心変わり
それからのザガロは、月に一度──多い時は二度──だけ、私とのデートに姿を現すようになった。
その目的は、専ら“買い物”、それに尽きる。
どうやらもうすぐ始まる貴族学園での生活に必要な物を揃えているらしく、様々なお店に連れて行かれては、買い物が終わると脇目も振らず一目散に帰ることの繰り返しだ。
たまにはお茶の一杯ぐらいと引き止めても、「悪いが早く帰りたいんだ。君だけ行って、美味しかったら茶葉を買っておいてくれ」と素気無く断られる始末。
貴族令嬢が一人でカフェに入るなんて普通だったら有り得ないのに、そんなことにも気を遣ってくれないなんて。
以前とは完全に別人となってしまったザガロに、ため息を吐く日々。
彼がそんな風になってしまった理由は──メラニン侯爵が再婚したことにより、彼の義妹となった少女のせいだった。
最初の奥様はザガロを産んで数年で亡くなられているし、侯爵様の再婚に我が家は口を出すつもりなどない。けれど、同年齢の──しかも女性の──ご息女がザガロの義妹として侯爵家で一緒に暮らすことになったのなら、そのことについては一言ぐらい教えて欲しかった。
以前、私が見かけた侯爵家の庭でザガロと二人でお茶をしていた女性は、彼の義妹となったジェニーさんだったらしい。
義妹と言っても、ジェニーさんは後妻の方の連れ子。ザガロとは血が繋がっていないし、いくら一緒に住んでいるとはいえ、あんな風に二人だけでお茶をするのはどうなのか。
モヤモヤしたものを感じるも、メイドが数人一緒にいたから、二人だけではなかった……ということになるのかしら?
どちらにしろ、日常的にああして二人でお茶を飲んでいるのなら、私としては非常に面白くない。どころか、あの日見た二人がお茶する場面を何度も思い出してしまい、そのたびに胸が引き裂かれるような痛みを感じる。
どうして私ばっかり、こんな思いをしなければいけないの? 神様に嫌がらせされるような悪いことなんて、した覚えがないのに……。
とにかくこのままじゃいられない──と思った私は、父からメラニン侯爵に伝えてもらい、一度だけジェニーさんに会わせてもらった。
最初はザガロにお願いしたのだけれど、「ジェニーは身体が弱いから、負担になるようなことはさせたくない」と言われてしまったから。
「それって、私と会うことが彼女にとっては負担になるって、そう言ってるの?」
そんな風に聞き返せば、彼は「そうじゃない。別にミディアだけを断ってるわけじゃないんだ。ジェニーは僕達家族以外の人間に会うと、その日の夜は決まって体調を崩すから、それで来ないで欲しいと言ってるだけだ」と言い訳がましく口にした。
「でも私達は、いずれ家族になるんだし……」
と言っても、彼の態度は頑なで。仕方なく侯爵様にお願いすることにしたのだ。
ジェニーさんに初めて会う日、ザガロには内緒で侯爵家へ行ったら、彼は驚き、不機嫌そうにしていたけれど。私が持参したお菓子を見たジェニーさんが目を輝かせた瞬間、それまでの不機嫌さなど忘れてしまったかのように、パッと顔を輝かせた。
と同時に、私は悟ってしまった。
彼の気持ちが、完全にジェニーさんへと向いていることを。
あんなにも可愛い子が、義妹として一緒に住むことになったのだ。彼の気持ちがそちらに移ってしまっても仕方ない。
けれど、気持ちがどこにあろうとも、ザガロの婚約者は私。
どんなに可愛かろうが、大切だろうが、ジェニーさんは世間的に彼の義妹という立場。それに、我が家からの援助によって成り立っているメラニン侯爵家からしてみれば、私を蔑ろにすることは悪手でしかない。
ザガロはそのことを、きちんと理解しているのかしら?




