舞い降りた天使
ミディアと一緒なら、自分のお金を全く使うことなく街歩きを楽しむ事ができる──そうなれば、半日家でお茶を飲むより、街へ出て遊びたくなるのは当然だった。
正直なことを言うと、最近の茶会では今まで必死に話を引き伸ばし続けたせいで喋るような話題がほぼ無くなっていたし、流石に半年も毎週通い詰めていると、以前と同じ銘柄の茶や菓子が供されることも多くなったから、もう新しいものは打ち止めなのかと若干つまらなく思っていたのだ。
無論それらは何度食べても美味しかったし、我が家の財力では絶対に手に入れられないような代物だということも理解していたから、文句を言うことはなかったが。それでもどうせ無料で食べられるのなら、一度でも食べたことのあるものより、街中にある色々なものを食べてみたいと思うに決まっている。それに、今までは金がなくて買えなかっただけで、欲しい物も山のようにあったから、そういった物すべてが他人──ミディア──の金で手に入るというのなら、存分に利用させてもらうつもりだった。
その代わりと言ってはなんだが、ミディアには最大限に気を遣って機嫌を取り、いい気分にさせてやればいいだろう。
そんな打算的な考えのもと、如何にも高位貴族といった紳士的な振る舞いで接してやれば、彼女はこちらが思っていたよりも簡単に大金を落としてくれた。
おかげで僕は欲しい物を難なく手に入れ、人気があり過ぎてチケットの取れないオペラや、数ヶ月待ちのレストランといった場所にも「行ってみたいな……」と一言遠慮がちに漏らすだけで、次の彼女との交流日にはすぐに行く事ができるという、婚約前と比べれば信じられないような恵まれた日々を送る事ができていた。
まさに人生勝ち組──。
その話をどうしても誰かに聞いてもらいたくて、久しぶりに我が家へと遊びに来た一つ年上の従兄弟に話せば、「お前……そんな人を騙すようなことをしていると、そのうちバチが当たるぞ」と苦々しい顔で言われた。
ふん! どうせ僕が羨ましくてたまらないから、負け惜しみを言っているだけだろう。
少しだけ嫌な気分になったが、所詮彼は力のない伯爵家の跡取りだ。しかも、既に学園に入学しているというのに、いまだ婚約者もいないとか。
僕は優しいから、こんな嫌味を言うような従兄弟でも、学園に入学した暁にはミディアの伝手で婚約者を見繕ってやろうかな。
そうしたら泣いて喜んで、これまでの失礼な態度を謝ってくるかもしれない。もちろん土下座でなければ許さないけど。
従兄弟が泣きながら土下座して謝ってくる姿を想像し、ニヤついていたら、知らぬ間に従兄弟は帰っていたらしい。
未来の恩人に対して、なんて失礼な奴なんだ。
そんな風に腹を立てていたのだが──数日後、僕の前に突如として天使が舞い降りた。
「き、今日からあなたの義妹となるジェニーです。よ、よろしくお願いいた、いたします……お、お義兄さま……」
父上からの説明によると、新しく僕の母となる人の連れ子だということだった。
まるでこの世の者とは思えないほど、美しくも儚い少女。
彼女が僕の義妹になるって? 僕は天使を義妹にすることができるのか? 僕の人生、最高すぎだろ。




