第四章:当人同士は仲が良いのに、ファン同士が争う理由 〜“共演”が“対立”に変わるとき〜
推しが仲のいいVと楽しそうにコラボしている。
──そのはずなのに、タイムラインではファン同士が言い争っている。
「こっちのVに便乗して伸びてるだけ」
「コラボの空気壊してた」
「うちのVを踏み台にした」……。
当人たちは笑っているのに、なぜファンたちは争ってしまうのでしょうか?
この章では、“推しの隣にいる他者”に対するファン心理を読み解いていきます。
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ファンは“推しと自分”の関係に特別さを求める
推しと自分は、画面越しでしかつながっていない。
だからこそ、人は「自分は他のファンとは違う」という形で、心のなかに“特別な距離感”を築こうとします。
•自分のコメントに反応してくれた
•自分の作った切り抜きを見てくれた
•配信で自分の名前を読んでくれた
それらが、小さな“絆”として心に刻まれていく。
けれど、その絆の感覚が強くなればなるほど――
「推しが他のVと親しくしていること」が、“自分の立場を脅かす存在”に見えてしまうことがあるのです。
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「人気の吸い取り」や「数字目当て」への疑念
コラボの相手が自分の推しよりも数字が低かった場合、
•「数字目的では?」
•「利用されてるのでは?」
•「うちのVの時間と露出が奪われてる」
逆に相手が人気者だった場合には、
•「相手のファンに飲まれるのでは」
•「自分たちの推しが埋もれるのでは」
と、ファンは無意識のうちに“攻防の構図”を頭の中に作り始めるのです。
この防衛本能が過熱すると、相手Vやそのファンを攻撃する心理に転じてしまう。
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「推しと自分たちの関係」を守ろうとする集団心理
推しを守りたい、という気持ちが、いつしか
•「うちの推しに近づくな」
•「合わない相手と関わってほしくない」
という排他的な態度に変わってしまうことがあります。
これはまさに、“擬似的な恋人感覚”と、“推しを神聖化したい願望”が交差する地点。
自分たちが守ってきた空間が、他者によって「変わってしまう」ことへの恐れでもあります。
しかし、V本人たちは、ただ楽しく活動し、誰かと交流し、世界を広げているだけかもしれない。
その距離感のズレこそが、摩擦の正体なのです。
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ファン同士の誤解と連鎖反応
Aのファン「Bってノリ悪くない?足引っ張ってる感じ」
Bのファン「Aのファンって攻撃的すぎ。Bちゃんかわいそう」
→ A本人もB本人も仲良し。それなのに“ファンの代理戦争”が始まってしまう。
SNSは感情を拡大・拡散する装置です。
たった1つの偏った意見が、無数の引用・反応・正義感を巻き込み、やがて“本人たちの望まない争い”に発展してしまうことも少なくありません。
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V本人に求められる「距離感の設計」
ファンの感情がこうした方向に進みやすいという現実は、V本人にとっても無視できない問題です。
•自分と他Vとの関係性をあえて言葉にして安心させる
例:「〇〇ちゃんとはプライベートでも仲良いよ!でも皆との距離も大切にしてるからね」
•ファンを不安にさせない姿勢を明確に示す
例:「今日は〇〇ちゃんとコラボだけど、みんなにもちゃんと時間作るからね」
•ファン同士の対立をあおるような発言・態度をしない
“私はどのファンも大切にしている”というメッセージを、形にして届けていくことが必要です。
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コラボは「世界を広げるため」にある
推しが誰かと仲良くしていることを、「脅威」として見なくてもいい。
それはあなたの推しが、他の誰かにも素敵だと思われている証拠でもあります。
ファンの心が広がれば、推しの活動もより自由になる。
“誰といても推しは推し”と信じられる場所こそが、一番長く応援できる居場所なのです。