話題のカフェ
「ミディアさん、ミディアさーん!」
遠くの方から、こちらへ向かい、一直線に駆けてくる足音がする。
この淑女の欠片も感じられない足音と呼び声は、間違いなくジェニーさんだ。
いくら元平民だとはいえ、今は侯爵家に引き取られた令嬢なんだから、それなりの礼儀は身につけておかなければならないはずなのに、彼女はいつまで経っても平民の癖が抜けないらしい。
それを本人に告げたところで意味がないことは入学式の日に理解したため、本人には何も言わないけれど。こういったことは家の恥になるから、せめてザガロに伝えようとしてみたものの──。
「ジェニーは病弱なせいで学園に通うだけで精一杯なんだ! そんな彼女に家でまで教育を受けろだなどと言うのか? お前はよくもそんな鬼のようなことが言えるな!? この鬼婆め!」
と酷い言葉で言い返され、『鬼婆』などと言われたことがなかった私は、ショックで口がきけなくなってしまった。
そんな私を庇うように前に出てきたのは、なぜだかジェニーさんで。
「ザガロ様やめてください。ミディアさんはきっと私のことを思って言ってくれただけなんです。それをそんな酷い言葉で責めるなんて……たとえミディアさんが許しても、同じ女として私はザガロ様を許せません!」
と怖い顔でザガロのことを諫めてくれたのだ。
信じられない──という想いと共に、どうして? という疑問が湧き上がる。
せっかく庇ってもらったというのに、これまでの経緯から、どうしても彼女を素直に信じることができない。
まさかザガロと二人で私をはめようとしているんじゃ……ついそんな風に考えてしまい、疑いの眼をジェニーさんへと向けてしまった。
その刹那──。
「ミディアさんを傷つけるザガロ様なんて嫌いです! ねえミディアさん、一緒に新しくできたカフェに寄り道して帰りませんか? ミディアさんを傷つけるような人なんて放置して、一緒にお茶して帰りましょう? ね、そうしません?」
と、ジェニーさんがにっこりと私に笑いかけてきた。
「そ、そんな……ジェニー、待ってくれよ!」
明らかに動揺し、縋り付くように伸ばされたザガロの手を、ジェニーさんは冷たく振り払う。
「ザガロ様は先に屋敷に帰っていてください。私はミディアさんに送ってもらって帰りますので。……ね? ミディアさん」
「え、ええ……、そうね……」
何となく断りづらくて、微笑むジェニーさんに腕を取られたと思ったら、私はそのまま話題のカフェへと連れて行かれた。
そんな私達を追うことも、密かについてくることもできないザガロは、心底悔しげな顔をして私を睨んでいたけれど、カフェに行こうと提案したのは私じゃないし、睨まれたところでどうしようもない。
「ねえミディアさん、どれにします? 私は前々からここに来てみたくって……でもお小遣いを持ってないから、ずーっと我慢してたんですよぉ」
そういうジェニーさんは、メニューの中にあるものを片っ端から注文していて。そんなにたくさん食べられるのかしら? と心配していると、どこからともなく彼女の取り巻きと思われる男子学生達が周囲の机に陣取り、まるで執事のように彼女の世話を焼き始めた。
そうして無事に完食された軽食やドリンクの支払いは──どういうわけだか全て私持ちになっていたのだった。




