やって来たザガロ
どこかで誰かの怒鳴り声が聞こえる。
それは最初のうち気にもならないような小さなものだったけれど、時間が経つと共に声はどんどん大きくなって、近づいてくるようだった。
うるさいな……せっかく人がいい気持ちで寝ているところなのに……。
まだ起きたくない。もう少しだけ眠らせてほしい。
「静かに……して……」
誰だか分からない声の主に私は呟くように言い、もう一度寝直そうと手で耳を塞ぐ。けれど次の瞬間、叫び声は更に大きくなって、私の耳をつんざいた。
「──ア、ミディア! いるんだろう!? 出てこいよ!」
聞き覚えのある声に、私は飛び起きて目をこする。
なんで? どうしてザガロがうちの邸に?
学園では散々私を無視しておいて、帰ったらすぐにやって来るとか、何を考えているのだろう。
明日になればどうせまた学園で会えるのに、今日でなければならない何か重要な用事でもあるのだろうか。
「ミディア! 早く出てこい! ミディア!」
考えている間もうるさく騒ぎ立てているザガロの声が寝起きの頭に響いて、思わず頭を抱えてしまう。
けれど私が姿を見せない限り彼は騒ぎ続けるだろうと思い、仕方なくベッドから降りて服を着替え始めると、軽いノックの音がした後、外側からメイドに声を掛けられた。
「お嬢様、お支度が整いましたら応接室にお越しになるように……と旦那様からのお言い付けでございます。ですが来客の方とのお話自体は旦那様がなさるため、お支度はゆっくりで構わないそうです」
「そうなのね……分かったわ」
ドアの外へ返事をすると、化粧台の前に座り、私はゆっくりと髪をとき始める。
もしかしたら、学園から帰った時に父が「来客があるかもしれない」と言っていたのは、ザガロのことだったのだろうか。
入学式の際のザガロの行動を父が予測していたことからも、最初から彼を呼び出す手筈になっていたとしたら、あのように言っていたのも頷ける。
となると当然──話題として上るのは、ジェニーさんとお揃いの宝飾品の件だろう。
ザガロは堂々と父との約束を破ったわけだし、父が「大金を取り戻すことができる」と言っていたことから考えると、約束を破った罰として、ザガロに宝飾品の支払いをさせるつもりなのかもしれない。
けれど、冷静に考えれば彼はもちろん、メラニン侯爵だっていくら我が家からの支援によって少しばかり財政が回復してきているとはいっても、黒字への道はまだまだ遠いはず。どんなに頑張ったところで、高価な宝飾品の支払いなど、とても出来ないだろう。
ならば父は、どうやってお金を回収するつもりなのか──。
ふと父の考えに興味が湧いて、私は手早く支度を済ませると部屋を出た。
そのまま早足で応接室へと向かい、足音を忍ばせてドアに近づくと、そっと耳を澄ます。
室内では、今まさにザガロと父が話し合いをしている最中のようだった。
「──だと言っているじゃないですか!」
「一体何が誤解だと言うんだ? 申し訳ないがこちらは娘だけでなく、他家の子息・令嬢達からも証言をとっている。その上で話をしているんだ。それでも誤解と言い張るならば、私が納得できるだけの理由を聞かせてもらえるのだろうね?」




