3 迷宮の探索
「迷宮ってのは初めて聞くな。どんな施設なんだ?子供が遊ぶ迷路のような物か?」
エステバルは、フランに不思議な魔方陣について聞かされていた。
そして、迷宮なるものの変わった特性を聞いても、余り理解できない。何故それがフランをせき立てているのか。只の複雑な迷路で、そこに魔獣が居たり、宝箱なるものがあったりするらしい。
そんな面倒な、不可思議な物を誰が作ったのか。疑問が押し寄せてくるのだった。
態々、その様なところへ行かずとも、北の森へ行けば、魔獣は腐るほど居るし、剣や防具にしても造れば良いだけだ。危険を冒してまで獲りに行く必要性が分らない。だがフランは、
「ロマンがあるだろう。何が出てくるか分らない、それが面白いじゃあ無いか。それに魔方陣がもし迷宮で無くても、原因を探りに行かなければ、安心してあの街で人々が暮らせない。帰ってこれると分っているんだ。行ってみないと本当の事が分らない。サルキチも行くと言っている。君にも来て欲しい。」
今エステバルは、別に忙しくは無いから、一緒に行きたい気持ちはあった。だが、ワチキがどう言うか不安だ。また一緒に付いてこようとするかも知れない。以前の大航海の時も付いてこようとしたのを抑えるのが大変だった。なんとかワチキを大人しくさせておく方法があれば良いのだが。
獣人族の方でも迷宮の探索に、サルキチの他に猫人などが来るらしい。
今まで、人族の国には殆ど顔を見せなかった種属までが、態々国から出張ってくるようだ。
獣人族にとっては、何か重大な理由が他にあるらしいのだが。
一番の問題は、この事をサミア国には内緒にして居る、と言う事だ。
獣人族は結果がハッキリしてから、サミア国王に知らせたいと言っていた。
兎に角フランだけを行かせるわけには行かないから、ついて行こう。
ワチキのことは、精霊樹になんとかして貰うしかないようだ。
「ワチキも行きます。」
「子供のことはどうするんだ。」
「レーリオが、見てくれるそうです。精霊樹様もついて征けと言っていました。」
これでは、もう連れて行くしか無くなった。
エステバルは、諦めるしか無い。頼みの綱だった精霊樹が、何故か迷宮探索に乗り気なようだ。
精霊樹は、危険な事は全くないと言っていたそうだ。
むしろ行ってくれば、恩恵があるとまで言ったのだとか。よく分らないことだらけだ。
役所には暫く冒険者ギルドの仕事は休むと言って置いた。
殆ど仕事らしい仕事は無い所だから、こちらは代役で間に合う。
後は、長く迷宮に潜っていても良いように準備をすれば良いだけだ。
獣人族から来た魔術師が、魔方陣の周りに、他の人が入れないように結界を張ってくれた。
これまでの防御の魔道具では心許ないから、しっかりした物を掛けたらしい。
獣人族は、どうやら、この魔方陣に対して、大変な責任を感じているらしい。
フランに結界の張り方、通り抜け方まで伝授してくれたほどだ。
「さあこれで、人族には何があっても迷惑は掛からなくなった。後はこの迷宮なるものが、どのようなものなのか調べるだけであるな。」
サルトに連れられてきた、とても力の有る犬人の魔術師がニコニコ顔で言ってきなさいと言っている。
サルトと犬人の魔術師は、フランの塔に滞在して、フラン達が帰ってくるのを待つそうだ。
最初にフランとココが、次いで猫獣人のネコマタと猿人のサルキチその次にエステバルとワチキが魔方陣に吸い込まれていった。
魔方陣から抜けて、皆が立っている場所は3メートル四方の四角い地下道のような所だった。
ずっと先まで続いているのが分る。ほんのりと明るく、照明は必要無いみたいだ。
暫く行くと弱い魔獣が出てきたが、フラン達にしてみれば雑魚だった。
エステバルはそれでも驚きを隠せない。倒した魔獣がキラキラ光りながら消えて仕舞う。
後には魔獣の素材の一部と魔石が残されているのだ。
「どういう仕組みだ?」
「ダンジョンではよくある仕組みだな。」
まるで入ったことがある様な言い方で、フランが言う。
「何故そんなことが分るんだ?」
「いや、何となく?」
そんなことあるか!獣人族でさえ知らない初めての建造物なはずだ。まあ、考えても分らないことは、今までも多々あった、フランの不思議言動だ。気にするだけ無駄だ。
それよりも、獣人族だ。こいつらは全く戦闘能力が無かった。何故もっと強い冒険者の獣人が来なかった?
熊とかトラとか一杯居るだろうに。
「エステバルさんは、何故私達がここに居るのか不思議そうですね。」
ちびの猫人ネコマタが言う。
「まあそうだな。何でお前等なんだろうって思っている。」
「私達は、この迷宮の仕組みを研究、観察、報告の任務を帯びてきた学者です。」
そういうわけか。フランが俺に着いてきて貰いたがった訳だ。
こいつらの護衛の意味もあったわけだ。ワチキが付いてきて貰って正解だったな。
「ここは、危険は無いとは言ってましたが、やはり魔獣は出ます。俺達から、絶対離れないで下さい。」
「はい、承知しております。試練はあると言われました。それがどのような物かを記録するのも仕事ですから。」
試煉だと?危険とどう違うんだ、全く訳が分らん。
「ワチキは、そろそろお腹が空きました。ご飯を食べる場所を探しましょう。」
周りを見まわしても、似たような造りが延々と続いている。フランが、
「結界を張ります。そこでゆっくり出来る。」
結界まであるのだから、寝るときも安心だな。確かに危険はそんなに無さそうだ。
ワチキが食料を出して、いそいそと料理し始める。なんだかピクニック気分だな。
「サルキチは何の学者さまなのでしゅ?」
「僕は歴史学者です。今回同行できたのは、僕に言語理解のスキルが有ったからです。」
フランがすかさず聞く。
「サルキチの言語理解が役立つ場面に出くわすと、予想されてるの?」
「まあ・・そうかもしれません・・」
妙に歯切れが悪い。こいつら一体何を隠していやがる。
飯を食っている間にも、周りには雑魚が湧いてでてくる。一体何処から出てくるんだ?
喰いながら結界の中から魔法でちまちま倒している。食休みが終わる頃は、周りに魔獣の素材が山になっていた。
何となく張り詰めていた気持ちが緩んで来た。
「何か、雑魚ばかりでつまんねえとこだな。」
そう言った側から、大きなイノシシが壁から湧いてきた。
「どうなってやがる!」
急いで、皆の前に出て魔獣を倒す。倒しても、また出てくる。フランと二人で息つく暇無く湧き出た魔獣を倒して気付けばそこは魔獣の素材だらけになった。
「フーッ。やっと落ち着いたみたいだ。本当にどうなっているんだ。」
ネコマタが、学者らしく冷静に観察結果を言い始めた。
「多分、この迷宮は、エステバルさんの希望を叶えたんだと思いますよ。」
「希望だあ?」
「さっき言ってたじゃあないですか。手応えがないって。龍神様の・・・いや。」
変な言葉を途中で飲み込んでネコマタは顔を背けた。
ここは龍神が関係しているのか?あの、神秘的な大きくて奇妙な奴が。
「オイ、ネコマタ。俺達に秘密は辞めてくれ。きちんと説明しろ!」
「分りました。ハッキリしていないこともありますが、想像も含めた見解になります。そこは理解して下さい。」