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電気を纏う少女

 第一声はやや警戒した様子だった。


「えっと、あの私達生徒会長に言われてきたんですけど、三上さんってこんなの持ってないですか?」


 朱莉が指輪を見せる。


「ちょっとまって、それ隠して」


「あ、はい」


 やや剣幕な表情で三上先輩が朱莉の手を握る。


「それそんな簡単に人に見せていいものじゃないでしょ。あなたたち一年生よね?それが何かまだよく知らないの?」


「詳しくはないんですが、一応ある程度は生徒会長から聞きました……。この件について話があって来たんですけど……。」


 三上先輩は少し困ったような顔をしながら、暫く黙っていた。


「わかった、ただし長くなるんでしょ?その話。後で話そう。あと1時間もすればバレー部の練習終わるからその後にして。」


 少し厳しく三上先輩は俺たちに言う。どうやら指輪を見せたのがまずかったのかあまりいい印象を与えられなかったようだ。


「それまで待っていてくれてもいいし、1時間後にここに戻ってきてくれてもいいから。じゃ。」


 そう言ってスタスタと三上先輩は体育館の奥へ戻って行ってしまった。


「うーん、指輪見せたのがまずかったのかな?というか翔太もなんか言ってよ。」


「同性の方が初対面なら心を開きやすいだろ。俺が話しても内容は同じだし、俺よりも朱莉が話す方がいい。朱莉は人当たりがいいからな」


「まあ翔太不愛想だもんねえ」


 これも否定はしなかった。俺は確かに人付き合いが上手い方ではないからだ。


「次は俺も話すから。ちょっと待っていよう」


 俺は扉を開け外に出る。


「外で待つの?」


「朱莉は中で待ってもいいが、あんまり男にジロジロ見られるのもいい気はしないだろ」


「翔太エロいんだね」


「エロくないから出てきたんだ」


 俺は体育館の外で待つことにした。曇り空で4月の中旬なのに少し肌寒かった。


 さて、少し警戒されているようだが、どうするべきか。せめても三上先輩は能力について多少詳しくは知っているようだ。やはり俺たちと同じように1年の頃に指輪を手に入れ、1年間指輪について多少知識を深めたということだろうか?


 ところで生徒会長という言葉が出てきた時も動じていなかったように見えたが生徒会とも繋がっているのか?生徒会側が勝手に三上先輩のことについてあれこれ調べただけかと思っていたが……。


 生徒会と繋がっているなら会長から勾玉について聞かされた可能性もあるな。前会長に当たる人だから現在は学校にいないだろうが、王元はオカルト研究部の研究ノートを代々引き継いでいると言っていた。前会長と三上先輩の間に俺たちと王元のようなことがあったとしてもおかしくはないか。


 そういえば現状指輪を三上先輩はしていなかったな。外したままにしているのだろうか。まあバレーするときにどちらの手にあっても必ず邪魔になるだろうからな。となると能力には使い慣れてない可能性もある。これなら穏便に話が進むか?


 そんなことを考えていると、体育館の中から朱莉が出てきて言った。


「バレー部の練習終わったよ。三上さん来るまで待っとこ」



「お待たせ、待たせてごめんね?」


 三上先輩は制服に着替えて俺たちの元にやって来た。さっきと随分雰囲気が違って見える。


 警戒心も大分薄れている様子だ。


「さっきと随分雰囲気違いますね。」


 と俺が言うと


「ごめんねー、あたしバレーすると性格変わっちゃうんだよね。厳しくなっちゃうの。バレーには集中したいからさー。あんまり集中乱されるとイライラするんだよね」


 性格ごと変わるタイプなのだろうか。よく運転するときは性格が荒くなる人というのがいるが、この人はバレーをするときは性格が荒くなるタイプのようだ。さっきまでは敵対心を向けられているような、野生的な雰囲気だったが、今の三上先輩は明るく少しあっけらかんとした性格のように見えた。


「ところで、勾玉の話だっけ。いきなり勾玉見せて来るからびっくりしたよ。それ結構危ないものなんだよ?気軽に人前で出しちゃダメな奴。というかなんであたしが勾玉の所有者だって知ってんの?」


