破られた約束
「あっ……! あいつら、お揃いのアクセサリーを身に着けてるぞ!」
「えっ!?」
「嘘?」
その声によって、今まで二人を見ていなかった人達の視線までもがザガロとジェニーさんへ釘付けとなり、周囲は一気に騒がしくなった。
「まさか入学初日に、あんなにも堂々とお揃いのものを着けてくるなんてな」
「よっぽど他の殿方に奪われたくないのでしょうね」
「しかもあのイヤリングとイヤーカフ、もの凄く高そうじゃないか?」
「メラニン侯爵家のご嫡男の婚約者といえば、ノスタリス子爵家のご令嬢でしょう? あのぐらい端金なのではなくって?」
思い思いに、好き勝手に噂される内容に、私は歯を食いしばって下を向く。
いくらメラニン侯爵が再婚して、後妻と連れ子を迎えたことは世間に知られているといっても、子供の年齢や容姿までは伝わっていない。つまり、ザガロとジェニーさんが兄妹だと知る人は、この場に私以外いないということなのだ。
それなのに、学園入学初日という特別な日に、まるで周囲に見せびらかすようにしてお揃いのアクセサリーを身に着けてくるなんて、私に対する悪意でしかない。
先日、彼と二人で慌ててオーダーしに行った私達のブローチは、まだ完成の連絡さえきていないのに。あれが完成するまで、ジェニーさんとお揃いの物も、身に着けない約束ではなかったの?
裏切られた──という気持ちと、今すぐ彼を問い詰めたい気持ちに駆られる。
けれど今ザガロの前に出ていけば、私は間違いなく好奇の目に曝されるだろう。
そして周りから言われるに違いない。
『あっちの可愛くない方が婚約者だったのか?』と──。
そんなのは嫌だ。そんな屈辱には耐えられない。
けれど彼は約束を破った。それについて放置するわけにはいかないし、償いはしてもらう必要がある。
どうすればいいの? どうすれば──。
考えても答えは出ない。最近はこんなことばかりあるような気がする。
こんなことなら、もういっそのこと婚約を破棄したい。そうして彼を忘れてしまいたい。
だけど私はまだ、ザガロのことが好きなのだ。だから離れたくない。婚約破棄などしたくない。
けれど、こんな風にジェニーさんと仲睦まじくしている光景を見せられるのもまた、地獄でしかなくて。
『愛や恋など、金の前では何の力も持たないことを分からせてやれ』
突如として、父の言った言葉が脳裏に蘇った。
言っていることは理解できるものの、未熟な私にはどうしたらいいのかが分からない。
「お金で愛が、買えたらいいのに……」
思わず口から、そんな言葉が漏れた。
その呟きは独り言のようなもので、だからこそ、とても小さな声だったはずなのに。
それを聞いていた人がいたなんて、私は夢にも思っていなかったのだ──。




