勾玉の所有者
「あの………、この貰った指輪外れないんですけど、外し方教えてもらっていいですか?」
俺は恐る恐る婆に聞いた。すると婆から帰ってきた答えは
「知らん」
だった。
「いや………、知らんじゃ困るんですよ………。これ、外れなくなったんです、だからどうすれば外れるのかって聞いてるんです」
「知らん」
段々婆に腹が立ってきた。こっちは平穏な学校生活が懸かってるんだ。こんな冷気を発する外れない指輪とかいう呪いのアイテムに振り回されていては堪らない。
「いやだから………、朝、これを落とし物ボックスに持って行こうとしたらこいつが氷を作って冷たくなって、挙句水色に光り出したんですよ。それを止めるために咄嗟に指に嵌めたら外れなくなったんですって。そんでこのままだと悪目立ちして学校生活に支障をきたすじゃないですか。だから外し方を教えてくださいって言ってるんです!!」
「ほお、氷か。それは氷の指輪だったんじゃの。面白いの」
「面白いのじゃなくて!!外し方!!」
「だから知らんと言ってるだろう。昨日も言ったがワシは勾玉とその主人を繋ぐだけの存在にすぎん。だがまあ普通に考えればその指輪は外れんだろうな」
「は?外れない?」
「お前がその勾玉に選ばれたということはお前はその勾玉の主人になったということだ。主人は従者あっての主人なのだから従者が従者であり続ける限りお前は主人であり続けることになる。その勾玉の意志がお前を主人と見定めたのなら、お前はその勾玉の主人であり続けるしかないだろう」
血の気が引いていく感覚がした。体の髄まで体温が奪われていく感覚。つまりこれは………。
「つまり………俺はこの指輪を嵌めたまま一生生きて行くんですか………?」
「知らん、卒業すれば外れるじゃろ」
この婆………!!全然親身話を聞いてくれない。そもそもこんなもんを渡してきたのは婆だというのに………。
結局その後も暖簾に腕押しをし続け俺は成果を上げられず帰宅することになった。
「ただいま………」
「おかえりなさい………、ってその指輪落とし物じゃなかったの?」
「ああ………いろいろあって持ち主から貰ったんだ。ちょっとぴったり嵌って取れなくって、まあすぐ外すから………」
「そう?石鹸とかで滑らせて外れない?」
「もう試した」
俺は母と会話を終え自分の部屋へと向かう。
「はあ………」
姿見の前に立つ。右手の人差し指では相変わらず勾玉が水色に光っている。どうしたものだろうか………。
ここで俺はあることを思いつく。待てよ、あの婆は勾玉は最初は7つあったと言っていた。それが別の人間に渡って残り3つになったと。ということは最低でもあと4人学校内にこの勾玉を受け取っている人間がいるはずだ。そいつらを探し出し話を聞いてみるのはどうだろう。もしも先輩の中にも勾玉の所有者がいればその人はこの外れない勾玉との付き合い方を知っているかもしれない。
こうして俺は明日から勾玉の所有者を学校中から探し出すことに決めた。なにせ外れない指輪だ。勾玉の所有者はこの指輪をしているに違いない。もしも指輪をしていない所有者がいれば今度はそいつに外し方を教えてもらおう。
解決の糸口が見えてきた。俺はやっとこの呪いのアイテムから離れられることに歓喜し、次の日の学校へ向かうのだった。
翌日。
「行ってらっしゃい………、あんたそれ学校で着けてていいの?」
指輪を見て母親が言う。
「まあ、お咎めはないみたいだから………。行ってきます」
学校に着いた俺は早速校内を歩く。通る人々の指先に注目しながら歩いているので不審者みたいだ。他のクラスを回ってみたり、廊下を行違う人々を観察したりして見たが、なかなか見つからない。
まあそれも仕方がないと言えば仕方がない。なにせうちの学校は各学年10クラスもあるマンモス校だ。生徒の合計は3000人近くに上る。その中から限られた4人を見つけ出す。うーん、不可能ではないとはいえ、根気のいる作業になりそうだ。というかその前に女子生徒の指をガン見している不審者として補導されないように気をつけなければならない。
結局朝のホームルーム前の時間ではそれらしい人物は見つからなかった。そう簡単には見つからないか。今度は校舎を変えて先輩たちの中に勾玉の所有者がいないか指輪をつけている人がいないか、昼休憩にでも探すとするかな………。
キーンコーンカーンコーン
昼休憩だ。俺は席を立ち別校舎へ向かう。さて、成果が上がると良いけど………。
「うーん、おっかしいなー、どっかにいるはずなのに」
私は指輪をつけている人を探して校内を徘徊していた。昨日貰った赤色の勾玉付きの指輪。可愛いけどちょっと目立ちすぎる。そんでもってこれ、外れない。昨日散々いろんな方法を試したけど結局この指輪は外れなかった。今日の朝売店のお婆ちゃんに聞いても何にも言ってくれなかったし。そこで私は閃いた。同じ勾玉をもらった人がいるのでは?そう思っていろいろ校内を探してるんだけど………。
「閃いたときは私天才だと思ったのになー、なんでこんなにいないんだろ。もう1年生のクラス全部回ったのに―。どっかにいなきゃおかしいでしょ!!」