「実は生徒会長から聞きまして。俺たちは今生徒会長の頼みで勾玉の所有者たちを調査してるんです。それで話があって来たんです。」


 俺は雰囲気の随分変わった三上先輩に話を続ける。


「話って?」


「三上先輩の能力がどんなものなのか、それについて調べるのと、三上先輩にオカルト研究部に入部してもらいたいんです。」


「ちょっとまって、バレー辞めろっての!?」


「違います違います、落ち着いてください……。オカルト研究部の話は後でするのでとりあえず能力について教えてもらうことはできませんか?」


 俺は手をゆっくりと降るジェスチャーをしながら宥めるように喋る。警戒心からか、ついオーバーなリアクションをしてしまうな。そしてどうやら三上先輩のバレーに対する情熱は想像以上らしい。


「能力ねー。あんまり言いふらされたりすると困るんだよね。こんなもん持ってるのがバレると学校生活めちゃくちゃになるしさ。とりま、バレーの邪魔になるようなこと今はしたくないんだよね。」


「だからあんまり教えたくないんだけど……。でもなー、そいえば君も指輪持ってるの?」


「あ、はい。これです。」


 そう言って俺は水色の勾玉のついた指輪を手の隙間から見せる。


「なるほどね、水色なんだ。赤色に水色。んー二人とも勾玉持ちかー。困ってるなら力になってあげたいけどねー。信頼できないよね。ぶっちゃけ。」


 そう言われるとは思っていた。だから


「じゃあ、俺が先に能力を使うのでそれ見てから教えてくれませんか?実際に使わなくてもいいです。言葉で説明してくれるだけでも。」


「ちょっと、使ってもらわなきゃ本当にその能力か分かんないじゃん」


「そうかもしれないけど、信頼出来ないって言われるなら仕方がない。妥協案だ。」


「そんなにあたしの能力知りたいの?」


 少し挑発的に三上先輩はこちらへ聞き返す。


「まあ、それが会長との約束なので。出来なきゃ最悪退学にするって私たち脅されてるんです。」


「やっぱあの会長あくどいなー、腹黒そうな顔してると思ったんだよね」


「まあでもそんな事情があるのか。仕方ないなー。」


「先に能力を二人とも見せてくれるならいいよ。」


「私もですか?」


「うん、二人にリンチされたら私死んじゃうじゃん。」


 バレたか。俺一人だけの能力なら明らかにしても最悪朱莉がいるから何とかなると思ったが。


「あたしもさー、一年前にこの勾玉貰った時にはいろいろ苦労したんだよね。そん時にいろいろ考えたんだけど。他の勾玉持ちが能力持って使ってきたらあたし命危なくない?って」


「だから悪いけど先に能力使って手の内見せてよ。そっからなら能力見せてあげる。」


 当然の提案だ。


「嫌っていうなら能力は見せない。悪いけど退学にでもなりなー。」


 雰囲気は変わったが、リアリスティックというか、サバサバしているというか、その点は変わってないようだった。


「分かりました。じゃあそれで能力見せてくれるんですよね?」


 朱莉が提案に乗るような発言をする。


 俺も少し考えるが、提案に乗るのがベストだろう。三上先輩はあくまで自己防衛のためにこちらの手の内を明かせと言ってきている。能力を使ったからと言って即座に攻撃してくるようなことにはならないだろう。と、信じたい。


「分かりました。俺からでいいですか?」


「うん、じゃあどうぞ」


 促されるように俺は指輪を右手の人差し指に嵌める。


「じゃあいきますね」


 目を閉じて意識を勾玉に集中させる。ピキピキという音がし始めた。目を開けると勾玉から氷が既に作られ始めている。以前生徒会室で試した時よりも早く氷が形成されているし、身体への負荷も少なく感じる。体が慣れてきたのだろうか。


 氷は段々と大きくなっていく。能力を見せるだけだ。このくらいでいいだろう。集中するのをやめ目を閉じ、リラックスする。ふっと息を吐くと氷は砕けた。


「なるほどね、氷を作る能力なんだ、じゃ次はそっちの女の子。」


「じゃあ見せますね?」


 朱莉が目を閉じる。勾玉の光と共に段々と周囲の空気が暖められていく。勾玉が熱を帯びているのだろう、赤く発光し始める。ボッという音と共に小さな炎が勾玉の上に出現する。生徒会室で見せた火柱よりも随分と小さい。朱莉もあえて力をセーブしているのだろう。


