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影の足跡

 ガチャン


 俺たちは儀式の間から出て生徒会室へと場所を変えた。再び丁寧に本棚を元あった位置へと戻す。


「1ミリのずれも許されないからね。誰にも感付かれるわけにはいかない」


 俺と共に本棚を戻した会長は再び中央の椅子へと座る。


「そういうわけだ、さっき見たもの、聞いたこと、全て他言無用で頼むよ。もしも誰かに話すようだったらその時は冗談ではなく容赦なく知った人間もすべて退学にする。君たち能力者だから教えたんだ。必ず協力してもらう必要があるからね」


 多分これは脅しではないだろう。ただの事実だ。そしてそれは正しい判断だ。俺たちはこんなことを誰かに知られてはならない。


「それで君たちは協力してくれるということでいいんだね。まあもう知ってしまった以上は必ず協力させる。とりあえず誓約書としてこれにサインしてもらおうか」


 そう言うと会長は机の中から部活動入部届を取り出した。


「ここにオカルト研究部と書いてその下に自分の名前を書いてくれ。こっちで処理する。もういまさら断るなんて言わないよね?」


 会長は俺を見つめる。鋭い眼光だ。さすがに迫力がある。


「言いません。ここまで来たら最後まで協力しますよ。この学校から能力が無くなるその日まで」


「よく言ってくれた。頼もしいよ」


 俺たちはそれぞれ会長から受け取った紙にサインをして渡す。


「うん、確かに。これで君たちは晴れてオカルト研究部だ。そして今後は能力者探しを行ってもらう。能力者に接触して能力を調査したり、能力そのものについて調査したり、やってもらうことがいろいろある。とりあえず最初に生徒会側で把握している残り2人の能力者に接触してもらおうと思っていたんだが……」


「だが?」


「さっき言っただろう。急務ができたと。先にそっちに当たってもらう」


「そういえばそう言っていましたね」


「儀式云々のせいで完全忘れてた……」


「そのことについては明日話そう。明日は昼休憩の間にここに来てくれ。放課後は三上さんが来られないだろうから」


「ありがとうございます」


「じゃあ、これからはオカルト研究部として3人ともよろしく頼むよ、それと何かお願いがあるなら何でも相談してくるといい。できることなら叶えてあげるから、ね」


 最期にいつもの飄々とした風に戻った会長を尻目に俺たちは生徒会室を後にした。


「とんでもないこと聞いちゃったね……」


「ああ」


「……」


 俺たちの間にそれから会話は無かった。皆それぞれが儀式について、そして自分の能力とこれからの生活について考えていた。


「あ、ごめん。あたし今日無断でバレー部出てないから顔だけ出してくる。また、明日話そ」


 そういって三上先輩は走って行ってしまった。


「行っちゃったー。あたしもバスケ部出てないとヤバいかな……」


 時刻はもう午後7時を回っている。きっと第2体育館に言ってももうバレー部は練習していないだろう。三上先輩は平静になるために、1人の時間が欲しくて俺たちと別れたのは明白だった。


「なあ、どう思う、この能力のこと」


「どう思うって?」


「俺は無くしたい、こんな能力があっても不幸になる人が増えるだけだ。そう思ってる。でも誰かが望んでこの能力はいま俺たちに身に付いたんだとしたらそう簡単に消してもいいものなのか?ずっと大昔からあり続けてきた能力なんだろ。なにかまだ秘密があるんじゃ……」


「んー、無くなってもいいと思うけどなー、私は。だって他の学校だったらこんな能力ないわけじゃん。多分だけど。それが普通なわけじゃん。普通に戻れるならそれが良くない?」


「じゃあ儀式についてはどう思う。あれって本当か?本当になんでも願いが叶うなんてことがありえるのか?」


「さあ?ほんとかどうかはわかんないけど。まあでも何かは起きるんじゃない?わざわざあんな部屋まで用意されてるんだし」


「もしも何でも願いが叶うとしたら……。そして会長が俺たちを利用しているんだとしたら……。こんなことに協力していいのか……?もしも会長が裏切って自分の私利私欲のために願いを叶えたら?別の人間が儀式を悪用したら?なんでも願いが叶うなんてことがもしも本当だったらこんなことに加担するのは能力を消し去るよりもっともっと危険な事なんじゃないか?」


「そんなに会長信頼できない?せめても学校の平和を守りたい、っていう願いは本当だと思うけど」


「会長だけじゃない、別の人間に会長が操られている可能性だって……」


「心配しすぎ!っていうかドラマの見過ぎ!もはやそんなんじゃ何も信じられないじゃん」


「そうだ、何も信じられない……。だってなんでも願いが叶うなんてことがまず信じられないんだから」


「もー、話になんない。猜疑心が強すぎると思うよ、翔太は」


「君たち、喧嘩はよしなさい」


「え?」


「いや喧嘩はしてないんですけど……って校長先生?」


 朱莉が言うように後ろから俺たちに声をかけてきたのはこの学校の校長、大杉帝だった。


「下校時刻ももう過ぎているんだ。早く帰りなさい。もう日も暮れている」


 見上げるような背の高さに威圧感のあるほど整った顔立ち、そして校長という役職からは想像できない若々しい見た目をしている。学校のパンフレットでは40代にして一国一城の主となったその辣腕が存分に紹介されていた。


「さ、早く帰りなさい」


「は、はい。すいません……」


「ところで……、君たちはこんな時間まで何をしていたんだ?」


「部活動です」


 俺が即答する。さっきまでの会話を聞かれていたかもしれない。他言無用と釘を刺されたばかりだ。さすがに迂闊だったと反省する。


「何部なんだい?」


「女子バスケットボール部です。俺は図書館で勉強していました」


「そうか。勉学に励むのも部活動に励むのもいいが身の安全を考えてほどほどにしなさい」


「はい、すいません」


「じゃあ、私はこれで失礼する。君たちは早く帰りなさい」


 コツコツと高い足音を立てながら校長は去っていった。


「ふう、なんか緊張したー。校長イケメンだけど真顔だからなんかこわいんだよねえ」


「とりあえずもう今日は帰るべきだな。これ以上誰かに何か聞かれるか分かったものじゃない」


「え、校長に聞かれてたかな、さっきの話」


「大丈夫だと思うしかないだろう。もうどうにもできない」


「儀式……なんでも願いが叶う……、ほう、面白いじゃないか」


 この時の俺たちはまだ知る由もなかった。


 この儀式がいずれとてつもない未来を招くということを……。

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