体験入部
翌日クラスへ向かうと前の席の奴が話しかけてきた。
「あれ、もう卒業したの?」
「卒業も何もない、あの指輪が上手く外れなかっただけだ」
「あいつ、厨二病辞めたんだって?」「彼女出来たからかな?」「俺も早く可愛い彼女欲しー」
どうやら俺のクラスでのキャラ付けは俺が指輪に振り回されている間に厨二病キャラで固まっているらしかった。さらに勝手に朱莉と付き合っていることにされている。出会ってから一日も経ってないのに付き合ってるはずねーだろ。
昼休憩になったら朱莉を探そう。面倒なことになるのは間違いないが、仕方ない。会長から受けたオカルト研究部のことについて話し合わないといけないからだ。
昼休憩、俺は1-Aを訪れた。
朱莉が友人達らしき女達と昼ご飯を食べている。参ったな、話しかけにくい。まあわざわざ昼時に邪魔する必要もないか。そう思って踵を返そうとすると、
「あ、朱莉、彼氏来てるよ」
「違うって、昨日生徒会長にオカルト研究部に入れって呼び出されただけ」
「え、でも昨日の昼あの子探してたじゃん?放課後に呼び出しされる前から。いつ出会ったの?」
「もう、変なところで推理働かさないで。マジでそういうのじゃないから」
そういいながら朱莉はこちらへ向かってくる。
「昨日の会長の件だよね?放課後でもいい?」
「ああ………、邪魔して悪かった」
「ん、じゃあ放課後ね。そっち行くから、教室で待ってて」
「やっぱりデキてんじゃん」
「違うつってんだろ」
結局、俺は教室へ戻ってくることになった。さて、放課後を待つかな……。
俺は午後授業に集中し、放課後を待った。昨日一昨日と予習をしていなかったため不安だったが、何事もなく授業についていくことができた。
放課後を迎え俺は教室で朱莉を待つ。が、朱莉が全然来ない。もう既に2時間は経過していた。参考書を読んでいるので時間を潰すのは苦労が無いが、今日はもう来ないのだろうか?そう思い始めた頃
「ごめーん、お待たせ」
朱莉が息を切らせてやって来た。体操服姿に学校指定のブレザーを羽織っている。
「待ったけど、どうした……?なんで体操服?」
「いやー女子バスケの体験行ってたんだよね、今日が体験入部の日なこと忘れててさー。ごめんね?」
女子バスケと言えば朱莉が入りたいと言っていた部活だ。ということはオカルト研究部には入らないつもりだろうか?
「女バスってことは、オカルト研究部は入らないってことか?」
「え、兼部していいって会長言ってたじゃん」
「じゃあもしかしてオカルト研究部も入るつもりなのか?」
「そりゃそうでしょ。昨日家帰った後考えたけどやっぱ私会長の頼み断れないや」
朱莉は俺の隣の奴の席に勝手に座りながら言う。甘酸っぱい芳香剤の香りが俺の鼻をくすぐる。
「会長も言ってたじゃん。儀式は学校守るためだ、そのために私たちの協力がいるんだって。儀式が何なのかはまだ分かんないけど、学校の役に立つことならしたいし、わざわざ断る理由もないかなって。私頼み事されると断れないタイプなんだよねー」
朱莉はオカルト研究部に入るつもりらしい。確かに会長が最後に言った言葉に嘘はなさそうな雰囲気だった。ただそれでもなお、俺はオカルト研究部に入ることにどうしても恐れがあった。
「結局、能力者たちと接触することになる可能性はどうするんだ?無視できないリスクだろ」
「昨日も言ったけど私たちも能力者なんだからそんなに心配することないって。多分皆普通の人だよ。今まで事件とか起きてないんだから」
朱莉はバッグの中から勾玉を取り出す。赤い勾玉は夕日を受けて綺麗で強烈な赤色の輝きを放つ。
「いざとなればこの能力で応戦よ。ボガーンって」
「だからそういうことを俺は危惧してるんだがな」
「心配性だなー、こういう時は一気に決めちゃうのが吉なんだって。ウジウジ悩んでても仕方ないよ!」
朱莉は楽しそうに笑う。その笑顔が眩しくて、俺は羨ましかった。
「じゃ、私着替えて帰るから」
