5 土の大陸への出口
エステバルと僕はまた迷宮に戻ってきた。ココも一緒だ。
時間は夕方。迷宮の中は前回と同じく薄らと明るい。
前回の経験を生かし、素早く飛行し、長く退屈な通路は立ち止まらずに3時間ほどで一気に扉まで来た。
そこに居たのは、前回と違い角ウサギが一匹。
「何だあ、こりゃ。」
この迷宮は、フラン達に忖度している。全く面白い迷宮だ。
サクッと倒し、次へ進む。
あっという間に五つの扉の前に来た。
「土の大陸、と書いてある」
「サッサと行こうぜ。」「クウ」
エステバルは、なんだかわくわくしている。あんなに迷宮に対して及び腰だったのに、いつの間にかまだ見ぬロマンに心を奪われてしまったようだ。
フラン達が扉を抜けてまた、飛行魔法に切り替え飛び出した。其の侭いつの間にか迷宮を抜けて居たようだ。フラン達が着いたとき、空は明るく太陽は中天にあった。ここはフラン達の大陸の裏側だ。
フラン達が浮かんでいるのは魔獣が周りにうじゃうじゃ居る場所だった。
「危ねえ!このまま上まで飛んで行こう。」
上から見える魔方陣はどうやら広場の中央に設置されていたようだ。周りは高い塔で囲まれている。
「魔方陣の上には塔は造られていなかったみたいだな。お陰で魔方陣は壊されなかったようだ。」
魔獣達は魔方陣には近づいて居ない。小さな魔獣は偶にそこに吸い込まれるように消えているが、殆どは危ないと感じているようだ。
「クウ」
「ココも怖いか?でも、消えて仕舞った魔獣達はどうなってしまうんだろう。」
「俺達と同じだと思うよ。ただ、魔獣は元来好戦的だ。戦っているうちに強さを求めれば、強い魔獣が出てくる。そうすれば負けてしまうだろう。それに魔獣は迷宮からは出られないだろうし。」
「そうだな。ある程度勘の良い魔獣は近づかないみたいだしな。」
フランがレーリオと会った塔も見える。多分あそこには宝物がもう殆ど残っていないだろう。
「エステバル。どうする?宝物探しをしたいんだろう。」
「ああ、でも国へ届け出ないとなると違法なんだろう?」
「あの国では、と言う事らしい。レーリオガが言うにはここまで来る事は無理だし、他の部族は自分たちで自由に入って取ってきていたみたいだ。」
「まあ、入って来られないなら、宝の持ち腐れだ。」
エステバルはどんどん塔の上へと上がって行き、塔の中間の、壊れた窓から中へ入っていった。
壊れた窓から光が差し込んでいた。そこは一面苔や草や、木がはびこっていた。それらをかき分け奥の扉を開ける。
ここも似たような有様だ。その階を隈なく周り、めぼしいものが見付からない。
「上に行く?それとも下の階?」
「下に行って見るか。」
階を降りる度に草や木が鬱蒼と茂っている。総ての窓が壊れていたためだろう。
これでは、何も探すことは出来そうに無い。仕方なく上の階へ行くことにする。
階段が途中で壊れて途切れていて、また、飛行に切り替え上へ上へと上がって行く。
「おっ、ここはまだ大丈夫そうだな。」
ドアを開けて中へ入っていくと、状態がかなり保存されている大きな広間だった。窓は壊れていなかった。窓ガラスから光が差し込んで、中の様子がハッキリ見える。
周りは豪華な壺や家具、テーブルなどが置かれていた。中央には何も無い広い空間があった。
「ここは舞踏室か社交場だったのかな。あの、一段高くなっている場所には、位の高い貴族の場所かな。」
興味津々で見て回る。此処にある物は状態保存の魔法が掛かっているのだろう。直ぐにでも使えそうな物ばかりだった。だが二人は何も手に取らず、其の侭にしておこうと考えた。
いずれはここも壊れてしまうだろうが、だからといってここを荒らす気にはなれなかった。
エステバルは、次の階へ行こうと言ってまた上へと上がって行く。フランは素直に後ろを付いていった。
あと二階しか残っていない。この階を見て周り、どうやら居室のようだ。同じような部屋が延々と続いている。若しかしてこの塔はホテルだったのか?
