馬鹿な私
普段あまり感情を表に出さない父が怒鳴った──。
その事実に驚き、私が反射的に口を噤むと、父は一度気持ちを落ち着けるかのように居住まいを正し、ゆっくりと息を吐いた後、改めて口を開いた。
「ザガロ君には今後二度と勝手な買い物をしないよう、私からよく言い聞かせておいた。もしこれを破るようなら、メラニン侯爵家への支援は即刻取りやめるとの忠告もつけてな。だが本来なら婚約者であるお前が彼を説得し、分からせなければならなかった。……いいか? あちらは侯爵家であり我が家は子爵家。爵位としてはあちらが上だが、金銭的に支援しているのはこちらの方だ。よって互いの立場は対等となる。男女という違いはあれど、お前はザガロ君に媚びへつらう必要はない。それを肝に命じておくように」
「は、はい。申し訳ありません……」
厳しい言葉に頭を下げる私に対し、なおも言葉が降ってくる。
普段の父は無口だけれど──今日はよほど腹に据えかねてでもいるのだろうか。ここで口を挟むと更に長くなりそうな予感がしたため、私は黙って頭を下げたまま、父の言葉に耳を傾けた。
「それと、宝飾品の数などというくだらんものにこだわるな。そんなもの、金にものを言わせて石も細工も最高級のものを選び、先に馬鹿二人が作った宝飾品を凌駕してやればいい。ザガロ君が小娘と揃いで作ったものより好んで着けたくなるような品を……だ。愛や恋など金の前では何の力も持たないことを、馬鹿者どもに分からせてやれ」
「分かりました」
何やら『小娘』だとか『馬鹿二人』だとか、とても父の口から出たとは思えないような言葉が聞こえたような気がするけれど、きっと気のせいよね?
父はザガロのことを気に入っているはずだし、ジェニーさんに対しても『優しくしてやれ』と言っていたぐらいなんだから。
何だか父の言葉に腑に落ちないものを感じながらも、私は謝罪をし、頭を下げてから執務室を後にする。
扉を閉めようとした刹那、「くれぐれも舐められるなよ」と地を這うような声色で言われ、心臓が縮み上がった。
さすが一代で巨大な富を成し、平民から子爵位まで上り詰めた父だ。私なんかとは根本的に考え方が違う。
けれどきちんと話をしたことで、ザガロを調子づかせてしまったのは私自身だということがよく分かった。
彼に嫌われたくない一心で、私は今まで無条件にデートに関わる全ての費用を出し、彼が欲しがるものを買っていたけれど、それが良くなかったのだ。しかもそれどころか、ジェニーさんに渡すお土産の品まで言われるがまま望み通りのものを購入し、侯爵家へ届けてさえもいた。
そこまでしたところでザガロの心は一向に私へ向けられることはなく、ただ単純にあの二人を喜ばせるだけだったのに──。




