金の出処
ノスタリス子爵家から追い出され、強制的にメラニン侯爵家の屋敷へと帰された僕は、子爵に渡された二枚の書類を持って、うなだれながら玄関の扉をくぐった。
途端に、ジェニーと鉢合わせてしまい、持っていた書類を素早く背後へと隠す。
「ザガロ様、お帰りなさい! ちょうど今からお茶にしようと思っていたんです。ザガロ様も一緒に飲みますよね?」
笑顔でそう聞いてくるジェニーの手には、美味しそうなお菓子がいっぱい乗った皿があり、彼女に付き従うメイドが持つトレイの上には、二人分の茶器が用意されている。
「ジェニー……もしかして、僕を待っていてくれたのかい?」
喜びに表情を崩しながら尋ねると、彼女は可愛らしく舌をペロリと出した。
「実はね、貴族学園の入学式の日限定で販売されるお菓子があるって話を聞いて、メイドを連れて買いに行ってたの。それでついさっき帰ってきたところなんだけど、一人で食べるには多すぎるから、一応二人分用意しておこうと思って」
「ああ、そうなんだね……」
なんだ、別に僕のことを待っていてくれたわけじゃないんだ……。
「じゃあ僕は一旦部屋に戻って着替えてから、四阿に向かうことにするよ」
ジェニーの言葉にがっくりと肩を落とし、足取り重く部屋へと向かう。
すると、そんな僕の背後から、彼女は続け様にこんなことを言ってきた。
「ザガロ様! 私は先に四阿に行って待ってますからね! 今日はいろんなお店を回ってたくさんの種類のお菓子を買ってきたから、きっとほっぺたが落ちますよ!」
だから何かでほっぺたを縛っておいた方がいいかも? なんて、悪戯めいた声音で付け足してくる。
だが、僕の意識はそれとは違う部分に引っかかりを覚え、思わず足が止まった。
いろんなお店を回って? たくさんの種類を買ってきた?
病弱なせいで僕と一緒の時以外はほとんど屋敷から出られないからと、お小遣いらしきものは全くと言っていいほどもらっていないジェニーが?
お金もないのにどうやってお菓子を買ってきたんだ?
まさか──。
刹那、嫌な予感が胸を駆け抜ける。
しかし僕は、すぐにその考えを打ち消した。
いやでも、そんなはずはない。ジェニーと外出した際の会計は、いつも僕が済ませていた。会計方法はもちろんノスタリス子爵家によるツケ払いだったが、あれはミディアの婚約者である僕がいたからできたことであって、ジェニーには何の関係もない。だから彼女一人で買い物に行ったところで、ツケ払いなんて認められはしないだろう。
しかし、だとしたら、どうやって買ってきたというんだ?
僕は階段を上るのをやめてジェニーを振り返ると、引き攣った笑みを浮かべながら、こう尋ねた。




