許し
「ちなみにだけど、そういう限定もののお菓子って、結構値が張るものじゃないのかい? そんな高額なお菓子を、どうやってジェニーだけで大量に買ってこられたのかな?」
これで父上からの入学祝い金で買ったと言うのなら、なんの問題もない。
しかし、嫡男である僕でさえ父上にそのようなものはもらっていないのに、義理の娘でしかないジェニーに、お金など渡すだろうか?
あり得ない。絶対にあり得ない。
とすると、お金の出処は一つしかないことになる。
だが、そうだとして、ジェニーはどうやって買い物をしたんだ?
彼女自身はノスタリス子爵家との繋がりなど何もない。だから僕のようにノスタリスの家名を出してツケ払いをしようとしても、店側に跳ね除けられて終わるだけのはず。
なのに実際ジェニーは、こんもりとお皿に山積みされてもまだ余るほどの大量のお菓子を、何軒もの店から購入してきている。
一体どんなやり方をしたら、何軒もの店で疑われずに買い物することができるんだ?
それとも何か、僕の知らないとっておきの方法でもあるとか?
眉間に皺を寄せて考え込んでいると、不意に近づいてきたジェニーに容赦なく眉間をぐりぐりと押された。
「ザガロ様ってば顔こわーい! そんな顔してたら、女子にモテなくなっちゃうんですからねっ」
「あ……ご、ごめん。つい……」
ぷっくりと頬を膨らませて拗ねたそぶりをするジェニーを見て、僕の表情はへにゃっと崩れる。
ああ……やっぱりジェニーは最高に可愛いな。彼女以上に可愛い存在なんてこの世にいないし、僕の心を癒やす天使でもある。彼女の顔を見ているだけで、ささくれ立った心が落ち着くのだから、天使以外の何者でもない。
ミディアにもこの五分の一……いや、十分の一でも可愛げがあれば、少しぐらいは好きになってやっても良かったのに。
「ジェニー……好きだよ」
「ええ!? や、やだザガロ様ったら。そういうことは義妹の私なんかじゃなく、婚約者であるミディアさんに言ってあげないと……」
「だって僕はミディアよりジェニーの方が可愛くて大好きなんだから仕方ないじゃないか。それともジェニーは、僕のこと嫌いかい? こんなこと言う僕は迷惑?」
わざとらしく落ち込んだ風を装って言うと、ジェニーは恥ずかし気に頬を染めてそっぽを向いた。
「もう、ザガロ様なんて知らない! 早く四阿に来てくれないと、お菓子は全部私が食べちゃうんだからね!」
言うなり、彼女は庭園へ向かって駆け出していく。
はあ……どうしてジェニーはあんなにも可愛いんだ。
できれば義妹なんかじゃなく、婚約者であればいいのに。
どうして僕達は義兄妹なんだ……。
義兄妹であるからこそ、こうして同じ家に住めているわけだが、たとえ血が繋がっていないとはいえ、兄妹間での婚姻は貴族間では忌避されている。そのため、僕がジェニーと本気で結婚しようとするなら、彼女をどこか他の家へ養子に出さなければならない。
だがそうしたら、ジェニーと離れ離れになってしまう。
まだ気持ちが通じ合ったわけでもないのに、そんなことをしたら彼女を他の男に取られてしまうかもしれないし、それだけは絶対に許せない。
そんな危険を冒すぐらいなら、この屋敷で義兄妹として暮らしていく方がずっといい。
ただ、そのためには先立つものが必要だ。
そう考えた途端、手に持つ書類を無意識に握りしめてしまい、紙がグシャリと音を立てた。
ジェニーとお揃いで買った宝飾品の請求書と、婚約破棄に関する書類。
どちらか一方──若しくは両方──にサインして、速やかに届けるようにと念を押された。
始まりは、たった一通の手紙からだった。
『学園生活一日目にして、貴方に幻滅いたしました』
学園から帰るなり、執事に渡された手紙に目を通すと、たったそれだけが書かれていた。
読んだ瞬間腹が立ち、それを書いたのはミディアだと確信して、差出人の欄を見ることなくノスタリス子爵家へと向かったのだが──それがいけなかったのだろうか。
あそこで怒ってミディアの家になど行かず、無視していれば──。
いや、今さら済んでしまったことを後悔しても仕方がない。
とにかく、何があろうとミディアの婚約者の座を失うわけにはいかない。
なんとかしてノスタリス子爵に許しを請い、婚約を継続してもらえるようにしなければ、僕の未来は貧乏一直線になってしまう。
そんなのは受け入れられない。受け入れられるはずもない。
かといって、許しを得るにはどうすればいいというのか──。




