激動の一日の終わり
「会長は俺が能力者だから危険であると言っているんですよね?」
「そうだよ?だからここから出すわけにはいかない」
「つまり俺が能力者で無くなればいいんですよね?」
「え、でも指輪外れないじゃん」
「会長は指輪を外す方法を知っているんですよね?その通りにして指輪を外すのでその指輪を会長が引き取ってください。そうすれば俺は能力者をやめられる」
この方法があった。俺はそもそも能力者になんざなる気はないのだ。巻き込まれただけである。能力者でなくなる方法があるのならそれに迷わず乗るべきだ。
「外すには外せるけどね、多分そんな簡単にはいかないと思うよ。勾玉の力は強力だからね。外せばそれで能力者じゃなくなるなんてことはないはずだ」
「それにもう一度言うがこれは僕からの頼み事なんだ。偉そうな態度をとって悪かったね。オカルト研究部に入部してもらって儀式をしてもらうことは僕の悲願なんだ。そのために君たちをここに呼び出してこうして話しているんだよ」
会長は椅子から立ち上がり俺の前へゆっくり移動する。
「頼むよ、僕の頼みを聞いてくれ」
会長が俺に頭を下げる。
「いいじゃん、私も協力するからさ。ていうか事件とか起きてないんだからそんな物騒な事ばっかりじゃないってきっと」
「じゃあその儀式ってのは何なんですか?その目的が知れないと利用されるだけになるかもしれないので協力できません」
会長は眉を下げて困った表情をした。
「………。参ったな。儀式については本当に喋れないんだ。せめても君たちが協力的になってくれるまではね。わかった、その指輪の外し方を教えよう。それで今日は帰りたまえ。それでゆっくり考えてから結論を出してくれ。良い答えが返ってくることを期待しているけどね」
「………。分かりました。いったん持ち帰りを認めてくれるってことですね。で、結局どうやって外すんですこの指輪」
「学校の外で外してごらん、簡単に外れるから」
呆れたように窓の外を見ながら会長は言った。
「え………それだけ?」
「本当ですか?」
確かに昨日学校で一日中外そうとしたが外れなかったので昨日家では外そうとしなかったが………。まさかそんな簡単に外れるのか?
「とりあえず、下校時刻を過ぎるまでここにいてもらって生徒が大半下校してから帰ってね。君たちを完全に安全だということはできないからね。それと、その能力は学校の外ではどんなに頑張っても力を発揮しないらしいから、学校の外までは僕と一緒に来てもらおう」
こうして俺たちの話し合いの結果はいったん持ち帰りということになった。
「完全下校時刻です。生徒の皆さんは帰宅しましょう」
校内放送がかかる。
「さて、じゃあ僕と一緒に来てもらおうか」
会長がゆっくりと、生徒会室の重たい扉に手をかける。数時間ぶりに開くその扉は相変わらず
ギギギ
と蝶番を鳴らした。
俺たち三人は数時間ぶりに生徒会室の外に出た。生徒会室から一年の下駄箱に行くには校舎を一回りしなければならない。俺たちはしばらく3人で校舎内を歩くことになった。生徒会室の前の長い廊下を歩きながら会長が言う。
「悪かったね、長い間閉じ込めて。でも僕にもそれなりの覚悟があるんだよ。生徒会長として、生徒の安全を守ること、そしてそのために儀式をすること。この目的のためには多少の手段は選んでいられないんだ」
さっきからやけに儀式を言う言葉を使うな。儀式って何ですかと聞かせたいのだろうか?さっきはそうやって軽率にこいつの話に乗ったことで閉じ込められたのだ。また何か企んでいるかもしれない。食えない男だ、佐々木王元。
「儀式って結局何なんですか?」
朱莉、馬鹿かお前は。さっきまで閉じ込められていたのが誰のせいか分かっているのか。今質問した相手だぞ。
「悪いね、儀式に関してはやっぱりまだ話せないんだ。朱莉ちゃんにもね。氷室君。君は儀式の正体が分かるまで首を縦に振らないつもりかな?」
「正直儀式の正体はどうでもいいです。知りたくもない。俺はそもそもオカルト研究部に入ることにも反対なんです。とにかくそういったファンタジーなものから距離を取って平穏に学校生活を送りたいんです」
「まあ確かにオカルト研究部で勾玉の能力者達と接触するのはある程度の危険が伴うかもしれないけど、他の面で平穏な学校生活を送りたいというならそれなりにサポートはさせてもらうよ。会長権限を使ってできることはなんでもね。それに高校生活だよ?多少の刺激があってもいいんじゃないのかな」
「そうだよ、せっかく高校に入ったのに勉強漬けとか楽しくないじゃんか。そもそもうちの高校に入るためにも中学で勉強したのにまた勉強ばっかりするの?部活とかしながら楽しみながらでもいいじゃんね」
「俺には俺の事情があるんだよ」