朱莉は席を立ち扉へ向かって歩き出す。俺は何も言わずにその背中を目で追った。
誰もいなくなった教室で俺は一人、頭の中で考えを巡らせていた。
オカルト研究部に入ってほしいという会長の頼み、確かに昨日会長が最後に行っていた言葉は真剣だったように思えるが一度俺たちを嵌めた相手の言葉をどこまで信じるか、そしてそもそもオカルト研究部がどれほど危険なのか。
会長は学校の安全を守りたいなどと言っていたが、俺たちの安全はどうなる?会長は俺に自分だけ助かろうなんてと言ったが、逆に俺たち一外の安全を守るために俺や朱莉、その他の能力者たちはどうなってもいいというのか。
「いやー女子バスケの体験行ってたんだよね」
「あ……。そうだ」
翌日俺は放課後になって1-Aに訪れた。
朱莉が目に入る。
「朱莉、彼氏来てんよ?」
「違うって何回言ったらわかんの!」
隣にいるギャルっぽい女に怒鳴ってから朱莉はこちらへ向かってきた。
「なにどしたの?」
「今日時間あるか?会長のところ行かないか?」
「いいけど、なんで?」
「オカルト研究部のことでちょっと話したいことがあってな」
「わかった、行けるよ。ちょっと待ってて」
「秋原さん、あいつと付き合ってんの?」
「みんな言うじゃん……、ち・が・い・ま・す!」
「教室戻っててー」
振り返らずに朱莉は言う。俺はそれに従い1-Bに戻る。
「今日は文庫本?真面目だねえ」
感心したような呆れたような口調で朱莉が教室に入ってきた。俺は文庫本を閉じて席を立つ。
「それで何の話なの?」
「まあまあ、オカルト研究部も部活だろ?」
「表向きはそうって言ってたけど……」
「だったら……体験入部もできるよな?」
「なるほど、体験入部か……。つまりオカルト研究部が実際にどういうことをするのか、先に教えて体験してから入部するかどうかを決めるって言いたいんだね?」
「そういうことです、部活なんだから体験入部があってもおかしくないでしょう」
俺と朱莉は生徒会室にて再び生徒会長、佐々木王元と話していた。
「しかしねえ、体験入部といっても何を君たちは体験したいんだい?」
「つまりオカルト研究部がどのような活動をするかです。能力者について3人は把握していると仰っていましたよね?そのうちの一人と接触をしてみようと思っています。それがオカルト研究部の本来の活動目的なんでしょう?」
「うーん……。しかしなんでまた急に?君は能力者との接触を一番危険だと感じていたんじゃないのかい?」
「事件が起きていないということはせめてもそこら中で能力を使って回っているということではないんでしょうから、話し合いで解決できるかもと思ったんです。もし話し合いや能力を使わない、せめても争わない手段でオカルト研究部の活動が進むのであればオカルト研究部に入部して会長に協力するのも無い選択肢ではなくなります」
「頑なに全面協力はしてくれないんだね」
「そもそも平穏な学校生活が俺の目的ですから。本当はこんな平穏からかけ離れた生活に足を突っ込むのはやめておきたいんですが。会長の頼み事であり、それが学校の恒久的な平和につながると会長が仰っていたので。それが嘘でなければ協力してもいいかなと」
「随分と上から目線ですね。相手は生徒会長ですよ?一年生でしょう?振る舞いを慎みなさい」
「まあまあ、いいんだ、凪目さん。頼み事をしたのはこっちの方なんだから」
横から口を挟んできたのは凪目紫。王元と同じ3年で生徒会副会長だ。王元に似た吊り目に眼鏡、そして長い黒髪の彼女は副会長というかもはやどこかの企業の社長秘書のような見た目だ。
前回来たときはどうやら生徒会長が人払いをしていたようで生徒会室には誰もいなかったが、今日はこちらから訪れたので副会長もいるというわけだ。まあこんなにだだっ広い生徒会室なのだから一人で使う分には持て余すだろう。
というか普通に勾玉というかオカルト研究部の話をしているが副会長はどこまでこの学校のことを知っているのだろう?
