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いつか見る果て  作者: 笠倉とあ
シェパ・閑話編
102/176

100話記念番外:風切り羽は除かれない(前)

 百話記念で番外IFです。主人公二人の生まれを交換。もしもオーリが庶民でラトニが貴族だったら。

 名前はラトニ→オラトリエルになっています。あんまり深いこと考えずに、さらりとお楽しみください。



 王国フヴィシュナの南方領主の中でも特に高い権威と爵位を持つある家が住まうシェパの街は、その某家当主の気質も手伝ってか、事あるごとに華やかな集いが開かれる。

 そんなシェパの貴族たちの中でも、殊更パーティーが好きな人物として知られるその伯爵の館は、本日もまた賑やかな喧騒に満ちていた。


 例えば今、夜闇に包まれた庭から見る者でもいたならば、窓一枚隔てたこの大広間は別世界のようにすら思えるだろう。


 広い空間には色とりどりのドレスが翻り、見ているだけでも十二分に華やかだ。

 更に、招待客たちの全身で財力と権力を誇示するように煌めく様々な宝石や装飾品は、見とれるのを通り越し、相乗効果でいっそ目が眩むほど激しく自己主張している。


 部屋の片端に寄せられた大テーブルにはずらりと軽食が並ぶが、食事に集中する者などほとんどいない。

 ウェイターにドリンクを注文する者がいたり、グラス片手に男同士で談笑する者がいる一方、色鮮やかなカクテルを持って妙齢の令嬢や夫人に声をかける貴族子弟もいる。


 大広間の天井では吊り下げられた巨大なシャンデリアがきらきら輝き、壁際に活けられているのは溢れんばかりの生花。

 上品な音楽に乗ってダンスを踊る人の影がくるくると動き回り、人々が楽しげに笑いさざめく音が外にまで洩れている。


 夜会の時間はまだたけなわと言うにも早く、集った人々は大方この時間を精力的に楽しんでいるようだ。


 けれどその中を一人、迷いもなく出口へと進んでいる人間がいた。

 あちこちから向けられる熱っぽい、或いは僅かな妬心や悪意を込めた視線を悉く無視して、その人物はすいすいと人波の中を抜けていく。


「――ブランジュードの若君? どちらへ行かれますか?」


 不意にかけられた声に、その人間――ライトグレーの上品な正装に身を固めた、枯れ葉色の髪と瞳を持つ青年が、ぴくりと小さな反応を見せた。

 マナー違反にならない程度の早足で部屋を横切っていた彼は、半拍置いてするりと滑らかな仕草で振り返る。


 その青年――恐らくまだ二十歳にも届いていないだろう。シャンデリアの灯りに照らし出されるその顔は、いっそ人間離れした凄絶な美貌を誇っていた。


 たとえ国で最高峰の彫刻家が全身全霊を込めて彫り上げたとて、これほどの完成度には辿り着けないだろうと思えるほどの造形美。

 すっと切れ長の双眸は冷たい理知の光を宿し、表情の少ない面差しは、真冬の湖の真ん中に咲いた一輪の氷の花を想わせた。


 数メートルミル向こうからやって来る壮年の男と、隣に寄り添う赤いドレスの令嬢の姿を視界に入れて、青年の唇が僅かに釣り上げられた。


「――ああ、すみません、ローニル候。そろそろお暇させて頂こうかと思っていたところだったのですよ」


 容姿に違わぬ涼やかな声でそう告げられて、ローニル候と呼ばれた男は大袈裟に目を見開いた。

 本日のホストである彼は、何か気に入らないことでもあったのかとばかりに身を乗り出す。


「何と、若君がいらして下さってからまだ二時間も経っていないではありませんか! お父上もまだあちらで楽しんで下さっていますし、もう少しゆっくりなさっては如何ですかな?」


