父の条件
「今日お前が拒否した宝飾品の支払いだが、我が家にツケてもらうように、ザガロ君には先ほど話をしておいた」
「えっ……」
どうして、そんな──。
思ってもいなかった父の言葉に、一瞬、頭の中が真っ白になる。
だったらあの時、私がとった行動は何の意味もなさなかったということ?
やはりザガロは父に上手いことを言って、お金を出させることに同意させていたのだ。
いくら私が拒否しようとも、父がうなずいてしまえばお金は我が子爵家から払い出される。あの時父がザガロに渡していた紙には、おそらくその旨が記されていたのだろう。そう考えれば、帰り際に彼が私を見て、口角を上げていたことにも納得がいった。
でも、だからといって、素直に受け入れられるわけがない。
父がどうしてそんなことをしたのか、何と言ってザガロに言いくるめられたのか、それを確かめなければ。
「けれどお父様、今しがたお話しさせていただいたように、ザガロはその宝飾品を学園でジェニーさんと共に身に着ける気なのですよ? そんなことをされてしまっては、私は最悪“婚約者に愛されない女”として学園で醜聞を被ることもあり得ます。なのにどうしてザガロに購入を許されたのですか? まさかお父様は、私にあえて醜聞を被れなどとおっしゃいませんわよね?」
いくら父が私とザガロを結婚させたいのだと言っても、実の娘が醜聞まみれになるのは避けたいはずだ。
大したことのない、すぐに火消しできる程度の醜聞であれば、一時的に話題作りとして注目を集めることも可能であり、時にはそういった手段も採りつつ、我が家は事業を大きくしてきた。けれど安物であるならともかく、今回ザガロが購入した宝飾品は、お金に余裕のある貴族家でなければ購入を躊躇うほどに高価なものだ。それを義妹とお揃いで着けて学園に通うなんてことをしたら、間違いなく火消しなんてできないほどに大きな炎が学園を燃やし尽くしてしまうだろう。
そして──その火種の中心になるのが私、というわけだ。
正直そんな状態の学園に三年間も通い続ける勇気など、私にはない。
もしそんなことになるのであれば、学園に通わなくてもいいぐらいだ。
──無論、将来ザガロと結婚して侯爵夫人になることが決まっている私は、貴族学園に行くのをやめるのなら、それに準ずる経験、知識をどこか他の場所で修めなければならないけれど。
貴族学園入学まで、あと一ヶ月を切っているというのに、今更他の学園を探すのは現実的ではない。
ならば、どうするべきなのか──考えようとしたところで、父の声が耳に入った。
「まあ落ち着きなさい。いくら私がザガロ君に目をかけていると言っても、そこまでの行いを許すほど寛容ではないよ。今回彼が注文した宝飾品の代金を支払うことに決めたのは……せっかくオーダーメイドで作った品が、支払いが滞ったことによりゴミほどの価値になってしまうもったいなさと、そうならないよう我が家が支払いを済ませ、その店のオーナーに恩を売ろうと考えたからだ」
「ですが……!」
口を挟もうとした私を、父が片手で制する。
今はとにかく黙って話を聞け、ということらしい。
「もちろんお前のことについても考えてある。ザガロ君には、彼が勝手に作った宝飾品の代金を支払う代わりに、それよりも高い物をお前と二人で選び、購入するように言っておいた。そして、それが出来上がるまでは義妹と揃いのアクセサリーを身に着けることも禁じ、学園に通う際には必ずお前と揃いで作ったものも同様に身に着けるように……と」
「つまりザガロは、私とジェニーさん、二人とお揃いのものを両方身に着けて学園に通うということですか?」
それって──かなり派手な装いになりそうだけど、学生がそんなに高いものを何個も身に着けて学園に通っても大丈夫なのかしら?
それに、宝飾品の種類だって限られているし──彼がジェニーさんとお揃いで購入した以外のものっていうと……もうブローチぐらいしか残っていないような気がする。
ザガロとジェニーさんは目立つ三点セット──流石に全てを学園に着けて来るとは思わないけれど──を身に着けるのに、私はブローチ一つだけということなの?




