とんでもない幸運
それから僕は、ノスタリス子爵家で行われる茶会を楽しみにするようになった。
なにしろ行けば行った回数の分だけ、様々な種類のお茶やお菓子にありつける。
時には、話が弾みすぎて茶会が終わる時間になっても互いに気付かず、延々と話し続けてディナータイムになってしまい、子爵家の夕食に呼ばれることもあった。
その内容がまた素晴らしく、見るからに瑞々しい新鮮な野菜サラダに、芳醇な香りのバターソースがかけられた白身魚のムニエル。口直しのソルベは旬真っ盛りのフルーツが使われ、そこまででも十分僕の舌を満足させるのには十分だったのに、最後に極めつけのように出された分厚い肉は、我が家では到底口にすることも叶わないような代物で。
驚くほど分厚いのにナイフを通せば簡単に切ることができ、口の中に入れた瞬間、口福に蕩けそうになった。
あまりにも幸せだったため、それからはわざとらしく思われない程度に茶会の時間を無理やり引き延ばし、その延長として何度かディナーに呼ばれるように仕向けたぐらいだ。
本当は茶会のたびに呼ばれたかったのだが、それではあまりに図々しいし、侯爵家の僕が子爵家の料理を楽しみにするなど、バレたら外聞が悪い。しかし、茶会の回数を重ねるにつれ、月にたった一度や二度のお呼ばれで満足できなくなった僕は、ある時思い切って茶会を街歩きへと切り替えることにした。
茶会であれば、家にずっといるためディナーまで話を引き伸ばさねばならないが、外出となれば、時間調整は容易い。
我がメラニン侯爵家の貧乏臭いディナーより、一回でも多くノスタリス子爵家の豪華なディナーを食べる機会に恵まれるため、僕はミディアと外出するという選択肢を採ったのだ。
そしてその選択は──間違っていなかった。それどころか、とんでもない幸運を生み出したのだ。
街歩きの際、食事やオペラの入場料といった最低限かかる必要経費を、全てミディアが僕の代わりに支払うと言ってくれた。
それに対し、心の中で「ラッキー」と思いながらも、僕は男だし、爵位も上であるのだからと最初は「女性である君に出してもらうことなんて出来ないよ。僕だって少しぐらいお小遣いはもらってるから遠慮しないで」と心にもないことを言った。
だけどミディアは「私達が婚約させられた理由、知ってるでしょ? 私の役目は婚約者のあなたを支えることだもの。デートのお金を出すのだって、その一環。だからあなたこそ気にしないでいいのよ」と言って譲らなかった。
そこですぐに引っ込んだら、上辺だけ取り繕っていたのがバレるかもしれないと思い、もう少しだけ押し問答をして。
彼女が先に折れたらどうしよう──なんて内心ハラハラしながら、最適と思われるタイミングで「それじゃあ……悪いけど、甘えさせてもらってもいいかな?」と言うと、彼女はにっこり笑って大きく頷いてくれた。
よし! これで今後の街歩きの際、自分のお金は一銭も使わずに楽しむことができるぞ!
自分の望み通りに事が運んで、ここが街中でなければ、天高く両手を突き上げてしまいそうなほどに嬉しかった。