「はい、これでどうですか?」


「ありがと、炎を出す能力なんだ。よくそんなものを人前で出せたよね。燃え移ったら死んじゃうよ。」


 笑いながら朱莉を窘めるような口ぶりをする。


「ごめんなさい、そんなつもりは一切ないんですけど」


 苦笑いしながら朱莉も謝っている。


「まあでも二人に能力見せてもらったし。嘘は吐けないよね。じゃ私も能力見せますか。」


 そう言って三上先輩はバッグの中から黄色の指輪を取り出す。その勾玉はトパーズのような琥珀に近い色味かと思っていたが、想像していたよりも綺麗なレモンイエローだ。美しい。


 それにしてもだが、なんというか、三上先輩は行動に移すまでが早い。余韻が無い人だ。


「綺麗ですね、黄色の指輪」


「ありがと、じゃあいくよ?あ、少し離れてて。」


「え?」


 言った時には三上先輩の勾玉は既に光り始めている。俺たちは咄嗟に一歩下がった。その時だった。


 バチィッ


「痛っ」


「ちょ、翔太?」


 俺の方へ向かって黄色の光が一瞬で飛んでくる。なんだ、やはり戦闘する気満々じゃないか。俺は咄嗟に勾玉に力を込める。


「ちょっ、ストップストップ。そんなつもりじゃないんだって!」


「は?」


 今どう見てもこっちに向かって何か能力を発動しただろ。痛みが走った膝の部分を見ると制服に穴が開き煙が上がっている。


「いや、今こっちに向かって能力使いましたよね。」


「いや、言ってなかったけど私能力上手く使えないの!誤射だって!」


「それにしてもわざわざピンポイントで俺に当たりますか?」


「だから少し離れてって言ったじゃん!」


「言うのが遅いんですよ!能力発動する前に言ってください!そもそも能力が誤射というか、ミスる可能性があるんならそれも先に言ってくださいよ!」


「ごめんって!でもわざとじゃないから!許して!落ち着いて!」


 三上先輩は手を合わせて謝りながら俺たちに落ち着けというようなジェスチャーをした。ジェスチャーが混ざってもはや何を示しているのかわからない。どう見ても落ち着くのはそっちだろ。


「ちょっと!二人とも一旦落ち着いて!」


 朱莉が制止をかける。


「わかったわかった。それより先輩こそ一旦落ち着いてください。確認しますけど誤射なんですね?狙って俺に向かって能力を発動したわけじゃないんですよね?」


「違う違う!ほんとに誤射!はあ……。これだから能力使いたくなかったんだよねえ……。」


「これだからってどういうことですか?」


「私この能力の使い方がいまいちよくわかんないんだよねー。1年経ってもさっぱりなの。だからさっき二人が上手に能力使ってるの見てすごいなって思ってたんだわ。」


「能力が使いこなせない?」


「能力使う時って力込めるじゃん?そんでそっからなんかどうやったらいいか分かんないんだよね。力込めたらそのままこの能力が勝手に発動しちゃうというか。」


「結局先輩の能力は何なんですか?」


「電撃だろ。多分。俺の方向に飛んできたのも電撃だった。」


 焼け焦げた制服から俺は推察する。


「そう、多分電撃。というか雷みたいな能力かなって思ってる。前に離れたところに電撃が落ちたことがあるから。あとは電撃を使おうとすると早く移動できたりするんだよ。壁にぶつかるんだけど。」


「それ見せてもらえないですか?」


「えー壁にぶつかるっていったじゃん。痛いんだよ。」


「俺に電撃浴びせた代わりに言うこと聞いてください。」


「翔太、怒ってる?」


「怒ってない、調査だ。」


「もう、分かったよ。後輩の頼みなら仕方ないなー」


 にんまりと笑いながら三上先輩は答える。なんでこの人まだ上から目線なんだ?今回は制服が焼けたくらいで済んだが、下手して心臓にでも当たってたら……。おれはその先を考えて身震いする。


