支払い拒否
「この金額は、いくらなんでも支払えないわ。特に、私自身が身に着けるものでないなら、絶対に」
『私自身が』の部分を強調して言うと、ザガロの表情が明らかに歪んだ。
その表情──やっぱりその宝飾品は、ジェニーさんにあげるつもりだったのね。
店員達がザガロに“婚約者”と紹介された時、私を見て驚いた顔をしていたのも、これらを作る際、彼がお店にジェニーさんを連れてきていたからというのなら、納得がいく。
我が家によく来る宝飾店の商会の方が、アクセサリーというのは本人と石との相性がとても大事で、既製品ならともかく、オーダー品については必ず身に着ける本人が石を選ぶ必要があるのだと言っていた。本人が直接石を選んだかどうかで石本来の光沢や、アクセサリーの“出来”も違ってくるらしく、何らかの理由で本人が自分で石を選べない場合、どういった事情であってもオーダーメイドはお断りしているとか。
全ての宝飾品店が同じ考えで同じことをしているとは思わないけれど、これだけ立派なお店であれば、おそらく似たような考えを持っているはず。でなければ、彼らが私を見て驚いた理由に説明がつかない。
こんなにも高価で、細工にも凝った宝飾品──しかも、男女ペアとなる品──を贈る相手は、普通だったら婚約者一択しかないのに、ザガロが“婚約者”として連れてきた私は、宝飾品を贈る相手とは違っていた。
そんな状況、店側からしてみれば、「意味が分からない」ということになるだろう。
まさか、婚約者でもなんでもない女性に贈る高価な宝飾品の支払いをさせるためだけに、婚約者を店に連れてくるなんて、通常の思考であれば、まずあり得ないことなのだから。
私は忌々しげにこちらを見ているザガロから視線を外すと、宝飾品の載っていたトレイを持ったまま、戸惑ったように私達の顔を交互に見ている店員へと声をかけた。
「一点お聞きしますけれど、もしかしてこの宝石を選んだのは、ピンク色の髪をしたご令嬢だったのではありませんか?」
「ミディア? 一体何を──」
私のした質問に、ザガロが眉を顰めるも、
「は、はい、そうです! 美しいピンクの髪の、とても可愛らしいご令嬢様でした」
ホッとしたように、表情を緩めて答える店員。
やっぱりね……。
宝飾品に使われている石を見た瞬間、まさかとは思ったけれど、これで確証を得られた。
思った通り、ザガロは私とではなく、義妹であるジェニーさんとお揃いのアクセサリーを着けて学園に通う気だったんだわ。
「……で、あの……お支払いはどなたが……」
「だからそれは、そこにいるミディアが──」
「私は断ると言ったはずよ。一言の相談もなく、それほどの大金はさすがに用意できないわ」
たとえ事前に相談されていたとしても、ザガロとジェニーさんとの物であった時点で断っていたけれどね──とは、心の中で言い置いて。
私は呆然と言葉をなくすザガロの横を素早くすり抜けると、そのまま後ろを振り返ることなく退店した。
絶対にあの宝飾品の支払いだけはしたくなかったから。
さあザガロ、あなたはそれをどうするつもりなのかしら──?