そうして話している間に学校の正門に辿り着いた。
「さ、やっと帰れるね。じゃあ勾玉を外そうか。とりあえず二人とも正門の外に出てごらん」
俺と朱莉は会長の言うように正門から校外へでる。会長の言うことに唯々諾々と従っているのは癪だが、外し方が分からない以上今は仕方がない。
「そしたら普通に外れるはずだよ?外してごらん」
指輪に手をかけ引き抜くように慎重に力を入れる。すると指輪は勾玉と共にあっさりとはずれてしまった。
「あ、外れた」
「ほんとにこんな簡単に外れるのか………」
「まあ、それで外れたからと言って勾玉との盟約が途切れるわけではないらしい。また付ければ能力を発動できるようになるそうだ」
外れた指輪を手に乗せて俺は会長に尋ねる。
「でもこれで俺たちは今能力を使えないんですよね?能力者でない潔白は今証明できたってことですよね?これでオカルト研究部の話もなかったことにしてもらえますか?」
「氷室君、君は強情だな。勾玉を外せば能力者ではなくなるわけではないんだよ。君たちは依然として能力者のままだ。それにね、これは頼み事だと言っているだろう。君たちには多少無理をしてでも僕のお願いを聞いて欲しいんだよ。君たちの双肩に学校の安全がかかってると言っても過言じゃない。君たちがオカルト研究部に入部してくれて、勾玉についての調査が進めばどんどんこの学校は安全になるし、儀式にも近づく」
「それとも君は、学校のことなどどうでもいいから自分だけ平穏な学生生活を送りたいというのかい?もしも他の能力者たちが暴れ出しても自分には能力があるから自分だけは安全で、それでいいというのかい?」
「もしもそういうなら、その精神性はあまり褒められたものではないな。助け合いの精神を持ってほしいものだね」
「でもオカルト研究部に入部して危険な目に遭うかもしれないのは俺たちですよね?」
「堂々巡りだな、お互い、いったん頭を冷やそう。話はまた今度だ」
そういって会長は手を振りながら歩きだした。だが少し経った後再び会長は振り向いてこういった。
「儀式はこの学校の絶対平和にとって必要なものだ。こんな馬鹿げたものが存在するこの高勾原高校において、恒久的な平和を作り出すために必要不可欠なものなんだ。君たちはやっと見つかったその儀式を成功させるためのピースの一つなんだ。僕はこの学校に恒久的な平和を取り戻したい、そこだけは信頼してくれ。そのために僕は生徒会長になったんだ」
こうして俺たち三人はそれぞれの家路に着いた。
俺は家に着くまでの間今日会長に話されたことを反芻していた。
勾玉の能力者の存在について、オカルト研究部の存在について、そして学校の安全を守るという儀式について。
外れた勾玉を見つめながら今日という日を思い返す。
色々なことが起きた一日だった。
勾玉の所有者と出会った。名は秋原朱莉。炎の勾玉の能力者。ショートボブの能天気な女。勾玉の能力を知った。俺の能力は氷を生み出す能力らしい。生徒会長、佐々木王元に呼び出された。そして能力の詳細、オカルト研究部の存在、儀式の存在を教えられた。そしてそんな能力と付き合っていくまるで学園ファンタジーのような生活に勧誘されている。
色々ありすぎだ。これが全部一日に起きたことだろうか?今でも夢なのではないかと疑う。しかし夢であればいいと思うと同時に俺の学校生活にいきなり新たな風が吹き込んだことへの興奮が全くないと言えば噓になる。複雑な心情だ。自分でもうまく語りえない。心の中が渦を巻いているようで、また言い換えれば雲になっているかのようで掴みどころがない。
「ただいま………」
俺は勾玉をポケットに押し込みモヤモヤした気持ちのまま家の扉を開けた。
「おかえり、遅かったじゃない」
家では何一つ変わらない日常が待っていた。遅めの夕食を食べ、最後に風呂に入って、自分の部屋に戻り、ベッドへ入る。
何も変わらない日常と相反する不思議な学校での出来事。その両方が地続きであることがにわかに受け入れ難かった。
上手く寝付けず、外れた勾玉を制服のポケットから取り出し見つめる。こんなものがあるからいけないのではないのか?こんなものを受け取ってしまったからとんでもないことに巻き込まれているんじゃないか。そう思い返すも、なぜか捨てる気は起らない。この勾玉との出会いが俺の学校生活を大きく変えようとしている。その分岐点にいるのが分かっているからだ。この勾玉と決別するのはもう少し考えてからでもいいだろう。会長としっかり話をつけてからでも遅くない。
まだ2日しかたっていない学校生活は既に俺の入学当初の方針とは大きく異なって進み始めていた。
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