「それで、体験入部としてオカルト研究部の活動をしてみようと。うーん……。活動に協力してくれるのはありがたいんだが、体験という形になるとねえ……。後から首を横に振られては困るんだよ」
「つまり君たちはこの体験という名目でもう少しオカルト研究部について知りたいわけだ。しかしそうやって能力者同士が接触した後になって君たちに断られました、オカルト研究部には入りません、なんて言われえるとこちらとしては打つ手が無くなってしまうんだよ」
「君たちを再度オカルト研究部に誘ってもおそらく一度断ったからには断られるだろうし、能力者同士が接触して戦闘になるのもまあ困るんだが、能力者同士に共謀される方が生徒会としてはより困るんだよね」
「うーん……」
会長はしばらく唸りながら椅子を回転させていたが、何か思いついた顔でこちらに向き直り、
「まあいいや、いいよ、体験入部としてオカルト研究部の活動を認めます」
と承諾してくれたようだった。
「お、やった。良かったじゃん、これで翔太も安全なことが分かったら入部するんでしょ?」
「まあ、それはその時次第になるかもしれんが、一旦協力はしてみようと思う」
「ちょっと待ってください!」
横槍を入れてきたのは副会長だった。
「オカルト研究部に体験入部させるってことはこちらから能力者の情報を渡すということですよね?会長も言うように彼らが共謀したらどうするんですか?会長は何か対抗策でも考え付いたんですか?」
どうやらこの人も概ねの事情は把握しているらしい。
「んー、まあ、最悪退学させればいいかなって。ほら、学校の外だと能力発動しないわけだから。それにほら、いざとなったら生徒全員避難させてエネルギー切れを待てばいいかなって」
「エネルギー切れ?」
「って何ですか?」
俺と朱莉が聞く。
「言ってなかったから秘密にしててもいいかなと思ったんだけどね。能力者と接触するんだったら流石に君たちに危険が及ばないように勾玉についてのことは詳細に教えといてあげないとね。君たちだって僕は安全に学校生活を送ってもらいたいんだ。能力者もそうでない生徒も」
「エネルギー切れっていうのはね。まずその勾玉の能力を使うにはそれなりに君たちはエネルギーを使うんだろう?この前も能力を使った後は疲れていたよね。そのエネルギーが切れて能力が使えなくなっちゃうことなんだ。もしもこれから会う能力者と戦うことになったらエネルギー切れを起こさないように気を付けてね。どうやら最初の内は能力の扱いに慣れてないぶん、すぐにエネルギー切れになっちゃうらしいから」
そんな大事なことを隠してたのか。じゃあ俺たちを閉じ込めたあの日こいつは俺たちのエネルギー切れを起こさせるために能力を使わせたのか?
「じゃあまあそういうわけで接触してもらう能力者についてはまた今度教えよう。こっちもこっちでその能力者が今どうなってるか、調査する必要があるからね。体験入部の日程はこっちからまた追って連絡するよ。いつ呼び出されてもいいようにちゃんと準備しておいてね。勾玉も毎日持ってくること。まあ無くしても戻ってくるらしいけどね」
怖すぎるだろ。これそんなに呪いのアイテムなのか。本当にあの婆とんでもないもの渡してくれやがったなと思い返す。
「「わかりました」」
そういって俺たちは生徒会室を後にした。
「いいんですか?本当にあの子たちを信頼しても。能力者のペアなんて聞いたことないですよ。しかも炎の能力と氷の能力って……。特に炎の能力はまずいんじゃないですか?実害が出た時タダじゃ済みませんよ」
「まあそうなんだけどね。僕の悲願のためには彼らの存在が不可欠なんだよ。多少の無茶は聞いてでも彼らを引き込むことには大きな意義がある」
「そうですか……」
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