 予想通りの訴えに、青年はにこりと笑みを作ってみせた。

 繊細な硝子細工のような笑顔に、ほう、と赤いドレスの令嬢が頬を染めたが、そちらを気にする様子は欠片も見せない。


「折角のお申し出ですが、明日は早朝から予定が入っておりまして。今夜はあまり遅くならないようにと決めていたのですよ」

「そうですか、それは残念ですな。今夜は若君に娘のシャルロットを紹介できればと思っていたのですが」


 そう言って男が隣の令嬢を見下ろしたので、青年も礼儀のようにそちらを見る。

 注目された令嬢は綺麗に結われた長い巻き毛をふわりと揺らし、整った顔を一層紅潮させた。それから決意したように半歩前に出て、可愛らしく縋るように青年を見つめる。


「初めまして、シャルロットと申します。あの、オラトリエル様。わたくし貴方にお会いできる日をずっと楽しみにしておりましたの。もう少しだけ、我が家の夜会に参加していっては頂けませんか?」

「お気持ちは有り難いのですが、シャルロット嬢。また次の機会とさせて頂けませんか? もう帰りの馬車を呼んでしまいましたので」

「そう仰らずに、どうか! 何でもオラトリエル様は植物に造詣が深いとか、ならば我が家の庭にはきっと興味を持って頂けますわ!」


 言い募る令嬢に、しかし青年は眉一つ動かさなかった。

 完璧な形に作られた笑顔で令嬢を見下ろし、穏やかに断りの文句を紡ぐ。


「いいえ、申し訳ありませんが。あなたの親切なお言葉はとても嬉しいのですが、今回は本当に帰らねばならないのですよ。お気持ちだけ頂いておきますね」


 にこりと美しく微笑まれて、令嬢はようやく諦めたようだった。

 引き止められるなら是非そうして欲しいと思っていたのだろう。悄々と引き下がった娘を見て、男は残念そうに眉を下げた。


「そうですか、そこまで言うなら仕方がない。若君、どうか次の夜会にも出席して頂きたいものですな。何せ貴方はこういう場には、滅多に顔を出して下さらないので」

「ええ、ローニル候。予定が合ったその時は、是非出席させて頂きますよ」


 予定を合わせる気が端からないことなど、おくびにも出さず。

 青年は丁重な挨拶と笑顔を残して、様々な者たちの思惑渦巻く大広間を後にした。


 ――そうして伯爵邸の玄関扉を潜り、実家の所有する馬車の中に入るまで、青年の笑顔は崩れなかった。

 馬車のドアを閉めるが早いか、彼はストンと表情の抜け落ちた顔で御者に告げる。


「真っ直ぐ屋敷に戻ってください。父からは何も言われていないでしょうね?」

「はい、若様。旦那様からは、この後については特に何も命じられておりませんよ」


 老いた御者から穏やかに返されて、青年――オラトリエルは深々と溜め息を吐き出した。


 父の顔を立てて出席はしたが、いつも通り疲労しか溜まらない一時だった。

 何人となく紹介された令嬢たちの記憶を頭の片隅に丸めて放り投げながら、一番上のボタンだけを乱暴に外す。


「夜会はお気に召しませんでしたか? 随分早く出ていらっしゃいましたが」

「二時間も滞在すれば充分です。今回だって、父がどうしてもと言わなければいつも通り欠席する予定でしたから」


 淡々とした声色に僅かな苛立ちを滲ませているのは、彼が幼い頃から良くしてくれている厩番兼御者に、ほんの少しだけ気を許しているためだろう。


 オラトリエル・フォン・ブランジュード。ブランジュード家当主であるオルドゥル・フォン・ブランジュード侯爵の、嫡男にして一粒種。

 当年とって十七才になる彼は、氷の精霊が魂を分けたかと囁かれるほどの美貌と、水系魔術に対して誇る比類無き才能も手伝って、この国で最も注目される貴族子弟の一人である。


