不名誉なあだ名
まるで、鈍器で頭を殴られたような感覚だった。
私とは違う。同じ場面で私に対する台詞とは全く違う言葉をジェニーさんに吐いたザガロを、私は信じられないものを見るような目で見つめた。
以前、私も今のジェニーさんと同じように、ザガロの汗をハンカチで拭いてあげようとしたことがあった。けれどその時のザガロは、綿の肌触りを嫌がって「ノスタリス家の令嬢だったら、シルクのハンカチぐらい常備しておけよ」と言ってきたのだ。
私は彼に“綿の方が吸湿性がいい”ということと、“シルクは汚れが落ちにくく、ハンカチの素材としては向かない”ということを伝え、彼の綿のハンカチに対する認識を正そうとした。
値段の問題ではない。たとえ安価でも良いものはあると、彼に理解して欲しかったから。
けれど彼は聞く耳を持たずに、「シルクのハンカチ以外で僕の汗を拭くのは禁止だ」とまで宣った。
仕方なく私はザガロの汗を拭くためだけにシルクのハンカチを常備し、それ以外の時は綿のハンカチを使用するようになったのだ。
今にして思えば、どうしてそこまでして私が彼の汗を拭いてあげる必要があったのか──何枚ものシルクのハンカチを彼の汗で無駄にして、何度洗濯しても落ちない汗に胸が痛んだ。
こんなことに使われるために、蚕も必死に繭を紡いだわけじゃなかっただろうに──。
どうして彼がそこまでシルクのハンカチにこだわったのか──その時の私には分からなかったけれど、汗を拭く相手がジェニーさんであれば、その材質にはこだわらないのだということだけは、今回のことでハッキリと理解できた。
私のことは何とも思っていないから、シルクのハンカチが必要なのね。
むしろシルクのハンカチを持っていない私なんて、ザガロの汗を拭く価値すらないと思ってるのではないだろうか。
だったらなぜ、早いところ婚約破棄をしてくれないのか。
既に『政略で得た婚約者の金によって義妹を愛でる侯爵家嫡男』などという不名誉なあだ名がザガロにはつけられ、私は私で『お金の力で義兄妹の絆を支える鈍感な女』呼ばわりされている。
私は決してあの二人を支えているつもりはないし、学園に入学してからというものできる限り二人から距離をとるようにしているのだけれど、いかんせん、ジェニーさんが事あるごとに纏わりついてくるせいで、いつまで経っても噂から逃れられず、非常に迷惑を被っているのだ。
ザガロ自身は父から叱責されたことが利いているのか、自分から積極的に近寄ってくることはないにしても、ジェニーさんが私といれば、当然のように近づいてくる。
そうして人のお金で、クラスの友人達を誘って遊びに行こうと言ってくるのがまた、面倒くさい──。