わざわざ友達とのお昼ご飯を断ってまで人探しに明け暮れてるのにどういうことなの?これで友達出来なくなったら学校楽しくなくなっちゃうよ。全部この指輪のせいじゃん。
「結局このクラスもいないか、お腹空いたし教室戻ろうかな」
私は諦めて廊下を歩きだす。なんで見つかんないかなー。
駄目だった。先輩方の中にもそれらしい人は見かけなかった。というか教室にあまり人がいなかったな。皆部活にでも出ているのか?熱心なことだ。3年の先輩方の教室は勉強している人も多かった。俺も早くああなりたいんだがな………。その前にこの指輪を外さないと。
そう思って教室に戻ろうとした時だった。廊下に指輪をしている人間が一人。かなり明るめの茶髪にショートボブの髪型、まだ皺のない制服に、俺と同じ一年生を示す上履きの色。そして右手の人差し指には赤色の勾玉のついた指輪。
「あっ」
「えっ!」
「「見つけた!!」」
「え、見つけたってことは俺のこと探してたんですか?」
「当たり前でしょ?どこ行ってたのー?全然教室居ないじゃん。というかキミも私のこと探してた感じ?」
「そりゃあまあ、でも朝探してもいなかったんで先輩方の校舎に行って指輪つけてる人探してたんですけど」
「あー!先輩にも勾玉持ってる人がいるんだ!?頭いいー!!」
「勾玉?」「あの二人指輪してない?」「お揃い?付き合ってんの?」「2日目だぜ?あのメガネ手出すの早くね?」周囲がざわつき始める。
「ちょっ………、別の場所行きましょうか」
「そうだね………。ごめんね、おっきい声出して」
こうして俺はもう一人の勾玉の所有者の人を見つけ出しとりあえず移動することにした。
俺たちはとりあえず部室棟の前まで移動してきた。昨日学校紹介の時に見た限り、部室棟は昼間はあまり人気が少ないようだったためだ。
「はあ………。この辺までくればいいでしょう。とりあえずお互いにこの勾玉の件で探し合っていたってことでいいんですよね?」
「そうだよー、全然いないから探してたんだよ。ていうかどんな状況?私は昨日売店でお婆ちゃんにこれ渡されんだけど」
「俺も同じ状況です。突然婆がお前は勾玉に選ばれたとか言って100万する指輪を押し付けてきたんです」
「一緒だ。それで可愛いもの貰ったなーと思って付けたらなんかこの指輪外れなくなっちゃって。外し方もお婆ちゃんに聞きに行ったんだけど応えてくれなくて。それで同じ指輪持ってる人探して歩いてたの」
可愛いと思って付けたのか。あんな胡散臭い婆から貰ったもの良く身に着けられるな。
「俺の場合は指輪を落とし物として届けようとしたんですけど、そしたらその瞬間に勾玉からなんか氷?みたいなのが出てきてしかも光り出して。パニックになっちゃってその時に指輪嵌めちゃって。そしたら抜けなくなるし、悪目立ちするしで散々ですよ」
「そう?可愛いと思うけど」
能天気な人だな、この人。
「私もこれ光った。付けた時。めっちゃ赤く光って友達ビビらせちゃったもん。しかもなんか炎出たし」
「炎?」
「うん、指輪つけた時ピカーって光った後ボワって炎出てめっちゃウケた」
感性が全然違うなこの人。めっちゃウケたじゃないだろう。火事にでもなったらどうするつもりだったんだ。
「まあとりあえずだいたい同じ状況で困ってるってことですね。外れない指輪に変な力を持つ勾玉、それに振り回されていると」
「そうだねー、困ってはいるよね。さすがにずっと着けっぱなしはちょっとなー。他の指輪つけたいとき困るし」
「じゃあやっぱりあなたも外し方は分からないんですね………」
「うん、ていうか私ら同学年でしょ?その敬語止めない?ムズムズする。あとあなたってとのも他人行儀すぎ。私秋原朱莉。朱莉でいいよ」
「そうかな、じゃあ敬語止めるけど。で、朱莉もこの指輪の外し方は分からないと。じゃあ放課後また会って今度は先輩方の中に勾玉の所有者がいないか探そう、もうすぐ昼休憩終わるし」
「うっそマジで?マジじゃん………。お昼食べてないのに………」
「じゃあとりあえず放課後またここに集合しよう。もう俺教室戻るから」
「ちょっと待ってよ、私も戻るから。ていうか名前は?」
「氷室翔太、氷室でも翔太でもお好きに呼んで」
「んじゃまあとりあえず翔太でいっか。クラスは?」
「1-B」
「おっけー、私Aだから」
朱莉と別れ教室に戻る。というか1-Aだったのか。良くそれで2日間お互いに気が付かなかったな。なにはともあれこうして俺は一人同じ状況の味方を見つけた。これならあと3人の勾玉の所有者も見つかりやすくなるだろう。
それにしても炎が出る勾玉か。どうやらあの婆が言っていた勾玉に何か力が宿っているっていうのは本当らしい。俺のは多分氷だろう。朱莉のは炎。それぞれ水色の勾玉と赤色の勾玉。色彩のイメージに合わせた力でも出るんだろうか?
というかいよいよこの勾玉を持っていてはいけない理由ができたな。もしも同じように勾玉に何らかの力があるならまるでファンタジーだ。そしてそんなファンタジーに巻き込まれていては勉強なんかできっこない。平穏な学校生活が遠のいていく。一刻も早く外さねば。
そう思って俺は放課後を待った。
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