9 火の大陸
「フランよ、其方を特別に選んでやっても良いぞ。」
サミア王が、獣人の複雑な術の取得を許してくれそうだ。フランは嬉しくなった。この国の魔術師ではトーマスマンがが第一に選ばれていたが、後は一人しか枠が無かったのだ。
その術を教えて貰う権利を得るために、トーマスマンに頼み込んでやっと権利を得た。
しかし、王様からは交換条件が出された。
「火の大陸へ行って、そこの迷宮に術を掛けてくるついでに、あの国で採れるカーカーオというという物を獲ってこい。」
ああ、そう言えば、フランが持ってきたカカオの実を、王様は大層気に入っていたのだ。
自国での栽培を試していたが、やはり無理だったようだ。アクア国から持ってきた米は取れ始めていた。
リザードマンが率先して、南の森に米を作り始め、今ではフランの食卓にも乗るようになっていた。
王様はカカオの栽培は、諦めて火の国から採ってこようとしているらしい。
お安いご用だ。術を教えて貰えるのなら、何だってしてやろう。
今回はトーマスマンとエステバルが同行する。レーリオも行きたがっていたので連れて行くことにした。
前回子供を見て貰ったのでワチキが残リ、子供達の面倒を見てくれる。
フランは殆ど子供と一緒に居られない。忙しくいつもあちこちに行かされているせいだ。その内親の顔を忘れてしまうのでは無いか?
しかしフランは王様が気づいていないことに気がついた。
迷宮に願えば、カカオも出てくるのでは?だが、それは言わないで置こう。折角交換条件として出してくれたのだ。術を覚えてしまってから、王様に教えてあげよう。
今回のパーティーは、15人の大人数だ。王様のカカオを目一杯獲ってくるためだろう。その隊長は、勿論エステバルだ。彼が初めに見付けてきたので、場所は把握している。
フランは、迷宮からは動かないようにする。トーマスマンと一緒に迷宮で検証することがあったのだ。
レーリオもエステバルに付いて行って、色んな物を見てきたいと言っていた。
空飛ぶ魔獣がいるから気を付けて欲しい。用心にココが一緒に行って貰う。
火の大陸の転移陣は砂漠にあった。ジャングルが遠くに見えているところだ。
周りは砂岩で、山の中腹に位置している場所だった。砂漠の方を見るととオアシスも見える。
「フラン、俺達がここに戻ってくるには大分時間が掛かるはずだ。2ヶ月は掛かるかも知れない。通信はマメにする。フラン達も心配しないで、ゆっくり検証してくれ。」
飛行スーツを皆着ているし、2ヶ月も掛からないと思うが、カカオの他の植物も見たいのだろう。
皆、初めて経験する熱帯の環境に興味津々だしな。
「この間の部落へ行ってくるのか?」
「ああ、他の部落も見てこようと思っている。」
それだったら時間が掛かるな。気を付けて言ってきて欲しい。
エステバルには部落へのお土産を多めに渡して置いた。勿論魔法鞄だ。
彼等は勇んで飛び立った。
トーマスマンとフランは再び魔方陣へ入って行った。
早速術を施し、最大の仕事を終わらせる。
「さあ、フラン君。お楽しみの時間だ。」
トーマスマンが、わくわくしながら早くやろうとフランを急かせた。
ここの迷宮を実験台にして、農場が出来ないかの検証だ。
まずは、場所を決めよう。真っ直ぐの通路から横道を造る。
そこからはただただ広い空間を願うのだ。迷宮には、みるみる大きな広い空間が出来上がった。
「素晴らしい。願うだけでこのようなことが可能になるなんて。今度は私がやってみよう。」
トーマスマンが願ったのは地上と同じ環境だ。つまり、太陽があり朝が来て夜になる。
理想の農場の気候。この熱く焼けた大陸には考えられない環境が出来上がった。
フランは豊かな土壌を思い浮かべ、森を思い山を思った。そして湖に川。
二人で夢中になって色んな物を思い浮かべている内に、何時しか一ヶ月が経っていた。
「少しやり過ぎたか?」
「そうですね、ここいらで一休みして、外へ出てみませんか?」
外は焼け付く暑さと砂嵐。地面にうずくまり、嵐が過ぎるのを待った。
「何か前にも似たようなことがあった。この後の展開が読めた。」
フラン達は、黒い肌の現地人に囲まれていた。
【獣人族の方では無いのか?】
彼等は近くのオアシスを拠点にしている部族だった。至って友好的な人々で、言い伝えを教えてくれた。
彼等にとって魔方陣のある山は聖なる山で、そこには聖なる獣人が現れて彼等に沢山の恩恵を施してくれた。それでこの山を見回り、何時かまた獣人が現れるのを待っているのだとか。
「フラン君。これは良いところで検証が増えたな。」
「そうですね。早速頼んでみましょう。」
彼等の部族を魔方陣の中に招き入れ、フラン達の造った迷宮の村に案内した。
彼等はここへ移住して貰おう。そして彼等には悪いが実験台になって貰おう。
その事を正直に話して協力して貰った。彼等はむしろ喜んだ。こんな豊かな場所に移住できることを。
そうこうしているうちにエステバル達が戻ってきた。
この状況を見てエステバルは、呆れていた。
「なにをしていたかと思えば、とんでもない物を造っていたな。トーマスマンまで調子に乗って。」
「でも、ここが人の住める迷宮だと証明されれば、迷宮に新たな使い道が出来る。そう思わないか?」
「でも、何でも出来てしまうのは危険では無いのか?恐ろしい、悪意が形作られる恐れは無いのか?」
「それはもう検証済み。どうも、思いの餞別があるようなんだ。」
「思いの餞別?何だそりゃ。」
「例えば、彼奴が憎い、彼奴を不幸にしてやる。と言うような思いは、形にならない。」
「そうか、あくまでも善意なる龍神の願いに適わないとだめと言う事か。」
「どうも、そう言うことらしい。」
エステバル達は大量のカカオと植物を持ち帰っていた。
レーリオもとても面白かったと喜んでいた。
迷宮村には「また来ます。」と言い残し、フラン達は帰国した。
国王に謁見して今回のことを報告した。
「では、若しかして我が迷宮にもカーカーオが取れる農場が出来るやも知れんのか?」
「はい、可能性は大きいです。他にも氷が簡単に作れる場所も造ってみましょう。」
トーマスマンの話を聞き王様は、のけぞった。氷まで?
「迷宮とは何という万能な物じゃ。良く検証してきてくれた。今後も頼むぞ。」




