入学初日
貴族学園入学初日──。
私の予想通り、どこからどう見ても可愛らしいお人形さんのようにしか見えないジェニーさんは、メラニン侯爵家の馬車から降りるなり、男子生徒達の視線を独り占めしていた。
「誰だ? あの可愛い娘……」
「あんな可愛い娘、見たことない……」
よだれを垂らしそうな情けない顔で彼女を見つめる令息達に、周囲の令嬢達はため息をこぼす。
特に、婚約を結んでいるだろうと思われる令息達は、隣にいる令嬢に小言を言われたり、無理やり顔を背けさせられたりしているようだ。
やっぱりジェニーさんの可愛さは、規格外なのね……。
学園に入学してくる令嬢達が、自分以外みんな彼女のように可愛かったら、どうしようかと思っていた。けれどそんなことはなかったようで、思わず安堵の息を吐く。
良かった……。
これなら学園で、普通にやっていけるかもしれない。
もし周囲がジェニーさんのように可愛い人達ばかりであったら、令息達に差別されて辛い目に遭うかも──なんて、いらない心配までしてしまっていたから。
心を落ち着けるように数秒目を閉じ、今度はザガロへと視線を向ける。
世間的には兄妹であるため、ジェニーさんの隣にいる彼は、実に誇らしげに堂々と胸を張って歩いていた。
まるで彼女の婚約者であるかのように鞄を二人分持ち、エスコートするように曲げた腕には、彼女の可愛らしい手をちょこんと乗せている。
ただ──そんな彼の様子とは裏腹に、周囲の目は些か──どころか、かなり──がっかりしたものだった。
「隣にいる奴は誰だ?」
「確かメラニン侯爵家の嫡男じゃなかったか?」
「ああ……。でもなんで? 家柄以外は平凡なのに……」
令息達の囁きに、心の中で大きく頷く。
正直なところ、私はザガロの見た目に惹かれたことは一度もなかった。初めて彼と顔合わせした時、そのあまりにも平均的な見た目から、浮気の心配はなさそう──とまで思ってしまったぐらいだ。
それでも侯爵家の嫡男という家柄を狙う女性はいるだろうから、浮気の心配は全くないわけではないけれど、メラニン侯爵家が経営難であることと、その婚約者が国内有数の富豪であるノスタリス子爵家の令嬢であるということを鑑みれば、よほどの物好き──もしくは、よほどの金持ち──でない限り、彼を狙おうなどと思わないだろう。
ということは、これはもしかして……。
先日の宝飾店での出来事を思い出し、嫌な予感に襲われる。
すると──羨ましそうに二人を見ていた一人の令息が、不意に大声を上げた。




