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男女比1対1000の世界を女から見た的な話

作者: 山田 勝

 ライオンの雄は働かない。それは、大きな体で雌と子供達を守るからだ。

 今、目の前にいる男性も体は大きい。


 彼もいざとなったら女を守るのだろうか?


 彼とレストランでデート中だ。




「豚田君、食べ過ぎかな・・最近、ニュースで男性の太りすぎによる急死が報道されているから心配かな」


「・・・・・・・」


 モグモグと咀嚼音だけがする。

 デートだと言うのに会話がないわね。


「これ・・・」

「え、男性用のブランドのバック?」


 スマホを見せられた五万円のバックだ。


「この前、三万円のポーチ買ってあげたでしょう?」


「じゃ」


 伝票を渡された。料金5500円だ。


 学生にはキツいな。

「私は水だけなのに500円か」


 料金を払いレストランを出る。


 豚田君は肥えているが、近年、成人病などで男性の急逝が続いているから心配だ。


 私は矢田安子、高校3年生、野球部、プロになれれば、年収1000万円を超えて結婚出来る見込みだ。


 男性の数は圧倒的に少ない。

 私は恵まれているようだ。頑張らなければ。


 バイトを増やすか。


 しかし、試合では不調が続く。


 カキーン!

「矢田、交代!」


「はあ、はあ、申訳ありません。打たれました」

「矢田、どうした?バイトを増やしているようだが、本末転倒だぞ?」

「申訳ありません」



 何とか、今月分バイトのシフトを増やして、5万円のバックを買った。

 肥えた指で受け取り。また、スマホを見せられた。


「・・・これ」

「え、今度は25万のバック?」

「そう」

「無理だよ」

「あ、そう」

「待って、私、頑張るから」

「他、いるから・・別にいいよ」





 授業中、25万円のことを考える。どうやって用立てようか?

 しかし、頑張ってもどうしようもない。しかし、この機会を逃したくない。

 男を見かけることすら稀なのだから。


 ピンポパ~ン!


 あ、校内放送のチャイムだ。


「全校生徒は至急体育館に集合!」


 女子300人ほどが集まった。そこには野田曹長と、広報の腕章をつけた自衛軍の士官がいた。カメラを持っている。


 在校軍人の野田曹長、定年退官されて、嘱託で学校の軍事教練を受け持っている方だ。正に軍人のような方だ。



「命令だ!お前らの写真を撮る!」

「あの、質問です。データーベースの更新にしては早すぎませんか?」

「質問は認めねえ!おら、さっさと並べ」


 おかしい。通常は上半身だけを撮すのに、制服を着て立ち姿。ローアングルで下からと、スリーサイズも測られた。


 何だろう?


