6 新都の新たな意義
サミア王と獣人の使節団の話し合いの席が持たれた。
サミサ王は驚きを隠しつつ、平静を装い獣人の代表の話を聞いた。
サミア国の新王城建設地に、転移陣があると言う。その転移陣を使えば、船など必要なくなる。
遠く離れた大陸へ、瞬く間に行けてしまう。それは相互に通じる転移陣だ。
獣人国以外の大陸は今は、まだこの事を知らないで居る。
今後この転移陣の利用をどのようにするか、大陸と交流を持つために利用するかどうか。
それとも、これを知らせずに置くかどうか。と言う話し合いだった。
これは重大な決断を迫られている。確かに素晴らしい物だが、果たして国益に繋がるだろうか。
万が一、相手国との諍いになれば、悪用される恐れがある。これは熟考が必要だ。
転移という技術が実際魔術で出来た、と言う事は今後、時が経てば、誰かが考え出す物だろう。
何も今急いでこの技術を明かして世界に混乱を齎す必要性が感じられない。
「私は今はこのままにして置いた方が良いと考える。」
王はそう使節団の代表に継げた。
「そうですか、分りました。我が国が鎖国をして居ましたのは、過去の交流の結果でした。貴国の懸念は重々承知しております。暫くは知らせないで置きましょう。時間が経てば発見されてしまうかも知れませんが。一番の懸念は、水の大国です。あそこの転移陣はかなりの山の中にありますが、それでもその内に知れることになるかも知れません。如何しても不安なようなら、結界で塞いでしまえますがどういたしましょうか?」
と言う事になり、水の大陸と風の大陸の転移陣は、結界を張ってしまうことになった。
結界を張る為にこの国の転移陣から移動させて欲しいと言われた。
更に、獣人国には転移陣は無くなってしまったため、この国の迷宮を使わせて欲しいと懇願された。
今まで親しく交流してきた獣人国には、親しみを感じていた王は、快く受入れた。
新王都には、獣人の為の施設を新たに建設することになった。
フランは今森の中に新たに小さな村を作っている。転移陣の近くだ。
何でも獣人族のための村だそうだ。
今後獣人族とはより密接な関係を築いて行くことになる。
今までけして人族の目に触れなかった種属がここに来るのか。
国民が彼等に対して、水の国のような偏見を持たないよう祈るばかりだ。彼等には素晴らしい知識と歴史がある。それを教えて貰えるようになるかも知れない。楽しみだ。
ここが終われば、転移陣を大きく囲う塔を作ることになる。この塔は龍神の神殿の役目もある。
サミア国は今まで神信仰には余り関心が無かったが、これは今後見直されて、龍神信仰が始まるかも知れない。ここには獣人族の神官が常住することになっている。
転移陣の利用はまだ一般の人には出来ないだろうが、その内に騎士達のレベル上げや、冒険者にも開かれることになるだろう。
ここの冒険者ギルドの施設は大きく設計し直さないとだめだな。
獣人族の村が出来上がり、獣人族の第一陣が到着した。
彼等は、魔術師五名。狩人十七名でやってきた。大柄な狩人達は、珍しそうに街の中を見まわしながら歩いてくる。街の住民は気になるのかチラチラ見ていたが、努めて平静を装っている。王から厳しく言い渡されていたからだ。
「大切な同胞が、異国から来る。絶対に失礼のない様に、ことさら特別視しては成らない。」
難しいよな。耳や、尻尾のある人を気にしないで居ることは。でも皆一生懸命見ない振りをしている。
初めは接触はしないように獣人族にも言い渡していた。余りにも急いで馴染もうとすれば軋轢が、双方に及ぶと危惧したからだ。ゆっくり馴染んで貰おうと言う王の配慮だった。
初めにやってきた獣人達にはこれから重要な任務がある。
水の大陸にある転移陣に結界を張りに行くのだ。この結界は周りからの侵入を防ぐための物だ。
こちらからは行ける。しかし、結界を通り抜ける魔法が無いと転移陣には入れなくなると。
誰でも行けるわけではないと言う事だ。
「では、行ってくる。」
狩人の熊獣人、トラ獣人2人、鳥獣人、魔術師の猿獣人と猫獣人が魔方陣に消えていった。
今日中に帰ってこなければ、次の獣人達が出発することになっている。
まあ彼等も、通信システムを持っているようだから何かあれば直ぐ助けに行けるだろう。
何事も無く、帰ってきてくれることを祈っている。
「エステバル、精霊樹はなんて言っていたって?」
「俺が獲ってきた金貨を、孤児院に寄付しろだってさ。」
「何か、エステバルは、精霊樹の使いっ走りにされたって感じだな。」
「まあ、俺もそんな感じしたけどさ、言われる前からそうしようと思っていたから、別に腹は立ててないけどね。」
フランの持ってきた書類は、登記簿や、帳簿、等、その時代の人達の暮らしぶりが分る物だった。後でサルキチにでもあげようと思う。サルキチの研究に役立つだろう。