第2話 アーバン・ボーイ
此処はヘブンシティ。科学と自然に満ちた、楽園のような街だとか。
あの草原の一本道を歩き続けて約1時間、そこから見えた物は大都会。
俺の出身国であるアポロンズフィールドの城よりも大きい建物があったり、乾燥地帯だった俺の国ではお目にかかれない森があったり、同じくお目にかかれない海があったり、噂に聞く『遊園地』らしき場所があったり……
「何だ此処……まるで天国じゃないか!」
いや、まぁヘブンシティって名前だけどね。
問題は、これからどうするか……である。
広く発展した街だと言うのは、もう分かりまくった。
だがしかし!家もお金も無いんだよ、俺は。
近くに木の実も肉も魚も無いから食料が調達できないし、家が買えないから住めないし。
結局いつもの生活じゃないか。しかも食料無いじゃん。
それでは困る……今の俺は旅人じゃない、俺はホームレスだ。
誰かの家に居候させて貰わなければ……
俺は、家が沢山並んだ場所に移動した。
家の造りが何処も凄い……ってそんな事はどうでもいい。
必死に周りの人に居候の相談したが、
「すまない、他を当たってくれ」
「駄目、食事代が勿体無いもの」
「あーあー、何も聞こえないー」
誰もOKしてくれない。俺、この街でも野宿なのか……?
そう諦めかけて、壁にもたれて腰を降ろす。
気付けば、日は真上まで昇っていた……通りで腹が空くわけだ。
「お前、ここら辺じゃ見かけない顔だが……家に何か用か?」
「え?家って……あ、この家アンタのだったのか、ゴメンよ」
誰かが俺の前に立っていた。壁には『スレイド』と書いてある……
どうやら此処は、俺に話し掛けた彼の家のようだ。
その少年は金髪で、ヘッドホン(俺の国では超珍しい)をしていた。そしてイケメンという、あからさまに都会風!な少年だ。
「俺、この星の裏側から旅して来たんだけどさ……此処では食べる物も無くて、住む所も無いんだよ。」
「……まぁ、その服装を見る限りは異国の奴だな。とにかく上がれよ、話は家の中で聞かせてもらうから」
これは有難い。俺の事を少しは理解してくれそうだ。
「……あ、そうそう。俺はジャン・スレイドだ、宜しくな」
そう言うなり、彼……もといジャンは俺を家の中に入れてくれた。
「ただいま、客を連れて来たぞー」
「あ、お兄ちゃん!おかえりー」
「兄さん、誰を連れてきたの?」
ジャンの大きな家に入ると、二人の少年少女が駆けてきた。
この二人は双子らしく、外見が似ている。妹と弟……羨ましいもんだ。
俺はジャンの後に続き、そっと家の中に入ってみた。
二人は物珍しそうに俺を見てくる……この服、やっぱり異国って感じなのか?
「「髪の毛が真っ赤だ……」」
そっちかよ。
「リビングに来いよ、そこで話を聞きたい。ミリフィア、料理を頼めないか?」
「はーい!」
黒い帽子を後ろ向きに被った少女の方が返事をする。
なるほど、女の方はミリフィア……と。
「エルフィア、お前はジュースを持ってきてやってくれ」
「分かったよ。」
今度は、白い帽子を後ろ向きに被った少年が返事をした。
男の方がエルフィア……と。
いやー、それにしてもこの兄弟はスゴい。
スレイド家の遺伝なのか、全員イケてるメンズだし。
俺の脳にその情報を記憶した後、ジャンが向かった方へと歩いた。
そこには、(俺の国では)幻の家具であるTVとか、丸いテーブルとか、色んな文明家具があった。
俺とジャンはテーブルの近くにあった椅子に腰掛け、向かい合った。
「それじゃ……名前を教えてくれ」
「俺はサザロス。太陽の国と呼ばれる国、アポロンズフィールドの王子さ!」
「お前のような王子があってたまるかァッ!!!」
「本当に王子なんだけど俺!!」
吃驚したなぁ……いきなり椅子から立ち上がられても困る。
と言うか何が不満だったんだ……俺の心が傷付くじゃないか。
「悪いな、ちょっとした冗談だ」
「今度からは加減をしてくれよ……」
正直、王子としてのプライドが宇宙の果てまで蹴飛ばされた気分だ。
この男……冷静ながら、大したジョークを使うなぁ。
この後、何とか事情を理解して貰う事が出来た(多分)。
そこへ、ジャンの弟と妹が皿やコップを持ってやって来た。
そこに乗っているのは、柔らかそうなオムライスと綺麗なレモンスカッシュ……
「お待たせ!これはオムライスだよー」
「お待たせサザロス、これはレモンスカッシュって言うんだ」
それくらい知っとるわ。アポロンズフィールドにもあるんだぞ。
そんな内心だったけど、折角用意してくれた料理だ。そんな失礼な発言はしたくないので、聞かなかった事に。
さて、このオムライスのお味は……?
「……旨しっ!この卵のふんわりとした食感、淡白で味わい易い味、下に潜ったチキンライスとの相性!木の実とは違う感覚だああぁっ!!!」
「「「えっ……木の実?」」」
な、何なんだよその顔。皆してそんな「可哀想……」な顔するなよ。木の実もちょっと美味しいんだぞ?
気を取り直して、レモンスカッシュも飲んでみる。お手製の味は……
「シュワーッ!!!この強めのシュワシュワ、レモンの酸味、爽やかな喉越し!池の水とは大違いだああああっ!!!!」
「「「い……池の、水……?」」」
ななな何なんだよ、その「マジかよ……」な顔。俺が池水に何回渇ききった喉を助けて貰ったと思っているんだ!
「放っておくのは可哀想だしな……よし。俺の家で良ければ、住まわせてやろうか?」
「……えっ?」
三人の表情に動揺していた俺に、ジャンが意外な言葉を。
「お前の生活……可哀想だしさ」
可笑しいな。嬉しいはずなのに、何か素直に喜べない。
でも……いいのか?本当なのだろうか?
「でも、ジャン達の親に聞かないと……」
「……っ!」
俺が家族の事を心配した途端、何故かミリフィアが走り去った。
よく見ると、エルフィアも歩き去って行ったし。
「……気にするな。俺達の親は仕事で遠くに行っているんだ。会いたくても会えないもんだからな、あの二人も寂しいんだろ。」
ジャンが解説と言うか、推測を話す。
どうやら余分な事を言ってしまったようだ……後で謝っておこう。
しかし、此処に住めるとは助かった。休暇だ、修行は一旦休み!
「そうだ、お前まだこの街の事知らないんだろ?俺が街を案内してやるよ。」
これまた助かる提案だ。今日の俺はついてるぞ!
「外で待っててくれ、あの二人を慰めてくるから。」
「あ……ゴメンな。何も考えずに、あんな事を言って……」
「気にするな、親の事なんてお前は知らなかったんだからな。ほら、今日からこの服を着なよ。そんな服じゃ、周りから食われるぞ」
「おっ、着替えありが……って待て!食われるのかよ!?」
俺は、棚にしまってあった着替えを渡された。
赤と白を基調にした半袖の服と、カーキ色(?)のズボンだ。
俺は、国の伝統衣装から洋服に着替えると、外へ飛び出した。
ワクワクするな……新しい街を観光するって!
ーその頃、ジャンの方はー
「エルフィアは大丈夫、と……ミリフィアは落ち着いたか?」
「うん……」
「……そうか。これからサザロスを街案内してくるけど、一緒に行くか?」
「私はいい……でも、早く帰って来てね?」
「おう……じゃあ、留守番宜しくな?」
「……うん!」