 常に淡々と無感動だが、極めて怜悧な才人にして敏腕な次期領主。

 王都に居を据えるファルムルカ公爵家の兄妹や、王弟殿下との交流まであると噂されており、その人脈や彼個人の能力を欲しがって群がる者には事欠かない。


 今回もまた、多くの相手から見合い紛いの打診を受けたのだろうと思いながら、御者は皺だらけの顔をひっそりと苦笑させた。

 その気になれば空々しいほど柔らかに、美しく微笑める若様が、その実この世の大半の人間に対してどうしようもない無関心しか向けていないと知っているのは、御者や執事など、一部の古株の使用人たちくらいだろう。


「その様子だと、ご友人方は来ておられなかったようですね」

「集団見合いのような夜会に参加できるほど、今の彼らは暇ではないんですよ。先日の大型魔獣討伐事件は、まだ後始末の真っ最中です。物品の仕入れに流通経路の修正、被害者への保障、道路の修理、流れてくるごろつきや小型魔獣への対処。警備隊も商業ギルドも冒険者ギルドも、しばらくは全力で稼働させねば追いつかない」

「ならば若様が、夜会で唯一咲いた大輪の貴花というわけでしたか」

「ハンス」

「はい、すみません、若様」


 少しだけ低い声で名前を呼ばれて、御者は軽口を叩くのをやめた。

 代わりに、無表情の下で疲労困憊しているだろう若様のためにと、無言で馬車を急がせる。


「……毎晩書類仕事が詰まっていれば良いのに」


 ガタガタと揺れる馬車の中、うんざりとぼやく青年の声が聞こえて、御者はささやかな同情を込めて「お疲れ様です」と言った。




※※※




 オラトリエル・フォン・ブランジュードには、名も無き孤児であった頃の自分の記憶がある。


 その記憶の中で、彼は山中の小さな里で、ひたすら人に踏みにじられるように生き、最後は神と里人のための贄として無惨に殺された。


 否、単純に「記憶」と称するには少々違和感がある。

 今現在オラトリエルと呼ばれる彼は、正しく「過去」の自分の延長線上に存在するものだった。

 孤児であった彼と貴族子息である彼は決して分離されることなく完璧に混ざり合っており、かつての彼の意識と心がそのまま今の彼に受け継がれている確信もある。


 だからこそ、二度目の生を受けて三歳の時に自我が芽生え、己が生まれ変わったことを知った時。

 彼が真っ先に連想し、そして心囚われたのは、記憶の中にある一人の人物――かの里でたった一人、自分の味方であり続けてくれた少女の存在だった。


『オウリ』という、少し変わった響きの名前を名乗っていた彼女は、濃茶の髪と明るい灰色の瞳、太陽のような笑顔を持つ、里で唯一の薬師だった。


 彼女が自分に恋をしてくれていた自信はない。自分が恋を告げることは、結局最後まで出来なかった。


 けれど確かに、彼女がいたから生きていけた。彼女がいたから笑うことが出来て、知識を手に入れ、絶望することなく立っていられた。

 不遇な孤児育ちをしていた癖に、その人格は呆れるほど綺麗で明るくて真っ当で、一方ではその聡明さに暗幕をかけるように道化た言動を取る人だった。


 彼女は、穏やかな地獄の如き里で彼と二人寄り添って生き、最後には彼を守るために死んだ。


 だから、心の支えであり光であり希望であった最愛の人が、この世に生まれた自分の傍に存在しないことに気付いたその日、オラトリエルは心の底から絶望したのだ。


 あの日からずっと、いつか来るかも知れない再会の時をひたすら待つためだけに生きている。



「――オラトリエル様、また夜会を中途で抜けてこられたそうですね」


 翌日、朝食のために食堂へ降りていくと、大分白髪の目立つようになった執事がじろりと窘めるように睨んできた。

 滑るように引かれた椅子に腰を下ろしつつ、オラトリエルは素知らぬ顔でナプキンを取り上げる。


「挨拶回りはしましたし、提携先の商人とも話をして、適度に顔を広めてきました。お陰で来年の港の改築に関してギルドに書類を通す目途も立ったので、『交流』という夜会の目的は充分に果たしていると思いますが」

