運命と言う名の呪い
全ては掌の上だとしても
「君は、運命の番を大義名分にして双方の婚約者を傷付け、両家の金を使い込み周りに迷惑をかけまくったから地獄行きで〜す!500年程罰を受けたら、現世からやり直し!」
そう嬉しそうに告げる見目だけは麗しい上司に、僕は溜息をついた。
ここは人間達の言うところの『神の世界』の入口である。
現世で番と出会い、神の世界に来る資格が出来た者達の最後の審判の場だ。
そして僕は、この入口の門で我らが創造主に審判を任されている上位使者の補佐をやっている。
「はぁ〜、今日も疲れた。」
「お疲れ様です。」
そう言いつつ漏れがないか今日のリストを確認し、上司に淹れておいた冷たいハーブティーを差し出した。
「ありがと〜!やっぱり君は気が利くなぁ。前の後輩ちゃんは、ドンドン病んでって仕事にならなかったから困ったもんだったけど。」
ハーブティーを一気に飲み干し、そう愚痴りながら頭を撫でられた。
主の代理として審判を下すこの上位使者は、常に冷静な判断が出来るように非常に冷酷な性格に作られているそうだ。
それでいて誰もが惹かれる見た目とフレンドリーさで、やってきた人間を有無を言わさず裁き圧倒するのだ。
見目だけは良いので触られても悪い気はしないが、正直ちょっと怖い。
「今日も酷いのが多かったですね。主が『この世界全てが人間への試練』だとちゃんと告げているのに、何故今の人間は運命の番が絡むとあんなに横柄になるのでしょうか ?」
昔はもっと、番と出会うと手を取り合い善行に尽くす人間の方が多かったと聞く。
それが今では、番の為に親兄弟までも裏切ったり他人を傷付け、まるで自分達が神のように振る舞う人間が増えた。
「主のお言葉がねじ曲がって伝わっているのだろう。だが、それもまた人間達への試練だよ。」
そうどうでもよさそうに言うと、上司は大きく伸びをした。
この世界の創造主は残酷だ。
自分が決めたルールに則り、自分が完璧だと認めた人間だけを自分の箱庭で飼い殺し、それを見て自分は他の世界の神より立派な世界、素晴らしい人間を作った偉大な神だと満足する為だけに下界で人間達を何度も試練と言う名の振るいにかけているのだ。
人間の魂は、いつか擦り切れて消えてなくなる。
消えてなくなるのが早いか、主に認められて天国と呼ばれる箱庭でペットのように魂が擦り切れるまで安全に飼われるか。
私は、それを判断する為だけの存在として作られた。
主が満足する人間を見極める為だけの存在、主の思考と嗜好を植え付けられた劣化コピー。
でも、私にも人間のように心がある。
何万年と見てきたこの世界で、番とでなくとも幸せな人生を歩んだ人間、番なんて関係なく他を愛する人間、罪を受け入れ立ち直った人間、他にも沢山の人生を見てきた。
それらは皆、確かに私の心を動かした。
彼等は、本当に不合格なのだろうか?
確かに、魂は半分しかないかもしれない。
だが、それでも彼等は個として他と触れ合い、互いを尊重し、助け合い、しっかりと生きている。
それを、主は何故見ようとしないのか。
主が求めていたのは、そういう人間達ではなかったのか?
番という存在も本来は人間に手っ取り早く愛を教える為のモノだったハズなのに、今となっては振るいの一つでしかないのだ。
今はもう、彼の方が何を考えているのか分からない……。
私に出来るのは、番という『門への切符』を手に入れた人間達を裁く事だけ。
それでも、今を必死に生きている彼等が少しでも報われる事を心から願っている。
それから二千年の後、一人の上位使者を筆頭に創造主への反逆が起きた。
他の世界の神をも巻き込んだそれは千年にも及ぶ激しい戦いへと発展し、創造主が敗れ消滅するとそこから新しい神が生まれる。
新しい神を使者達は新しい主とし、世界は大きく作り変わる事となった。
人間は番の呪縛から解き放たれ、本当の愛を探す。
それは遠い事もあれば、案外身近にあるのかもしれない……。
新しい主と共に新しい世界を見ながら、とある上位使者は少しだけ微笑んだ。
これにて、このシリーズは終了です。
読んでくださった方、ありがとうございました!