二つの包み
「まぁこの程度のこと僕なら簡単に思い付くし、なんならもっと良い案を考え出せると思うけどね。けどこの店は貴族だけじゃなく平民も利用するみたいだから、これぐらいの思い付きしかできないのは仕方のないことじゃないかな」
その科白に、思わずザガロを呆れた目で見てしまう。
申し訳ないけれど、これまでの付き合いの中で、彼が優れた閃きをしたことなど一度もなかった。それどころか、侯爵家の跡取りにも関わらず、あまり勉強をしている様子はないし、私よりも一般常識に疎いところもある。
その彼が、こんなことを言うなんて。
お店の方にあまりにも申し訳なく、居た堪れなくなってしまう。
ザガロは貴族だし、服装からもそれが分かるからこそ店員達は口を開かないが、今の彼の言葉が聞こえただろう人達の視線は冷たかった。彼と一緒にいる私にまで冷めた視線が注がれ、弁解をしようにも、できない空気に満たされている。
といってもこの状況で、どう弁解したらいいの?
下手なことを言えば、今度はザガロを怒らせてしまうだろう。けれど今回、悪いのは完全にザガロであり、お店の人はプライドを傷つけられた被害者だ。
私が変に誉めなければ良かったのよね……。
ザガロは父親であるメラニン侯爵に似て、見栄っ張りな所がある。だからこそ、私がこの店の人を褒めた時、自分の方が上だと誇示したくてあんなことを言ったんだろう。
それでもまさか、こんな店の中で空気も読まずにあんなことを言い出すなんて思いもしていなかった。
今の私にできることは、彼を早くこの店から連れ出すことぐらい──。
周囲の人達にザガロに気付かれないよう頭を下げると、私は彼に早く買い物を済ませるよう促した。
「ええ? せっかく来たのに、なんでそんなに急かすんだよ? 学園で使う物だから、よく吟味して選びたいのに……」
ブツブツ文句を言う彼のカゴの中には──なるほど、学園で使うだろう文房具が色々と入れられていた。
ただ気になるのは、そこに女性用と思われるものも数点……どころか、ほぼ同じだけ入れられていることだ。しかもよく見れば、それは同じ物を色違いで揃えられているようだった。
「これって、どうして全部二種類ずつ買ってるの?」
まさか私の分も一緒に選んでくれたとか?
僅かな期待が湧き上がるも、ザガロは私からサッとカゴを遠ざけ、背後に隠して見えないようにしてしまう。つまり、彼が選んだお揃いの文房具は、私の物じゃないということだ。
その証拠に、ザガロからは「僕のことを詮索する前に、自分の物を早く選べよ。この店から早く出たいのだろう?」と言われてしまった。
この店から早く出たいわけではなく、ザガロが心無いことを言ったせいで居づらくなっただけなのに。
周囲からの冷たい視線を浴びつつ、もう一度ここに来店し直す勇気はないため、私は彼に倣って学園で使いそうな物を急いで選び、カゴへと入れていく。
そうして店内の品物を全て見終わり、会計に足を運ぶと──私がカゴを置いたすぐ横に、無言でザガロのカゴが置かれた。
いつの間にか、彼はカゴを二つに増やしていたらしい。一つは男性用っぽい配色の物ばかりが入っているが、もう一つは逆に女性用っぽい配色の物ばかりを入れたものとに分けられている。
「会計は全部一緒で、包みは別々。こちらのカゴの物だけ、プレゼント用に包んでくれ」
後から会計に来たくせに、横から指示を出すザガロ。いつものことであるとはいえ、私はつい顔を顰めてしまう。
「ねえ、これって……」
二つ目のカゴの中身が私以外の女性へのプレゼントだということを隠そうともしないザガロに、理由を尋ねようとすると──彼は私と視線を合わせることなく再び店内へと戻って行き、様々な品を手に取って、待ち時間を潰し始めた。
……私とは、そのことについて話す気はないってことね。
「……お待たせ」
「お、ありがとな」
支払いを済ませ、包装された品物を持って戻った私から、ザガロが軽い言葉とともに二つの包みを奪い取る。
「ちょっとザガロ──」
「それじゃ、今日は忙しいからこれで。会えない時は連絡するから」
まるで口を開きかけた私の声が聞こえなかったかのように、彼は勝手なことを言いながら店を出て行く。
今日のデートはこれで終わり? 冗談じゃないわ!
一言だけでも文句を言おうと慌てて後を追うも──外に出た時、彼の姿はもうどこにも見当たらなかった。
「嘘……でしょ……」