「貴方を夜会に出したがる旦那様の最大目的が、それでないことはお分かりでしょう……」


 困り果てたように言われても、オラトリエルに聞く気はない。メイドに給仕を受けながら、どうごまかしたものかと眉根を寄せた。


 クロスのかかったテーブルの上に、手早く皿が並べられていく。

 薄茶のドレッシングをかけたサラダ、木の葉型の黄色いオムレツ、ほうれん草のポタージュスープ、手のひらの半分より小さなパン、白いカップに入った紅茶。

 オラトリエル本人の要望で量を控えたそれらは、彼が朝に食べ切れるギリギリのメニューだ。


 時間を稼ぐために紅茶を一口飲んでから、彼はちらりと執事を見やる。


「……ならば聞きますが、ユトリロ。あなた、僕がまともな結婚など望めると思っているんですか」

「それは……」


 わざとらしく前髪を摘まみながら言ってやると、執事は思った通り口ごもった。


 やはりこの言い訳は強い、と思いつつ、オラトリエルは銀色のカトラリーを手にする。

 ポタージュスープを一口飲んで、サラダのトマトを口に入れる。オムレツを切り分けると中身がとろりと流れ出てきて、今日の具はジャガイモと玉ねぎと挽き肉か、と判断した。


 オムレツを口に入れ、サラダのレタスをナイフの刃先で丸めてフォークに刺す。シャキシャキした葉野菜の感触を味わいながら、パンを小さく千切った。


「このことに関しては、父上からも極力注意を払うようにと言われています。下手な人間に知られて広まればどんな事態に陥るか、分からないとは言わせませんよ」


 くすんだ枯れ葉色をしたオラトリエルの髪と目は、生まれつきのものではない。今この瞬間にも、魔術具の首飾りで色を変えている。


 彼の頭髪の本来の色は、深海のような深い青。瞳は、満月を想わせる黄金色。


 それは、人の中に生まれる怪物――『蒼柩』という存在の証だった。


 膨大な魔力と人にあらざる色彩を持ち、人間の歴史の中で時折思い出したように生まれ落ちる『蒼柩』が、一体如何なる原理で何のために存在するのか、解明した者はまだいない。

 けれど、多くが人格に歪みを持ち、国を滅ぼすような事件を起こしたこともあって忌まれるべき存在とされる『蒼柩』が自身の嫡男として生まれたと知った時、父オルドゥルは迷わずその息子を抱え込むことに決めた。


 あの日からオルドゥルは、息子が『蒼柩』であることを徹底的に隠蔽した。

 真実を知らせる相手を己と妻と一部の使用人のみに留め、時に意図せず知ってしまった使用人たちを物理的に排したことさえある。

 国王にも事を報告しない父の行動理由がオラトリエルに対する愛情でないことには、とうの昔に気付いているけれど。


(これまで不自由なく守り育ててくれたことには感謝していますが……例えるなら父上が僕に向けているのは、代えのきかない実験動物に向ける目だ)


 十三歳で学院に入るまで、屋敷の外には一歩も出さない徹底振りだったのに、年頃になった途端婚約を勧め出したのは『そういうこと』だろう。

 恐らく父は「ブランジュードの後継」ではなく、「『蒼柩』の作った子供」に興味がある。


「……オラトリエル様の場合は、これ幸いと『事情』を言い訳にして、とことん結婚から逃れようとしているだけにも思えるのですが」


 じっとりした目でそう告げてきた執事に、「全くその通りです」なんぞと正直に言えるわけがない。


(彼女以外に心を捧げるつもりは微塵もありませんし)


