理解できない
「そうか……。君の言い分はよく分かった」
「わ、分かっていただけましたか? ありがとうございま──」
静かに頷いた父の言葉に、ザガロが感謝の言葉を述べようとした時だった。
「私からメラニン侯爵に文を認めておくことにする。『貴家の嫡男は、血の繋がらない妹の言いなりになるしかできない、なんとも情けない男であるようだから、ぜひ再教育することをお勧めする』とな」
「なっ……!」
動揺した拍子に、紅茶をこぼしでもしたのだろう。
ガチャン! という大きな音が室内から聞こえたと思ったら、慌てた様子のメイドが室内から飛び出してきた。
「あっ……!」
ドアの外にいた私に気づくと咄嗟に頭を下げ、早足で廊下の隅へと消えていく。
顔を出すなら、今が絶好の機会かもしれない。
そう思い、私がメイドと入れ違いで入室すると、ザガロは私を見て何故かホッとしたような表情を浮かべた。
「ミディア! やっと来てくれたんだね……。聞いてくれよ、君の父上が酷いんだ。僕は平民だったジェニーを哀れに思って少しだけ彼女の我が儘を聞いてやっただけなのに、子爵はそれを『妹の言いなり』と言って貶したんだ。僕はジェニーの言いなりになったのではなく、ただ単純に可愛い妹の願いを叶えてやりたかっただけなのに……。君なら僕の気持ちを理解してくれるだろう?」
まるで私が頷くのが当然であるかのように、彼は口の端に笑みさえ浮かべて私の表情を窺ってくる。
けれど、ここ最近の彼の態度に嫌気がさしていた私は、キッパリと首を横に振った。
「悪いけど、私はお父様の意見に賛同するわ。何故なら今日のあなた達の軽率な行いのせいで、あなたの婚約者は私ではなくジェニーさんだという間違った認識が学園中に広まってしまったのだから。クラスのみんなだけは自己紹介のおかげで真実に気づいてくれたけれど、その時の教室内の空気といったら……正直居たたまれなかったわ。私にそんな思いをさせたあなたの気持ちを、どうして私が理解しなければならないの?」
まさか私が反論するとは思わなかったのだろう。
彼は一瞬驚いたような顔をした後、私の機嫌をとるかのように、猫なで声で話しかけてきた。
「い、いや、それは、その……確かに申し訳なかったと思う。だけど分かってくれ。前にも言った通りジェニーはとても身体が弱く、できることが極端に少ないんだ。だから僕は義兄として、少しでも彼女の願いを叶えてやりたくて──」
「それって私になんの関係があるの?」
私がそう言葉を発した瞬間、ザガロの動きが止まった。
身体の弱いジェニーさんを可哀想だと思う気持ちはあるけれど、私からしてみれば、彼女は十分すぎるほどに優遇されている。それこそ、彼女と過ごすためにデートを何度となくすっぽかされた私からしたら、羨ましいほどに。
むしろ健康体であるからこそ冷たくあしらわれるというのなら、私こそ病弱になってみたいものだ。尤も、どうせ私が病弱だったところで、彼は見向きもしないのだろうけれど。
「なんで……なんで、そんな冷たいこと言うんだよ!」
彼は信じられない──といった瞳で私を見つめると、次の瞬間、怒りを抑えきれないといったように、机を力いっぱい叩いた。




