬かせる。

 怪訝そうに指を顎に当てながら、ラトニもじいっと観察した。

 魔力を感じるわけでもなく、ごくありふれた安い布の手触りだ。どうしてこんなものが、後生大事に埋められてあったのか分からない。


「ん? あれ、何だろう。ねえこれ、なんか覚えのある形してない?」


 布をぴらりと広げたオーリが何かに気付きそうな顔をして――その時近くで聞こえた小さな足音に、二人はぱっと振り向いた。


 土を踏む乾いた音を立て、向けられた視線にその人間の肩がびくりと震える。

 そこにいた幼い人間――つい先程村で道を聞いた、鮮やかな金髪の少女を見て、オーリがぱちりと目を見開いた。


「あれ、君、確かさっきの……?」


 何か言いたいことでもあるのだろうか、おどおどと言葉に迷う姿に困惑を覚える。

 一体何のためにこんな所まで追ってきたのだろう。もしや不穏な話なのかと身構えるオーリが、無意識に布切れを握り締めて皺を作った。


 けれど、その仕草を目にした少女は、何故かぎゅっと唇を噛み締める。

 布切れを握り締めるオーリと、黙って自分を見据えているラトニを交互に見て俯き、やがて意を決したように顔を上げ、勢いよく頭を下げて叫んだ。



「すみません! それボクのパンツなので、返してください!」



 ――両者の間に落ちた沈黙は、きっと地獄よりも重かった。




※※※




 ロムノと名乗った美少女曰く、第一印象でオーリたちが感じた通り、やはりこの村は著しい過疎化で悩んでいるようだった。


 生活難による若者の流出、それに伴う働き手の減少。

 打開策として、別の村との合併――即ち、同じように過疎化に悩んでいる寒村への大規模移住を検討しているらしいが、現在それに待ったをかけているのが、他ならぬロムノと、先方の村の後継者にして、この村の村長の孫である少年との不和だった。


 なんでもこの村――仮に村Aとする――には、集会や礼拝などに使われる小さな神殿があり、老いた神官が一人常在しているらしい。

 引っ越し先の村――こちらは村Bとおく――にも神殿があるが、そちらは神官が王都に呼ばれていなくなってしまい、老神官に異動の話が出たのが移住の切っ掛けだったそうだ。


 村Bの神殿は村Aの神殿よりほんの少しだけ大きく、また村の規模も少しだけ大きい。

 更に、双方の村の跡継ぎ問題もここに絡んでくる。


 村Aの村長には息子と娘がおり、娘は村Bの村長の元に嫁に行って、子供を一人作った。

 しかし、兼業で下級冒険者をしていた娘夫婦は、村長稼業に専念するため引退を決意し、最後の依頼にしようと言っていた仕事に出かけた際、運悪く大型魔獣に出くわして死亡。

 一方、村Aの次代を継ぐはずだった息子夫婦の方は、町に買い出しに出た時病気をもらってきたらしく、子供もいないうちにこれまた死亡。


 つまり、村Aの跡継ぎがいなくなったのである。


 村Bの方は現在、先代の村長――つまり村Aの村長の娘が嫁いだ男の父親――が、孫が大きくなるまでの代理で取りまとめているそうだが、そちらは村Aの村長よりも年上である分いつまで保つか分からないため、村Aの村長にも助力を求めているという。


 これらの事情が相俟って、村Aの住人が纏めて村Bに移住することに反対する者はいなかった。

 老神官自身、真面目な人柄で慕われていたことも手伝って、話は滑らかに進むと思われた――


 が、ここで問題になったのが、前述の通り、ロムノと村長の孫との確執だったというわけである。


「ボクは幼い頃、この村の神官様に引き取られて、将来は神官様の後を継げるよう育てて頂いている孤児の身です。そんなボクを村長のお孫様が強く嫌っているとなれば、村長も神官様も無視するわけにはいかないらしくて……」

「それでも、村長個人が君や神官殿に悪印象を持ってるわけじゃないから、孫を宥めるのに手間をかけるに留まってるわけか」


 蝶が羽ばたくかのように美しく金色の睫毛を伏せて滔々と語ってくれたロムノの言葉を、途中からオーリが引き取ってそう結んだ。


「面倒臭いけど、深刻な問題ではなさそうだね。村長の孫が駄々捏ねてるだけで、大人たちは真面目に考えてるみたいだし」

「孫にしても、ロムノさんと同じ村に暮らしたくないほどの鬱憤を抱えているわけではなさそうですね。最初に盛大にぶすくれた手前、今更引っ込みがつかなくなったというところではないでしょうか」


 口々に分析する二人を、ロムノはおろおろと見比べている。ハンカチの如くその手に握られたパンツがなかなかシュールだが、そちらはオーリもラトニも見ないようにしていた。


 ――尤も、単純だからこそ悩ましい問題ではあった。

 養い子の問題がそのまま保護者責任に直結するのは致し方ないが、神官の異動という件があったからこそ村人の大規模移住という行為が認められたというのなら、村人だけが移動し、神官には別の村や町に異動してもらうという手は使えないだろうし、そんなことをやらかした村に次の神官が送られてくるとは思えない。


 神殿や神官を備えた村は決して多くはなく、それによって得られる幾らかの恩恵を思えば、村長とて神官やその養い子を手放したくはないはずだ。

 ましてや原因が子供の揉め事となれば、村長が孫可愛さに強く言えない程度で、解決そのものは時間の問題とも言えた。


 ふっ、と自嘲ぎみに笑って、ロムノはまた口を開いた。


「お孫様――ナウィルも、ほんの半年前までは、あんな風じゃなかったんです。この村に遊びに来るたび、ぶっきらぼうだけど声をかけてくれたり、花をくれたり、いつか同じ村で暮らせれば良いなって言ってくれることもあったのに、ある日急に刺々しくなって……」


 ――それプロポーズだったんじゃないの?


