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儀式の秘密と会長の願い

「ついてきたまえ」


 会長は席を立ち生徒会室の端にある本棚の前に立つ。中には生徒会の歴史をまとめた資料がびっしり入っている。


「ここが隠し扉になっている。古典のミステリーみたいだろう。それだけ大昔からあるのが儀式、そして勾玉なんだよ。氷室君、本棚を動かすのに協力してくれ」


 言われるがまま会長と共に本棚をゆっくりと押す。重たい。力を込めて押すと本棚は時間をかけて数ミリずつ移動していく。


「ほんとに扉……」


 朱莉が呟く、そして動いた本棚の裏に小さな扉が出現した。その扉は何もかもが大きいこの生徒会室には不相応な小さな扉だった。一人通るのがやっとという小さな扉。古びた金色のドアノブが付いている。そしてそのドアノブの下には鍵穴らしき穴が開いている。


「氷室君、勾玉を出しなさい」


「はい」


 俺は勾玉を取り出す。


「この黒い穴が鍵穴になっているそうだ。勾玉を嵌めこむことで開くらしい。氷室君、やってみてくれ」


 俺は勾玉を手に持ちゆっくりと鍵穴へと差し込む。差し込んでいくと勾玉がコツンという音を立て止まる。俺は慎重に勾玉を右側へ捻る。


 ガチャン


「開いたな。ここだ、入りたまえ」


 会長がドアノブを捻る。ギギギと音を立て古びた扉が開く。


「なんだ……ここ」


「こんな場所が……」


「……」


 中は小さな扉を通って来たとは思えないほど大きな教会のような場所だった。部屋には扉から遠い位置にある奥の硝子窓からちょうど春の強い夕日が差し込んで、自然光による温かみのある光で満ちていた。


 部屋の中心には7つの円とそれぞれを繋ぐ線で書かれた巨大な模様があった。そしてそれ以外は何もない不思議な空間だった。


「ここが儀式の間だ」


「儀式の間?」


「そう、儀式はここで執り行うんだ、だから儀式の間と呼ばれている」


「あったかくて、綺麗な場所……」


「そうだな、僕も入ったのは初めてだ。だが研究ノートにあった情報と概ね相違はない。過去のオカルト研究部はこの場所を特定し入室したことがあるんだろう。万が一のこともある。誰か、同じ要領で鍵を閉めてくれ」


 扉の最も近くにいた三上先輩が勾玉を取り出し鍵をかける。


 ガチャン


 生徒会室同様にここも広いからか、小さな音が大きく響く。


「さて、儀式の話をしようか。といってもこの情報はオカルト研究部の研究ノートの受け売りだがね」


「この部屋の中心にあるその不思議な紋、研究ノートによるとそれは魔方陣だそうだ。そこの魔方陣にある7つの円、そこにそれぞれ能力者が立つことで儀式が始まるらしい。そして同じ祈りをささげることで“なんでも願いが叶う”そうだ」


「え……」


 俺たち全員が息を吞む。


「嘘みたいだろう。だが研究ノートにはそう書かれている。この儀式の間で能力者7人が同時に同じ願いをささげた時その願いが叶うと」


「そんなの……、いよいよ魔法やファンタジーじゃないですか」


「氷室君、君たち能力者は自分たちが魔法やファンタジーな存在であることを忘れてしまうようだね。十分君たちの存在だって魔法やファンタジーだよ」


「そしてね、これで僕が君たちにこれほどまでに頼んで無理やりでも協力させようとした理由が分かっただろう。何でも願いが叶うんだ」


「なんでもって例えば、不老不死とか、大金持ちだとか、本当になんでもですか?」


「そうらしい。実際に一度ここで儀式が過去に行われたそうだ」


「その時の願いは何だったんですか」


「正確にはわからない、随分と大昔のことらしい。恐らくこうなのではないかという推測は研究ノートに書かれているがね」


「それを……教えてはくれないんですか」


「知りたいかい?」


「そりゃ……もちろん」


「知って後悔しないかい?」


「後悔するようなものなんですか」


「どうだろうね、ただ君たち能力者に関わることが願われたようだよ」


「俺は、知りたいです」


「そうかい……2人は?」


「知りたい……かな」


「ここまできたらね」


「そうか……」


 会長はなぜか俺たちに背を向けて窓の方を見た。そして言った。


「“この学校に勾玉と能力が尽きないように”と願われたそうだ」


 一瞬時が止まったように静寂が空間を支配する。上手くその情報に反応できない。どういうことだ。なんでそんな願いが……。


「そう願われたらしいんだ。本当に何でも願いが叶うなら、そしてこの推測が本当ならば今君たちの持っている勾玉とそれによる特殊な能力はその時に願われたから存在しているということになるらしい」


「ふざけるなよ、なんでそんなことを望んだんだ……。誰が得するって言うんだ……」


「本当かどうかはわからないよ、あくまでも推察だからね。ただもしも本当なら僕もそう願った奴を許すわけにはいかない。その願いのせいで君たちは能力者に選ばれ平穏な学校生活を失い、他の生徒も同様に安全な学校生活を失った……。能力さえなければ、そんなことが願われなければ、こんな風になることもなかったんだ」


「君たちは能力を得て嬉しいと思ったことはあるかい?」


 会長は唐突に俺たちに訊いてきた。


「俺は、迷惑だと思っています、こんなことに巻き込まれて、そう願った奴の存在が……許せないくらいには」


 俺は正直に答える。


「私は、まあどっちでもいいといえばいいけど、無くてもいいかな」


「あたしは能力なんて無い方が良かった……。でもこの能力に出会ってなければ結果的にバレーに出会うこともなかったかもしれないと思うと何とも言えない」


「三者三様の答えだね。でも僕はこの能力なんて無い方がいいと思っている。氷室君のように平穏な学校生活から遠ざかってしまうものもいる。秋原さんはどっちでもいいと思っていると言ったけど君の能力のせいで危険に曝される人がいつか出るかもしれない。三上さんは結果的にバレーに出会えたと言っていたけど能力が無くても君は打ち込める何かに出会えたかもしれない」


 再び静寂が空間を支配する。少しずつ日が傾いてきていた。


「僕はね、もう一度儀式をしたいんだ」


「え……」


「僕の願いは真逆だ。“この学校に勾玉と能力が二度と現れないように”」


「能力を永久的にこの学校から消し去り恒久的な平和を実現する。それが僕の願いなんだ。ただしそれは儀式で勾玉と能力が尽きないよう願われている以上、同じく儀式によってでないと実現できないと思う。だから君たちにどうしても協力してもらいたいんだ」


「それが、会長の願いなんですか」


「そうだ。氷室君、君にもう一度問おう。オカルト研究部に入部してくれないか。そしていずれは儀式を完成させ、この学校から能力を消し去るのに協力してはくれないだろうか」


 そんな願いだったのか。会長の言う悲願ってやつはこれか。だからどうしても俺たちに協力して欲しかったのか。退学をチラつかせてでもオカルト研究部に入部させようとした理由、儀式の正体、そしてこの能力の発端がそもそも過去に行われた儀式によって願われたその願いによるもの……。


 俺は口を開く。


「協力……させてください。もう、この学校に能力者は必要ない」

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