変わってしまったザガロ
いやいや待って、ちょっとそれ、どういうこと?
ザガロが放った一言を聞いて、私は思わず言い返すことも忘れ、ポカン──と口を開いてしまった。
今日って、デートの約束をしていたわよね? というより、毎週末は婚約者同士の交流としてデートすることが決まりになっていたから、今まで約束のようなものは交わしていなかったけど、それで特に問題なかったわよね?
それなのに、どうして今日になって突然デートをすっぽかされたばかりか、そのことについて尋ねようと訪れた私が『緊急の用事でもあったのか?』なんて言われるんだろう。どう考えてもおかしいわよね。
あまりにもきれいさっぱりデートの約束を忘れ去っているザガロの様子に、つい、こっちの方が勘違いしていたのかと考えそうになってしまう。でも、そんなことはない。私は間違っていないはず。
だけど一応(今日は本当に週末だったわよね?)と内心で自問自答し、向かい側に腰を下ろしたザガロを真っ直ぐに見つめると、私はハッキリとした口調で問いかけた。
「今日って私達、デートする約束だったわよね? なのにどうして待ち合わせ場所に来なかったの?」
その言葉を聞いた瞬間、「あっ!」という顔をしたザガロ。
やっぱり今日のことは私の勘違いでも何でもなく、ただ単に彼が忘れていただけらしい。
一日中ずっと私はザガロのことを心配していたのに、当の本人は忘れていただけだなんて酷い話だ。けれど今までは一度もそんなことなかっただけに、どうして急にそんなことになってしまったのかと疑問を覚える。
「もしかして今日は、私との約束を忘れてしまうような何か大変なことでもあったの? もし何かあったのなら、できれば話して欲しいのだけど……」
気を遣ってそう言ってみるも、ザガロは気まずそうに目を逸らすだけで、何も言ってはくれない。
代わりに、一息で紅茶を飲み干すと立ち上がり、使用人に命じることなく彼自身が応接室のドアを開けに行った。
え、どういうこと?
これまで何度か私は侯爵家を訪ねて来たことがあるけれど、こんな風に彼が自分でドアを開けるようなことは初めてで、思わず目を見張ってしまう。そんな私に彼は顎をしゃくって退室を促すと、まるで悪いと思っていないような口調でこう言ってきた。
「今日のことは悪かった。今後はこのようなことのないようにするから、とりあえずもう帰れ。あまり帰りが遅くなっては、ご両親も心配されるだろう?」
「それはそうね……分かったわ」
一体誰のせいで遅くなったと思ってるのよ──と思いつつ、私は言われるがままに席を立つ。
ドアを押さえているザガロの目の前を通り過ぎ、応接室を出ると、なんと彼は私を玄関まで見送ることすらなく、用は終わったとばかりに屋敷の奥へと歩いて行ってしまった。
侯爵家を訪れるたび、ザガロは毎回私が帰る時に玄関どころか門の前まで送ってくれて、馬車に乗る際には必ず手を貸してくれていたのに。
本当に、彼は急にどうしてしまったのだろう。そんなところまで人が変わってしまったようで、私はただ呆然とすることしかできなかった。




