見る目がない
静寂が室内を満たし、どちらの声も聞こえなくなる。
どうやらザガロは父の質問に対し、答えあぐねているようだった。
「あの、それは……だから……」
言い訳でもなんでもないただの言葉が、彼の口から発せられては消えていく。
それを父は急かすことなく、また、何かを言うわけでもなく、ただじっと黙って答えを待っているようだ。
ザガロはきっと、私の証言だけならなんとでも誤魔化せると思っていたはず。けれども父は、他家の令息や令嬢達の証言までをも集めていた。
これはザガロにとって、明らかに予想外だったことだろう。
まさか行動を起こした次の日や、その次の日といった日ではなく、行動を起こした当日に何人かの証言を集めて突きつけるなど、容易にできることではないのだから。
「あ、あの……僕は、えっと……そ、そうだ! 僕はきちんと子爵の言いつけ通りに、ミディアとお揃いのブローチが出来上がるまでは、他のアクセサリーを身に着ける気はなかったんです! だけどジェニーが、どうしても着けて登園したいと言ってきかなくて……」
へぇ……。ジェニーさんのせいにするんだ。
そう認識した途端、すっと心が冷えていくのを感じる。
せめてここは男らしく──たとえ本当にジェニーさんが我が儘を言ったのだとしても──ザガロ自身が言い出したこととして、素直に認めてほしかった。
そうしたら地に落ちかけている彼への評価が、まだ少しばかり維持できたかもしれないのに。
ガッカリしてため息を吐く私の耳に、今度は厳しい父の声が聞こえてくる。
「ならば義妹に一人で着けさせて登園させればよかっただろう。そうすれば君達が婚約者に間違われるなどという馬鹿げた問題は起こらなかったはずだ。なのにそれをせず、君まで一緒になって宝飾品を身に着け、義妹と揃いのものだと強調した理由はなんだ?」
「そ、それはだから……ジェニーが一人で着けて行くのは嫌だと言い張ったもので……」
しどろもどろになりながら、ザガロは懸命に言い訳をし続ける。
結局どこまでいってもジェニーさんのせいにしたいのね。
この場に本人がいないせいで何を言ってもバレないから、彼女自身が父にどう思われようと、どうでもいいと考えているのだろうか。彼女だってメラニン侯爵家の一員である以上、無関係ではないというのに。
最初はいい人だと思っていたザガロの人物像が、ジェニーさんが現れてからというもの、急速に崩れ始めたような気がしてならない。
それとも、実はこっちが彼の本性だったのだろうか。だとしたら、結婚前に知れたことを幸運に思うべきなのかもしれない。
いくら政略結婚とはいえ、私だって幸せになれるものなら幸せになりたいし、今ならまだ年齢的に婚約者を入れ替えることも可能ではあるのだから。とはいえ、私の一存ではどうにもならないため、なんとか父を説き伏せなければならないけれど。
ザガロと婚約してからの四年間、私はずっと彼を見て、多くの時間を一緒に過ごしてきた。それなのに、彼がひた隠しにしてきた本性に全く気づいていなかったなんて、とんだお笑い草だ。
そんな私が将来は父や兄のように、人を見極めて円滑にお金と家政をまわす侯爵夫人になりたい──なんて、どれだけ烏滸がましいことを口にしていたのだろう。




