お金持ちの婚約者
僕の婚約者は、お金持ちだ。
だが、単にお金があるだけで爵位は子爵。
お金の力で爵位を買い、平民から子爵へと成り上がった、いわゆる“成り上がり貴族”というやつだ。
そんな“成り上がり貴族”であるノスタリス子爵家の長女ミディアと、メラニン侯爵家の長男であり、嫡男でもある僕は、お互いが十歳であるという節目──我が国では、十歳から婚約を結ぶ貴族が多い──となる年に婚約した。
婚約理由は、当人同士の気持ちなど無視した、大人の都合による政略結婚だ。
爵位は侯爵であるものの、人が好すぎて親戚や友人達に簡単にお金を騙し取られるばかりか、領地経営の腕もない父上のせいで、没落の一途を辿っていた我が侯爵家。仕えてくれる使用人達の人数は年々減っていき、食事の質も落ち、子供ながらに(この家大丈夫なのか?)と不安に思ってしまうほど、我が家の状況は悪化の一途を辿っていた。
それを打開すべく父上が僕を利用し、ノスタリス子爵家という低位貴族に、婚約による高位貴族との繋がりという餌をぶら下げることで、大金を持った獲物を見事食いつかせたのだ。
餌に使われた僕としては──当然、面白くはなかったけれど。
ここで反発したところで十歳の僕にできることなんてなかったし、幸いにもミディアは中の上ぐらいの見た目をしていたから、どうしても嫌になったら婚約破棄してやればいいか──なんて、当時は安易な考えでいた。
それでも──婚約者同士となって初めてのミディアとの茶会に、僕は難色を示さずにはいられなかった。
その理由は、開催場所が我が家ではなく、ノスタリス子爵家だった──ということもある。初めての顔合わせは我が家で行われたのに、どうして侯爵家の嫡男である僕が、低位貴族の家などを訪れなければならないのか。
それに、成人するまでは自分の意思で婚約破棄することができないから、婚約者とどんなに仲が良かろうと悪かろうと、成人になるまではどうしたって婚約者で居続けなければならない。だったら、わざわざ仲良くなどしなくてもいいだろう、と。
元々が父上に強制された婚約──貴族ならば当然なのだが──だったこともあり、僕はかなり抵抗したが……父上に一喝され、無理やり子爵家へ向かう馬車へと乗せられた。
初めて訪れた子爵家は、邸としては(子爵家だし、こんなものか)という程度であったものの、茶会の際に出されたお茶とお菓子は、この世のものとは思えないほど絶品だった。
なんとも言えない、お茶の芳しい香りが鼻をくすぐる。
供されたクッキーは口に入れた途端にほろりと崩れ、甘すぎない余韻を口の中に残して消えた。
何杯でもおかわりしたい、何枚でも食べたいと思わされる、至高の味──。
そんな風に感じるものを飲んだり食べたりしていれば、誰だって気分は良くなる。となれば当然、会話は弾むし、意図せず笑顔だって出るものだ。
思いのほか子爵家での茶会を楽しんだ僕は、その日の帰り際にミディアの家で出された茶と菓子を大袈裟なほどに褒め、次からの茶会も絶対にノスタリス子爵家でお願いしたいと言って、家路に着いた。




