前払い金制度
「……お父様のお考えはよく分かりました。ですが、その条件では私は納得できません」
俯き、両手を強く握り合わせながら、私は勇気を振り絞って言葉を発する。
父の言うことは、間違っていない。それは承知だ。
オーダーメイドで作製された宝飾品は、石との相性の関係上、注文者に買い取ってもらえなければ、その価値は既製品よりも下がってしまう。だからこそ、本来はある程度の金額を前払いしておいて、品物を受け取る際に残りの金額を支払うというのが正規の取引方法だ。
なぜそんな方法をとるのかというと、前払い金をいくらかでも貰っておけば、品物が出来上がった際にキャンセルされた場合でも、店の損失を減らすことができるから。
貴族の中には自分勝手で横暴な人達がたくさんいて、そういう人達は大抵、領民や平民達のことなんて同じ人間とすら考えていない。だから丹精込めて作製された品物を「気に入らない」の一言で平気で購入拒否したりするし、そんなことをされた店側の気持ちや事情なんて気にも留めない。
けれどそんなことばかりされていては、店側は利益が取れないし、最悪経営が破綻してしまう。
故に、そうならないように制定されたのが、今の“前払い金制度”ということらしい。
基本的に前払い金を支払わないお客からの注文は拒否する権利が店側にはあるのだから、ザガロに前払い金を払うつもりがなかった時点で、注文を受けなければ今回の事態は避けられた。
だというのに店側は、おそらくザガロに「支払いは婚約者の家であるノスタリス子爵家がする」と言われ、安心してその注文を受けてしまったのだろう。
いくら富豪として知られる我が家の家名を出されたとはいえ、その家の人間が一緒に来ていない時点で怪しんだりすれば、まだ良かったのに。それとももしかしたら、一緒に連れてきていたジェニーさんのことを、私だと勘違いしたのだろうか。
どちらにしろ、そのあたりのことは、きちんと確認を取らなかった店側の落ち度だと思う。
結果──私に支払いを拒否され、あの宝飾品の価値は半値以下に下がってしまった。
そのあまりの金額の高さに、私でさえ思わず叫んでしまったほどだ。支払いが為されないことを知り、店員達はさぞ肩を落としたことだろう。
そういった事情を考えれば──父の話の前半部分については、我慢するしかないかもしれない。
私だって宝飾店で働く人達を路頭に迷わせたいわけではないし、あの宝飾品はとても素晴らしかった──ジェニーさんのために作られたというのが悔しいけれど──から、その価値が半値以下になってしまうのは、もったいないと思ったから。
だから、正規の金額で購入することに異論はなかった。それについて異論はないけれど、話の後半部分については──どうしても納得することができなかった。
「ザガロとジェニーさんはブレスレットやイヤリングなど、身に着けて目立つものをお揃いで購入しています。ですが私に残されているのはブローチだけ……。これではいくら高価なものにしたところで目立ちませんし、何より数の点で劣っていては、その分蔑ろにされていると──」
「そういうことではない!」
怒鳴り声とともに、父が──ダン! と拳を執務机に叩きつけた。