 仮にこの世に存在するとして、容姿も名前も年齢も、生きているうちに会えるかどうかも分からない恋しい人。

 それが彼女でさえあるのなら、男でも女でも老人でも赤子でも貴族でも貧者でも、自分は変わらず愛せると思っている。けれど彼女でないならば、どれだけ優れた容姿や能力や人格や血統を持っていようが、触れようという気にすらならない。


『蒼柩』の人格に多く歪みがあるというのは、ただの根拠無き噂ではないのだろう。

 きらきらと華やかなものに囲まれた世界で十七年間生きてきて、それでもオラトリエルの心は、あの里で最期を迎えた時のまま。

 憎悪と嘆きに呑み込まれ、何もかも壊れてしまえと血を吐くように吼えた狂人のままだ。


「女性嫌いも人間嫌いも程々になさいませ。このままではブランジュードの血が絶えてしまいますよ」

「人間は嫌いですが、社会不適合者と言われない程度には抑えていますよ。家のことだって、僕はまだ十七ですし、父上に至っては当主位すら退いていません」

「しかしオラトリエル様、このままでは旦那様が業を煮やして、勝手に婚約者を決めてしまうかも知れません。最近は『早くオラトリエルの子が見たい』が口癖なのですから」

「そうなったらなったで、父上や先方を『説得』して破棄してもらえるだけのものは持っています」

「オラトリエル様にはまだ言うなと命じられておりましたが、旦那様が明後日に見合いの予定を入れられましたよ。北方の伯爵家から申し出があったそうで」

「断っておいてください」

「無理です。どうか一度お会いになるだけでも。あちらでは引く手数多のご令嬢で、花のように美しく聡明であると評判の方だそうですよ」

「ならば一度会って自分で断ります」

「オラトリエル様!」


 そもそも父の発言にしたって、『孫』でなく『オラトリエルの子』である辺りに本音が出ている。

 出来た子供を何に使う気だ、と思いながら、オラトリエルは平然として最後のパンを飲み込んだ。


『蒼柩』さえ利用したがる父の最終目的が分からないからこそ、これまで全力で己の地盤を固めてきたのだ。

 飛び級で学院を卒業した後は積極的に領地運営に携わり、他領やギルドとの提携事業を次々打ち出し、あらゆる相手に顔を広めてきた。学院で作った人脈もフルに活用しているから、今やブランジュード領は、父だけでは到底立ちゆかない域にまで至っている。


 あの忠誠の在処が王家やブランジュード家にさえ無い、笑顔ながら腹の読めない気紛れな父に自身までもが排される危険に備えて、有事の際の反撃の準備はとうに整いつつある。

 もしもそれさえ通じず、あまつ意に添わぬ結婚まで強いられるというのなら、彼はさっさと見切りをつけて、この美しい檻のような屋敷を出奔するだろう。これまで不自由なく育ててもらった恩は、領地の発展という形で還元してきている。


「僕の伴侶は僕が決めます。見合いなどに出向いている暇があるのなら、ブランジュード領の税率改正案でも出していた方が遥かに建設的ですよ」


 立ち上がったオラトリエルを追って、執事が後をついてくる。

 諦めたように口を噤んだ彼に、オラトリエルは淡々と言いつけた。


「先日始めた、織物業の監査に出かけます。馬車の用意を」

「承知致しました」


 深々と頭を下げる執事に背を向け、オラトリエルは足早に自室へと戻っていった。

 綺麗に伸びた背筋がどうしようもなく世界を拒絶しているように見えて、執事はひっそりと眉尻を下げる。

 その視線を背中に感じながら、オラトリエルはただぼんやりと、記憶の彼方にいる少女を想った。


 ――あなた以外の存在に興味はありません。


 ――だから、早く僕の前に現れてください。


 ――どんな形でも、どんな立場でも、もしもあなたに再会できたその時は、



 ――――今度こそ二度と、あなたの手を放しませんから。



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