衝撃
「それでさ……あの、ちょっと言いにくいんだけど……」
私の言葉に顔を輝かせたザガロが一転、こちらを窺うような表情になる。その顔を見て、私は彼が次に何を言わんとしているのかを、瞬時に理解してしまった。
ああ……またなのね。
内心でため息を吐きながら、彼の言葉を聞くまでもないと私は先に口を開く。
「分かってるわよ。ジェニーさんへの〝お土産”を買いたいんでしょう?」
手紙や言伝ではなく、ザガロ自身が待ち合わせ場所に現れた際は、毎回必ず買わされる義妹への〝お土産”。
しかも、彼自身が来られない時であっても、毎回何かしら“お土産”なるものを買わされ、手紙なり言伝なりを届けにきた従者へ渡すことになっているのだ。
その際のプレゼント内容は基本的に私へと一任されてはいるものの、断りの手段が手紙の場合だと、たまに『どこそこの店のマフィンだと喜ばしい』だの、『友人が、⚪︎⚪︎の茶葉が美味しいと言っていた』だの、恥ずかしげもなく要求を突き付けてくる時がある。
最初の頃こそ約束をすっぽかされたことに腹が立ち、お詫びの品が欲しいのは自分の方だと思って無視していたけれど、そうしたらザガロがなんの前触れもなくうちの邸までやって来て、「僕は家族のことが心配で泣く泣く君とのデートを諦めたのに、君はそんな僕の心に寄り添おうともせず、自分勝手な気持ちだけでジェニーのことを蔑ろにするのか!」と怒鳴りつけてきたのだ。
そういう時に限って両親はたまたま留守にしており、使用人の目を気にしてか、玄関の外まで彼に連れ出されていた私は、怒鳴られた衝撃で頭の中が真っ白になってしまった。
優しい両親に育てられ、それまで人に怒鳴られたことなどなかった私である。そのせいでザガロの怒鳴り声に完全に萎縮してしまい、平身低頭、謝ることになってしまったのだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
そして、それを見た彼は私の殊勝な態度に満足したのか、優しく私の肩に手を乗せ、顔を上げさせると微笑みを浮かべてこう言った。
「僕はねミディア、僕の婚約者である君に、義妹のジェニーにも優しくしてもらいたいだけなんだ。ジェニーは僕の可愛い義妹だ。けれど身体が弱いせいで自由に外出もできない……可哀想だと思わないか?」
「ええ……そうね。そう思うわ……」
言われてみれば確かに──。
身体のせいで外へ出ることもできず、日がな一日家の中で過ごさなければならないなんて、どんなに退屈だろうか──。
その時そんな風に考えてしまった私は、思考能力が死んでいたんだろう。なぜならそのせいで、ザガロのふざけたお願いを聞いてあげる羽目になってしまったのだから。
彼は、ジェニーさんに同情した私の気持ちを読み取ったかのように、そこで一つのお願いを口にした。
「だからさ、君に僕から一つお願いがあるんだ。可哀想なジェニーのために、僕らがデートする日は毎回、彼女にお土産を買って帰ってやりたい。で……そうだな、ジェニーが体調を崩したとかでデートできなかった日は、君からの“お見舞い”として、ジェニーにプレゼントを渡してやって欲しい。……いいね?」
そう言って私を見つめるザガロの瞳は鋭くて。
私はただ、無言で頷くことしかできなかった──。