「これはね、電撃を放出するんじゃなくてキープするイメージで使うとできるんだ。」


 そう言いながら三上先輩は再び勾玉に力を込める。勾玉からはバチバチと音がし始める。


「それで、この状態で、走る!」


 そう言うと、三上先輩は駆け出した。人ならざる速度が出ていた。そしてその勢いのまま体育館の壁にぶつかる。


 心配になる勢いで壁にぶつかったが大丈夫だろうか。


「だ、大丈夫ですか……。」


「大丈夫だよー。今回はうまくいった。」


 見ると三上先輩は壁の寸前で止まっていた。


「逆向きに電気流すと上手くいくと止まるんだよね、というか逆向きに引っ張られる感じ?」


 成程、恐らく三上先輩の能力は電気を操るものなのだろう。電撃を使うだけでなく恐らく電磁力も使える。吸い寄せられるように加速して、急停止できたのは壁の中にある鉄にそれぞれ引っ張られたのだろう。それほどあの勾玉が帯電しているということか。


「すごいですね、能力使えないとか言ってたけど、使えてるじゃないですか」


「でしょー、でも電撃だけはだめなの。さっき見たく翔太君?に当たっちゃうこともあるしね。」


 三上先輩はこちらへ戻ってきながら語り始める。


「苦労したんだー、能力がどんなものか調べるまで。こんな勾玉いきなり渡されて、何じゃこりゃって思ってたら変な電撃出るし、突然光るし。友達のスカート焼いちゃったこともあったっけ。そんな感じで苦労したからもう今は能力は使わないようにしてるの。バレー部に入ったのもそのため。」


「バレー部ならこんなの邪魔で着けてられないでしょ?だから入ったの。今はバレーに打ち込むことでこんな勾玉つけることも無くなって満足してるんだけどね。」


「捨てたらどうなんです?」


 俺は自分の興味からそんな質問をしてみた。


「なんとなく捨てる気にはなれないんだよね、この勾玉。なんというか、お守りみたいな感じ?ご利益ありそうだし、着けてはないけど捨てずに持ってる。」


 三上先輩は勾玉を指から外しながら言う。


「ま、これで私の能力も分かったでしょ?これで退学されずに済むんじゃない?」


 何やら話をまとめて帰ろうとしている三上先輩に俺は勇気を出して話しかける。


「オカルト研究部の話、まだしてないんですけど」


「へ?ああ、そんなこと言ってたね。でもあたしバレー部辞める気無いから。ごめんけどその話は無しで。」


「とりあえずバレー部を辞めてもらう必要はありません。生徒会長からの伝聞になるんですけど、話だけでも聞いてください。」


 こうして俺は、オカルト研究部が生徒会の外部組織であること、あくまでも能力者を集めることが目的であること、オカルト研究は建前であること、能力者を集める意図は会長が言うには儀式を行うためであることなどを話した。


「ふーん、つまりバレー部と兼部という建前で能力者集団としてのオカルト研究部に入部して欲しいと。能力者の安全性を担保するために生徒会に下ってほしいと、それで君たちが退学をちらつかせられると同時に会長の願いを聞き入れて体験入部中と。そういうことでよろし?」


「そういうことです」


「成程、まあ今ここでイエスかノーかは出せないな。せめても会長と話してみてからじゃないと」


「そうですよね、まあそれでも大丈夫だと思います、さすがに会長も一日で了承してくれるとは思っていないでしょう。」


「まあ、わかった。考えとく」


「完全下校時刻です、生徒の皆さんは帰宅しましょう」


 アナウンスが流れる。


「随分話し込んだね。もう帰ろう。」


「はい、とりあえず、今日はありがとうございました。」


「はーい、それと翔太君、ごめんね。電撃当てちゃって。そいえば君らの名前聞いてなかってなかったね。何翔太君?」


「氷室翔太です、電撃をどうもありがとうございました。」


「ごめんって……。嫌味だなー。そっちの女の子は?」


「秋原朱莉です。」


「知ってると思うけど、三上ヒカルです。2-Aです。バレー部副部長もしてます。どうぞよろしく」


 そう言って俺たちはその日は別れた。

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