「ここには何も無いな。隣の塔を見てから帰ろう。」
屋上から、隣の塔まで飛んで行く。
この塔は丈夫そうだな。窓が少ないせいか暗い。階段も壊れずに残っていた。
慎重に降りて行く。エステバルはフランの作った、光の魔法ステッキを持っていた。
「そんなのを持ってきたのか?僕の魔法で明かりが採れるのに。」
「結構使いやすいぜこれ。冒険者ギルドでは推奨して居るんだ。ギルド長が率先して使わ無いとな。」
明かりには、使いやすいだろう。でも片手が塞がるのは、良くないのでは?
フランは明かりのための魔道具は何か作れそうだと考えながら、エステバルの後ろをついて行く。
ここは、まるで商社のような雰囲気だ。各階が似たような造りだ、事務机のような物がずらりと並んでいる。各階の小部屋に必ず魔道具が保管してあった。
常用していた為、かなりすり切れた物が多い。事務用品らしき物や、魔法ステッキ、魔法鞄、加熱の魔道具もあった。
エステバルは、それらを記念にと言って1つずつ取って後は其の侭にしている。
段々階を下るごとに、窓が無くなって地上三階に来た頃は全く窓が無くなってしまった。
かなり厳重な扉があり、開けるには鍵が必要だ。
ここは若しかして銀行のような施設だったのでは無いか。これは金庫かも知れない。
「エステバル、これは金庫だと思う。どうする?開けて見ようか?」
「開けて見るか。」
鍵は光魔法で壊して仕舞う。警報のような音が周りに鳴り響いているが、フラン達の他は誰も居ないのだ。堂々とした銀行強盗だな。
厚い扉を開けると、周りは紙幣が沢山積み上がっていた。
「紙くずが沢山ある。何でだ?」
エステバル、これは、当時ならば大金だったろうが、確かに今では紙くずだ。
フランは中の数枚を抜き取り、印刷技術の調査のために魔法袋に入れた。
エステバルはフランの行動が理解できないようだ。紙くずを後生大事に仕舞うなんて。
金庫の奥へ進むと小さな扉があり開けて見れば、そこには金貨や銀貨、金塊などが沢山保管してあった。
「これぞお宝だ。」
エステバルは喜び勇んでそれらを魔法袋に詰めていった。
フランは周りをじっくり見まわす。片側に書類の保管庫があった。
それを開けて、魔法袋に詰めていった。
「さあ、お宝も手に入ったし帰るか。」
このまま帰れるのか不安があった。
恐る恐る魔方陣の中に踏み入れた。するとスルリと吸い込まれ、また通路に立っていたのだった。
「良かった、今日中に帰れそうだ。」
「冒険と言うにはお手軽に終わっちまったな。でも、ワチキにお土産が出来た。」
サミアの魔方陣を出ると、ワチキがビックリ顔で立っていた。
「何でこんな時間にここに居たんだ?一人で居たら危ないじゃ無いか。」
「まさかこんなに早く帰ってこれるなんて。良かったでシュ。昨日のこの時間に行ったばかりなのに。」
そうか多分同じ時間にここへ来てみただけなんだろう。まる一日で帰ってきたことになる。
「兎に角僕の塔でゆっくり休もう。」
エステバルは、ワチキにお土産だと言って、沢山の金貨を出して見せた。
ワチキは驚きながらも、真剣な顔で「精霊樹様の言ったことは本当だった。」と言って。
精霊樹は、エステバルにもフランと同じようにお宝を持ってこさせようと思っていたらしい。
本当にお節介で、エステバル大好きっ子な木だ。
この事は内緒にしなければいけない。まだ、王様にも内緒なのだ。
自分たちが勝手に実験をしていたと知れたら、へそを曲げてしまうだろう。
「問題は、他の大陸へ言っても本当に帰ってこられるかだよな。」
「多分船で後援して貰いながら行くことになると思う。万が一の保険が無ければ、実験は難しいだろう。」
船で帰れるという保険があれば、火の大陸や、水の大陸へ転移する実験は出来る。
土の大陸の実験もするだろうが、フラン達は黙っていよう。
問題は風の大陸だ。気候が苛酷で、内陸にあると言う転移陣で、もし帰ってこられなければ、大変な事になる。
「他の大陸へ行く旨みはなかったら、転移陣はどうなる?」
「獣人族が他の大陸の住人に知らせれば、他の大陸から、こちらに来るようになるかも知れない。」
「それをサミア王と話し合うのかな。交流と言えば聞こえは良いが、交流すれば、諍いも起こるようになるかも知れない。他の人達と軋轢が出来れば、返ってまずい結果になる気がする。」
「王様の決断次第だな。」