凛々しい令嬢
入学式後、クラス内で自己紹介をした際に、当然ながら私の家名は明らかになった。
同様に、私と同じクラスであるジェニーさんの家名も──。
その時の教室内のざわめきは相当なもので、担任の先生までもが思わず言葉を失っていたほどだ。
それはそうだろう。入学式前にザガロとジェニーさんの姿を見た人達はもちろんのこと、二人の姿を見ていない人達にまで、“天使と見紛う美少女と平凡男子(家柄のみ侯爵家)”の噂は、既に学園中へと広まっていたのだから。
けれど実際の婚約者は別の令嬢で、美少女はメラニン侯爵家の家名を名乗った。
ということは、つまり二人──ザガロとジェニーさん──は双子なのか?
それにしては、あまりにも似てなさすぎる。
では一体、どういうことなのか?
答えを求めたやり取りが教室内で繰り広げられ、幾つもの興味深げな視線が無遠慮に私へと突き刺さった。
メラニン侯爵家の二人が今朝一緒に登校してきたことは、学園中の誰もが把握している。だからこそ、周囲は二人を婚約者同士だと思い込んだ。
なのに今更、婚約者は別の女性だと?
一緒の馬車に乗ってきたわけでもなく、お揃いのアクセサリーを身に着けているわけでもない、繋がりなど何も感じられなかった二人が実は婚約者で、仲睦まじく寄り添っていた女性がただの義妹だって?
「まぁでも、気持ちは分からなくもないが……」
思わず──といったように呟いた令息は、周囲の令嬢達から射るような視線で睨まれた。
やはり男性目線からしたら、可愛くない私よりも可愛いジェニーさんと一緒にいたいと思うのは当然らしい。
けれどそこで、一人の令嬢がスッと立ち上がった。
「どんな事情があろうとも、ご自分の婚約者より義妹を優先するなんて、貴族としてあり得ないことですわ」
凛とした令嬢の物言いに、他の令嬢達が「そうよ、そうよ」と相槌を打つ。
あの凛々しい令嬢は、どこの家の方かしら?
少なくともこのクラスの令嬢達は、“婚約者に蔑ろにされている”という理由だけで、他人を責めるような人達ではないらしく、ほっとした。
社交界というのは互いの弱みの見つけあいによって成り立っているため、婚約者であるザガロに蔑ろにされている時点で、私は学園でいじめに遭う可能性が大いにあった。だからこそ、できる限りジェニーさんとは差をつけられたくなくて、これまで一度も買ったことのない金額のブローチを注文したり、私とお揃いのブローチが完成するまでジェニーさんとお揃いの宝飾品は身に着けないよう、ザガロに口を酸っぱくして注意していた。
それなのに結果は──これだ。
幸いにもクラス内には虐めをするような人はいなかったけれど、これが学園全体となると──どうなるか分からない。
つい先ほど心の声を漏らしてしまった令息のように、おそらくザガロに理解を示す人達も一定数いるだろうから。
「……貴女もよ。義兄の婚約者を差し置いて二人で登園したばかりか、義兄とお揃いの宝飾品を身に着けるなど……恥を知りなさい」
令嬢の視線が、今度はジェニーさんへと向けられる。
けれど彼女は、不思議そうに首を傾げただけだった。