 耳を傾けていた二人は同時に同じ疑問を抱いたが、とりあえず最後まで話を聞くことにする。

 ロムノの翠の瞳が潤み、真珠よりも艶めかしい雫がぽろりと溢れ落ちた。


「村長が言ってました。ここ数十年間、この村はだんだん年寄りに暮らしにくくなってるって。だから早く移住の話を進めたいのに、ナウィルはボクを嫌う理由を絶対に大人たちに話そうとしない。

 この村は、ボク以外に子供がいないんです。同じ年頃の子と遊べるのは、ナウィルがこの村に来た時や、ボクが神官様に連れられてあちらの村を訪ねた時くらいで……。初めてナウィルに会って話しかけてくれた時、嬉しかったのに……」

「う、うーん、何でだろうねぇ……」


 正直「思春期」の一言で切り捨てたいところだが、実害が出ている以上、それではロムノも納得できないだろうからやっぱり黙っておく。


 まあ、これほどの美少女ともなれば、ナウィルとやらが少々厄介な拗らせ方をするのも仕方がないだろう。

 如何せん、ロムノは同性かつラトニを見慣れたオーリでさえも見惚れるレベルの美貌である。ボクっ娘というのは珍しいが、それとてロムノがやるなら親しみやすさを示すスパイスとなる。


「ボクはナウィルの後をついて回るばかりで、友達との仲直りの仕方なんて分かりません。だから今日、仲の良さそうなリアさんとラトさんに出会って、何かヒントを得られないかと、こっそり後を尾けてしまったんです。……まあその先で、以前ナウィルに嫌がらせで取られたパンツが発見されるとは思いませんでしたが……」

「ああ……あれはショッキングな第一声だったね……」


 恥ずかしそうに頬を赤らめるのは良いが、とりあえず手に持ったパンツをしまってくれないだろうか。自分がドヤ顔で美少女のパンツを発掘した時のことは、できればこのまま記憶の彼方に放流しておきたい。


「今日も、ナウィルは移住の話し合いのために、彼のもう一人のお祖父様であるあちらの村の村長に連れられて来ているんですが、顔を合わせるなり舌打ちしてボクを罵倒し、そのまま駆け去ってしまいました」

「あー、それは傷付くわー」


 ラトニは既に興味の失せかけた様子をしているが、オーリは気の毒そうな顔をした。

 この礼儀正しく気弱そうな少女が、ずっと仲良くしていた友達に罵られて、平然としていられるわけもない。


「ナウィルが冷たくなってからは、いつもそうなんです。あちらの村に行くたび、ナウィルは取り巻きと一緒に寄ってたかって、ロムノのムノは無能のムノだの、玉無しだの、貧弱ゴミ虫の馬糞ヤロウだのと罵倒し、ボクは泣きながら彼らに、群れるだけなら蟻にもできるんですよとか、陰険なファッキン腰抜け共は豚の尻でも舐めてなさいと中指を立てる、そんな悲しい関係になってしまった」

「あっ、心配なかった! 意外とがっつりやり合ってたよこの子!」

「儚い顔して滅茶苦茶口悪いですね。そういうの嫌いじゃないです」

「ラトの目に興味の光が戻った! て言うか、そのえげつない毒舌は許されて良いのか、聖職者見習い!?」

「神官様にご相談したところ、聖職者たるもの悪しき言葉に屈してはならぬと、立ち向かうための参考文献を頂きました。『実録・心が折れる一言全集』全五巻」

「聖職者とは」

「そんな奇矯な本が五巻も出てることと、それをロムノさんが真剣に読破したこと、どっちから突っ込めば良いんでしょうね」


 まずそんなものを何故真面目な老神官が所有していたのかから突っ込みたいが、オーリがそれを口にする前に、ロムノが悲痛な声を上げた。


「ボクは、ボクはもう嫌なんです! こんな、互いを傷つけ合うだけの関係は! また以前みたいに、ナウィルと、皆と一緒に遊べる関係に戻りたい! 折角以前ナウィルが言ってくれたように、一緒の村で暮らせる機会なのに!」

「や、でもさ、やっぱりそこまで避けられるに至った原因が分からないと対処が――――……待て」


 不意にオーリは、引っかかるものを覚えて動きを止めた。

 先程聞いたロムノの台詞を記憶の中から探り出し、そこに含まれた奇妙な一言を掬い出して眉間に皺を寄せる。


 ただの、言葉の綾かも知れない。

 けれど、もしもこれが真実だとしたら――仲の良かった少年が突然冷たくなったことも、その理由を誰にも話そうとしないことも、全て説明がついてしまう。



「……………………『玉無し』、って……………………?」



 ごくり、と唾を呑んで、ナウィルが言ったという罵倒の一つを繰り返すと、ラトニがはっとしたようにロムノを見つめた。

 ロムノは不思議そうに首を傾げ、「その言葉がどうかしましたか?」と問い返す。


「あの……私の認識が正しければ、これ男に対して使う罵倒だよね?」

「はい、そうですね」

「あと、もう一つ聞きたいんだけど――ナウィル君が冷たくなる直前、君たち何してた?」


 何かの確信を持ったように問いかけるオーリに、ロムノは愛らしく首を傾げ、さらさらと繊細な金髪を揺らしてあっさりと答えた。



「ボクが池で水浴びをしていたところに、ナウィルが一人でボクを探しに来たんです」



 ――謎は全て解けた!!


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