暗黙のルール
「……え?」
なぜなら、その宝飾品のメインとして使われている宝石は、“ピンクサファイア”だったからだ。
私の髪は青く、瞳は金色。
つまり、私の“色”を模した宝飾品を作るなら、“ラピスラズリ”や“シトリン”が使われていなければいけないはずなのに。
「……これは、この宝石はどうして──」
「いやあ、これはいい出来だな! さすが“王都一”と謳われる店だ。ここを選んだ僕の勘に狂いはなかった!」
私の声に被せるように声を発したザガロによって、呟くように発した私の言葉はかき消されてしまう。
あの宝石は何? あれは……あれはまさか……。
ふと、ピンク色の髪をした令嬢の姿が頭に浮かび、私はそれを振り払うようにして頭を横に振った。けれど──。
どうしても、考えてしまう。
あの宝石の色、可愛らしいデザイン、貴族学園入学前という、このタイミング。
これは、この宝飾品はまさか、私のためではなく……。
そう思った瞬間、ズキン──と胸が痛みを訴える。
「……っ」
思わず胸に手を当てて唇を噛んだが、誰一人として、そんな私の様子に気を配ってくれる人はいなかった。
ザガロは満足げに宝飾品を見つめ、店員は緊張した面持ちで彼の言葉を待っている。
──私など、まるでその場にいないかのように。
やがて──宝飾品を入念にチェックし終えたザガロが、トレイを机の上に置いた。
「……うん、文句ない出来だね。これ、二つとも一緒に包んでもらえるかな?」
「かしこまりました」
恭しく礼をしながらも、高価な品が一気に六点も売れたことに喜びを隠しきれないといった表情で、店員がトレイを持って奥の部屋へと消えていく。
ああ……やっぱり。
ザガロの言葉に、私は自分の予想が間違っていなかったことを知った。
思った通り、あれはジェニーさんへのプレゼントだったのだ。
彼は婚約者である私より、義妹であるジェニーさんとお揃いのアクセサリーを着けて学園に通うことを選んだ。
仲の良い兄妹であり、どちらにも婚約者がいない場合に限り、そういった例も過去にあったと兄に聞いたことがあるけれど。まさか自分の婚約者が──既に婚約者がいるという前代未聞の状況であるにも拘わらず、堂々と義妹とお揃いの宝飾品を身に着けて、学園に通うつもりだったなんて思わなかった。
そんなことをしたら──されたら、私の立場はどうなるの?
私との婚約は隠した状態で学園に通おうとでも言うつもり?
お揃いの宝飾品を身に着けて学園に通うことについては、婚約者や家族でなければならないなんて規則はない。だから婚約者である私を無視してジェニーさんと着けていても、問題にはされないだろう。
けれど、それでも、暗黙のルールというものは存在している。
ザガロはそれを破ってまで、私よりジェニーさんとお揃いのものを着けたいということなの……?




