待ちぼうけ
初めてザガロにデートをすっぽかされた日のことは、今でもよく覚えている。
あの日、私はいつもと同じように念入りに化粧をし、何度も鏡の前で自分の姿を確認してから待ち合わせ場所へと向かった。
人によってはデートの際も、男性が女性の家に迎えにくることがあるらしいけれど、私達の場合は婚約者というより、巷で話題の恋愛小説のような“恋人気分”を味わいたいと私がザガロにお願いしたこともあって、敢えて待ち合わせという方法をとっていた。
まさかそのせいで、丸一日待ちぼうけさせられる羽目になるなんて、夢にも思わなかったけれど──。
待ち合わせ場所で機嫌良くザガロを待っていた私は、なかなか姿を現さない彼に最初のうちこそ疑問を抱いていたものの、時間が経つにつれ、だんだんと不安になってきていた。
ザガロはどうして待ち合わせにやって来ないの? ここへ来る途中に事故にでも遭ったとか? それとも……。
様々な考えが頭の中に浮かんでは消え、いてもたっても居られなくなる。
こんな所でぼうっとしてないで、一刻も早く彼の無事を確認しないと……。
そう思っても、平民から成り上がって貴族になった私は、由緒ある侯爵家の令息であるザガロと違って護衛なんてものは連れていないし、ここへ来る際に乗ってきた馬車だって、降りてすぐに邸へと帰してしまった。そのため、最初から予定していた時間にならなければ迎えは来ないし、第一、私が下手にここを離れれば、遅れて来たザガロとすれ違ってしまう可能性だってある。
どうしよう……。
ザガロが心配ではあるものの、下手にこの場所から動くわけにもいかず、結局私はどうすることもできないまま、迎えが来る時間まで待ち続け──帰り際に御者に命じて、彼の屋敷へ寄ってもらった。
どうかザガロが無事でいますように……。
と祈りながら。
そうして着いたメラニン侯爵家のお屋敷で──。
不安にざわつく胸を押さえながら先触れなく訪れたことを詫び、ザガロに会いに来たことを告げると、意外にも笑顔で応接室へと通された。
え……どういうこと? ザガロは今日突然デートに来られなくなるような何かがあって、約束をすっぽかしたのではなかったの?
あまりにもいつも通りすぎる使用人達の対応に、訳が分からなくなって思わず首を傾げてしまう。
そうして案内された部屋で紅茶を飲んで待っていると──突然ノックもなく入室してきたザガロが、開口一番こう言った。
「ミディア、こんな時間にいきなりどうしたんだ? 何か緊急の用事でもあったのか?」
と──。