「撮り終わったものから解散!」

「「「はい!」」」


 いつも、そうだ。理由を話さない。

 でも、今は25万円だ。


 私は親無しで施設育ちだ。父は精子バンクで誰かは分からない。

 頼れる親はいないし、奨学金とバイト代では25万円出ない。

 しかし、部活の仲間たちが、用立ててくれた。


「先輩!カンパを集めました!」

「安子、見てられないよ」


「み、みんな」


 部活の子たちが、お金を集めてくれた。

 皆、貧しいのに・・・


 私は決心した。


「受け取らないよ。素直に買えませんと言うよ」


「安子、豚田君はこの地域唯一の男だよ。これを逃したら・・・」

「フフフフ、いいわ。部活に専念して立派な野球選手になって男子アナと結婚だ!」



 しかし、そう甘くは無かった。


 私は別れるのを覚悟して土下座をして謝った。


「豚田君、ごめんなさい。買えないよ」


「あっ、そう、なら、これにサインをして」


 紙を差し出された。婚姻届と、結婚要望書だ。


「え、結婚要望・・」

「そう・・・」


 何かある。この世界は男子からの求婚を断れない。


「これにサインをして」


 太い指で書類を差し出す。


「雇用契約書もある・・」

「そう、高校を退学して、僕を養って」


 雇用先は・・・土木会社だ。勤務地は松本要塞建設現場・・・お給料は良いらしいけど。


「豚田君も退学して一緒に来てくれますか?」

「やだよ。僕は東京にいるよ。給料だけ送って」


 嫌だ。嫌だ。嫌だ。これじゃATMだよ。


 周りの皆は心配そうに見ている。

 だけど、誰も何も言えない。先生もこれを止めることは出来ない。


 法律で男子と6ヶ月お付き合いをしたら、男子からの結婚要望を断れない決まりだ。

 頭の中で時を遡る。ちょうど、半年前に豚田君からお付き合いを申し込まれたのだっけ・・・





 その時、人の群れの後方から声が聞こえた。

 野田曹長の声だ。


「どけ!どけ!参謀本部の尉官殿が通られるぞ!」


 あの野田が恐縮しているわ。将校が来たの。

 まるで、海がわれるように人が二つに分かれて現れた。暴君の野田が露払いのようだ。


 その後ろに、20代の自衛軍の制服を着た女性と・・・男がいた。痩せている。私達と同じぐらいの体重だろう。


「君が矢田安子君、18歳、東京第一高校の生徒だね。私は自衛軍参謀本部2部所属の香山利香、そして、隣にいるのは・・・」


「う、上杉賢治です。16歳!高校1年でした!」


 香山と名乗った将校は、豚田君から書類を取り上げたわ。



「これ・・僕の・・」

「ちょっと貸して、破いてあげるから」


「ほお、これは結婚要望書だね。え~と、説明すると・・・」

 香山さんは私がATMになることを書類から見抜いて上杉と名乗った男の子に説明したわ。


「ねえ。これがこの世界の道理だよ」

「お、おかしいです」

「おかしかったら、どうする?」

「き、緊急お付き合いを申し出ます!」


 緊急お付き合い。男子同士が女子を取り合うときに申し出る宣言だわ。

 まさか・・・私が。



「あの、嫌でなかったら、お付き合いをお願いします。俺、写真をみて気に入りました!一目惚れです。幼なじみに似ていました!え、これ失礼にあたる?ごめんなさい。だって、この世界転移して・・・お付き合いをお願いします!」


 手を差し出された・・・・


 私は手を取ったわ。香山中尉はにんまりと笑って手をあげて宣言をした。


「布告!上位男性の上杉賢治の緊急お付き合いの申し出により。豚田呑兵とは縁切りとなる!不服申し立て除外事項である!」


 豚田君はたいして狼狽をしなかった。

 女は沢山いる。

 すぐに、その場でお付き合いをしたい女性を募集した。


「僕と付き合い人、手をあげて?あれ、誰もいないの?」


 しかし、皆、断ったわ。


「さすがに、ATMにされるのは嫌です」

「そうです。矢田先輩に対してヒドすぎます」



 豚田君は、「フン!」と鼻息をならし。この場を去った。


 私はその後。


「ストライク!ゲームセット!」


「矢田先輩!ナイスしょ!」

「エへへへ、皆、ありがとう」


 部活に精を出し。上杉君のお弁当を食べる毎日だ。


「皆様、お疲れ様でした!オニギリを作ってきました!食べて下さい」


「え、私達にも?」

「はあ、はあ、はあ、男の手作り・・」


 しかし、彼はどこから来たのだろう。言葉が若干違う。

 日本国憲法を知らなかった。『男は神聖にして犯すべからず』なんて文言も知らなかったわ。


 でも、彼は彼だわ。




 ☆☆☆首相官邸


「首相閣下に報告です。異世界人上杉殿、矢田安子とのお付き合い順調です」


「そう・・・」


 私は第72代日本国首相藤川冨士子、この世界は男性が年々少なくなり。

 ついに、人口比1対1000になった。

 しかも、残った男性は皆、同性愛になっている。全員だ。


 そんなとき、奇妙な男性が見つかった。女が好きな男だ。

 彼は異世界の同じ国号の日本から来たという。

 そこの世界の男女比はほぼ同じと言うではないか?


「計画を急がせなさい。上杉殿の精子を中心に新たに国に作り替える」

「しかし、遺伝的に上杉殿1人では何かと血が近くなると学者からの意見です」


「分かっているわ。だから・・・既存男性の精子も必要だわ」


 男性保護費を打ち切り。そして、

 現存男性を『男性だけの街』という名の施設に入れ。健康管理を徹底させ、精子を提供しなければ生きていけない環境を作る。


 窓を見る。曇りだわ。


「嵐が来そうだわ。備えなければね」

「了解です!!」



 もう、世界は、義務を果たさない男性を保護する余裕はないのだから。





最後までお読み頂き有難うございました。

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